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むいむいたん  作者: 無為無策の雪ノ葉
12 むいむいたん

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988/999

12-51 静寂と沈黙と疑念と欺瞞と

―1―


 静まりかえった城内を進む。


 人の気配は――無いな。本当に静かだ。


 さて、と、あてもなく城内をさまよっても仕方ないな。と言っても何処に向かうべきか。


「マスター」

 何かに気付いたのか14型が顔を動かす。

『はい、今、何かが動いた反応がありましたね』

 ユエインがピクピクと獣耳を動かす。それを聞いた14型が、ギギギと擬音が聞こえそうな動きでユエインを見ていた。

『14型、ユエイン、場所は分かるか?』

「マスター、もちろんです」

 14型とユエインが頷く。

『しかし、音に特化した私よりも先に気付くなんて、さすがですね』

「当然です」

 14型の表情は変わらない。あー、でも、こいつ、多分、凄い得意気だよな。先に気付いたことをアピールしたかったのか? ホント、子どもみたいというか、なんだか、ユエインにフォローしてもらったみたいで悪いなぁ。


 俺たちは反応のあった場所へと急ぐ。


 そこは地下室だった。


 地下室の最奥、隠し階段の先――フミコンの魔族としての本体が封印されていた場所。


「おや、ラン王、ご無事じゃったか」

 そして、そこにフミコンが居た。


 ぶよぶよと蠢く足の生えた内臓に寄りかかるように少年姿のフミコンが居た。少年姿のフミコンには怪しい点もおかしな点も見えない。

『ああ、今、戻ったところだ』

「ラン王、他の者達は……いえ、そうじゃのう、ラン王だけでも無事に戻って……む?」

 話していたフミコンの表情が、その途中で驚いたものへと変わる。

「そなたはユエか?」

『私はユエインですが、私をご存じですか?』

 ユエインとフミコンが知り合い? の割にはユエインの方はフミコンのことを知らないみたいだが……。

「いや、分からぬなら良い。こちらの勘違いじゃ」

 少年姿のフミコンは首を横に振っている。ふむ、少し気になるな。が、まずは聞かないと駄目なことがあるからな。


『他の皆は何処に行ったのだ?』

 俺の言葉にフミコンが頷く。

「一部の者達は帝都へと移り住み……」

 ああ、そうか。ゼンラ帝がフロウたちに勝利して帝国を取り戻したんだもんな。中には帝都に戻る人たちもいるか。まぁ、ちょっと行動が早すぎる気もするけどさ。

「一部の者達は港町ツィーディアへ避難し……」

 そうか、俺の予想も、あながち間違っていなかったか。

「残った選ばれた皆々は我が同胞とともに眠ってもらっておりますじゃよ」

 ん?


『眠るとは、どういうことだ?』

「ラン王、言葉通りなのじゃよ。目覚める時が来るまで眠ってもらっておるのじゃ」

 いや、だから、それはどういうことだ?


「マスターの理解力を超えているのです。マスターでも分かるように一から説明するのです」

 14型が世界の壁槍の石突きを地面に叩きつけ、脅す。いや、その、まるで俺が馬鹿みたいに言うのは勘弁してください。


「ふむ。女神は、この世界を沈めて、一度まっさらにして再生させると言った。ならば、わしは、その時を生き延びられるように、この城を障壁で包み、全てが終わった後、皆が生きて目覚めるように眠ってもらったのじゃよ」

 なるほど。って、ん? それだと港町ツィーディアに向かった人々や、帝都に戻った人たち、それに他の住人たちは見捨てるってことになるよな?


「ラン王、他の人々のことをお考えか? 場所には限りがある、全てを救うことは無理なのじゃ。これは仕方のないことなのじゃよ」

 ふむ。そう言われてしまうとな……。


 にしても、まるで、こうなることが分かっていたかのような用意の良さだな。新しく再生した世界で生き延びる人を選別か――まるで神話の物語に出てくる方舟(アークシップ)だな。以前の俺なら、さすがはフミコンって思ったかもなぁ。


『なるほど、そういうことだったのか。すまない、ここに入る時に、その障壁に穴を開けてしまった』

「ほっほっほっほ。さすがはラン王、相変わらずですな! 大丈夫ですじゃよ、すぐにわしが直しておきますじゃ」

 開いた穴を直す、か。直すってことは、俺を外に出さない――ここで、皆と同じように眠りにつけって事だよな。


『フミコン、その眠りだが』

「ラン王、ご心配なさるな。ラン王と女神討伐に向かったお仲間の方々の分くらいは広さを開けて、用意しておりますじゃよ」

 それは用意がいいな。まるで俺たちが負け帰ると分かっていたかのようだ。


 フミコン。


 フミコンが動く。外に出て、俺が開けた障壁の穴でも塞ぎに行くのだろうか。


 フミコンが俺たちの横を抜け、隠し通路へと入ろうとしている。


『ところで、だ』

 俺は、そんなフミコンを後ろから呼び止める。

「なんですかな、ラン王」

『ところで、だ。フミチョーフ・コンスタンタンという名前に聞き覚えはあるかな?』

 フミコンの動きが止まる。

「魔族の同胞の中に、そのような名前のものが居たかもしれませんのう」

 そうか。居ないとは言わないんだな。


「ラン王、そのものがどうかされたのかのう?」

 フミコンは動かない。

『いや、どうもしない』


 フミコン。


 人形狂いのフミコン。


 魔族の殆どが――いや、魔族の全てが永久凍土に封じ込められ、幻影体(アバター)のみが、外の世界で活動していた。唯一、フミコンだけが、この城に封じられ、永久凍土の外に魔族の姿で存在していた。そう、フミコンだけが、外の世界に居た。そして、幻影体(アバター)を開発したのも、古い魔法を知っていたのも、女神のことや星獣のことを知っていたのも――そう、フミコンだけが詳し過ぎている。知りすぎている。


『無形、来栖二夜子、雷月英、安藤優、北条ゆらと、水無月巴、大空坊円緋、リチャード・ホームズ、これらの名前の聞き覚えはどうだろうか?』

「ふむ。ラン王、申し訳ないが、初めて聞く名前ですじゃ。変わった名前ですのう」

 フミコンの動きは止まったままだ。


『そうか。知らなかったのか。フミチョーフ・コンスタンタンと戦った、あの時の9人、そのうちの8人の名前だよ』

 フミコンがゆっくりとこちらへと振り返る。


 その表情は能面のように凍り付いていた。

2021年5月9日修正

子ども見たいというか → 子どもみたいというか

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