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むいむいたん  作者: 無為無策の雪ノ葉
12 むいむいたん

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986/999

12-49 八大迷宮『名を封じられし霊峰』

―1―


 俺たちは扉の先へと進む。すると、すぐにその扉が閉まり始めた。前回と同じだな。


 俺はベランダを見回す。


 ベランダには、上へと続くゴンドラのようなエレベーターが置かれている。空間転移実験の名残なのか、あり得ないものがあり得ない場所に繋がっているな。城の外と中、そして、このゴンドラ。空間が歪んでいるとしか思えない。


 当然だが、状況は前回と同じだな。


 さあ、進むか。


 14型、二夜子、ユエインとともにゴンドラへと入る。すると落下防止用か、自動的に金具が降りて止まり、ゴンドラが動き始めた。


 ゆっくりと揺れながらゴンドラが上へと動いていく。周囲の風景を見れば、木々の並ぶ尾根と、遙か遠くに消えたはずの世界樹が見えた。雨季ではなかったはずなのに、透けて見えるような雨が降っていた。なるほど、この見えている景色は立体映像か何かなのか。これを作った者は世界樹が消えることなんて想定していなかったのだろう。そして、もう一つ分かるのが、世界樹が作られた後に、この迷宮が作られたってことだな。


『不思議な光景ですね』

「絶景やね」

 2人はのんきなものだ。

『いえ、二夜子。このゴンドラは動いているのに動いていない、それが不思議なんですよ』

 と思ったら、意外とユエインはしっかりと状況を把握しているようだ。


『ユエインが言うように上へと上昇していると見せかけて、何処かに転送しているのだろう』

 景色が作り物ってことはそういうことなんだろうな。

「ほえー、そうなのかー。で、ランちゃん、それに何の意味があるん?」

『意味なんてないだろうな。何かのオマージュとか、そういった状況を再現しているだけの無意味な演出だろう』

 多分、ゲームでこういうシーンがあるとか、そんな感じなんだろうな。外からゴンドラやレールが見えなかった理由を理解した。と言っても、だから、どうしたって感じなんだけどな。


 ゴンドラが止まる。


 そこは山頂だった。


 石の舞台が作られており、その周囲には円形状に石柱が立ち並んでいる。空を見れば――そこには青空が広がっていた。以前は、こちらの心をかき乱すような暗雲が立ちこめていた気がするんだが、その姿がないな。


 見ようによっては石櫃にも見える石の舞台には石で作られた扉があった。そして、その扉の前には見覚えのあるものが落ちていた。


『あれは!』

「ランちゃん」

 ああ、分かっているさ。


 ここからでも、この距離でも分かる。


 俺と二夜子、ユエインが駆け出す。


 石櫃の前に置かれていたのは、旧式の軍帽と短銃だった。他には何もない。迷宮の主の姿は見えなかった。


 俺は知っている。


 俺は、これを知っている。


『これは無形隊長の……?』

 ユエインの言葉に二夜子が頷く。


「ランちゃん」

 そして、二夜子が空中でくるりと一回転、人型へと変わる。

『二夜子、お前、その姿は?』

 二夜子がゆっくりと軍帽と短銃へと歩いて行く。

「疲れるからね。余り、この姿にはなりたくないんよね」

 そして、軍帽と短銃を手にする。しかし、二夜子が軍帽を手にした瞬間、短銃は光に包まれ、霧散した。二夜子は残った軍帽をくるりと回す。

「でも、今は、そうするべき時やと思うんよね」

 そして、こちらへと振り返る。


 二夜子が、旧式の軍帽を手に持ったまま、俺の方へとゆっくりと歩いてくる。


 そして、俺の頭の上に、その旧式の軍帽をのせた。

「ランちゃん、似合わない」

 二夜子がニシシと笑う。


 ああ、そうだな。こんな姿で俺がこの帽子をかぶっても似合わないだろうさ。


『でも、その帽子はあなたが持つべきだと思います』

 ユエインは俺の横で狐姿のまま笑っていた。ユエインは二夜子みたいに人化出来ないみたいだからな、仕方ないな。というか、二夜子が特殊すぎるだけだな。


 ……無形隊長、確かに譲り受けたからな。


「マスター、迷宮が崩壊を始めたようです」

 いつの間にか俺の背後に14型が控えていた。そうか。光となって消えた短銃が、無形の残滓として――迷宮の主の代わりとして、この迷宮をつなぎ止めていたのか。今、それが消えた。


「あー、疲れた。14型ちゃん、運んで」

 二夜子がくるりと一回転し、元の羽猫の姿へと戻る。そのまま、背中の羽をぱたぱたと動かし14型の肩にぶらさがる。14型は心底嫌そうな表情を作っているが、追い払ったりはしないようだ。


「マスター、早く脱出を」

 ああ、そうだな。崩壊を始めた以上、この迷宮にとどまることは出来ない。さて、どうやって脱出するか、だが、普通に転移で飛べるんじゃないかな。


 ここってさ、本当に霊峰の山頂だろうからな。世界樹の外周部分から普通に《転移》スキルで移動できたように――ここも同じだろう。

 そういうところには縛りが設けられてないんだよな。世界樹の外周から無理矢理登って攻略できるとかさ。そういう手段を想定していなかったのか、それとも想定済みで残しておいたのか。ゲーマーな葉月だからな、後者かもしれないな。


 しかし、これで霊峰が消滅するんだよな? いきなり山が消えるんだから、ナハンの人々は驚くだろうなぁ。まぁ、今はそれどころじゃないか。

 しかし、だ。世界樹も消えて、これで霊峰も消えるのか。ナハン大森林の名物が二つもなくなるんだよな。景観的には残しておきたかったなぁ。まぁ、今更か。


「ほら、ランちゃん、はよう、はよう」

「マスター、余り考え事をしている時間はないと思うのです」

 二夜子と14型が考え事をしていた俺をせかす。それを見てユエインが苦笑していた。


 はいはい、それじゃあ、戻るか。


 俺は《転移》スキルを発動させる。さあ、これで八大迷宮は全て攻略――そう、全て解放した。


 次に行くべきところは決まっているよなッ!

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