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むいむいたん  作者: 無為無策の雪ノ葉
12 むいむいたん
985/999

12-48 八大迷宮『名を封じられし霊峰』

―1―


 次々と鳥居を抜けていく。こうしてみると空間転移実験の残骸ってのも理解出来るな。

「サクサクやね」

『急いでいるからな』

 人が魔獣に変わる現象が起こり始めているからな。それを解決するためにも急ぐ必要がある。と言っても、あいつの設けた、この世界を水没させてリセットするって宣言した期間は、有って無いようなものになっているだろうけどさ。まぁ、そちらも油断は出来ない。


 次々と進むべき、正面の鳥居の数が減り、選択肢が限られていく。まぁ、間違えることはないな。これがさ、葉月が仕掛けた罠だったら、最後の最後で、今までのセオリーが通じないとか、そういう嫌がらせがありそうだけどさ、多分、今回は無いだろう。

 この鳥居の裏で魔素が渦巻いているってのも、空間転移のために必要だから起こっている現象だろうしな。


 最後の鳥居を抜けると、そこは崖の上だった。俺の背後は切り立った崖になっており、その先端に戻るための鳥居が立っていた。そして、正面は岩陰になっており、そこがくり抜かれ、岩山の中へと続く洞窟が口を開けていた。

 薄暗い洞窟の入り口にはいつもの台座が置かれている。


「ここの迷宮は他と比べても極端に難易度が高いんやね」

『そうですね。竜なんて、物語では一番凶悪な敵として描かれることが多いですからね』

 まぁ、ここは竜が住む霊峰って扱いなんだろうさ。確かに他の八大迷宮よりも難易度は高いが、そこは入れる期間を限定することで調整しているんじゃないか?


「まぁ、倒しているのは14型ちゃんなんやけどねー」

「当然です。マスターが動く必要の無い雑魚の露払いは、この私の当然の仕事なのです」

 14型が得意気だ。うん、助かってるよ、14型。


 飛んでくる蝙蝠や蛇の魔獣を払いのけ、洞窟を進んでいると、その先から明かりが見えてきた。そして、奥に進むほど、周囲の温度が上がっていく。

「熱くなってきた」

 二夜子は舌を出してぐったりとしている。

『ここも、かなり暑いですね』

 噴火口が近いからな。君らみたいな天然の毛皮に包まれているとキツいかもな。


「ランちゃん、氷!」

 二夜子さん、わがままっすねー。羽猫の時から、こんな感じで喋っていたのだろうか。まぁ、その時は14型しか理解出来なかったんだけどさ。


 今回も氷の壁を作り、その上端部分を竜泉の大剣で切り落とし、二夜子とユエインに渡す。

「このご恩、忘れないにゃー」

『助かります』

 だから、二夜子、何でお前は、あざとくにゃーっとか言っているんだよ。


 洞窟を抜け、すり鉢状になった道を、紫の溶岩を――その上に作られた城を目指して降りていく。

「溶岩の上に城があるなんてファンタジーやねぇ」

『狂気の沙汰ですね』

 俺も狂気の沙汰だと思うよ。葉月のことだ、何か思惑があって――いや、何らかのジョークで作ったんだろうさ。


 城へと続く巨大な跳ね橋が見えてくる。橋の下の紫色の溶岩はぐつぐつと嫌な音を立てている。吹き上がった紫の炎の柱が、その跳ね橋を飲み込むが、ビクともしていなかった。魔法的な溶岩だからな。火属性無効の橋とか、そんな感じなんだろうか。


 吹き上がる紫の炎のタイミングを見計らい橋を渡る。そして、巨大な門を抜け、城前へと滑り込む。

『ここは魔法的な炎なのに熱を持っているのですね』

 あれ? そう言えばそうだな。紫の炎なんだから、熱いのは――何か燃やしているのか? うーむ。まぁ、考えても答えは出ないな。もしかすると、この紫の溶岩の下に何かあるのかもしれないな。しかしまぁ、それは、今の俺には関係のない話だな。


 溶岩城の扉の前には、緩やかな弧を描く剣を掲げた大きな騎士鎧が立っていた。やはり、復活しているか。周辺の魔素を使って復活している関係上、何度か倒せば復活しなくなるだろうけどさ。今回は、そんな余裕は無いからな。

「マスター、行きます」

 14型が駆け抜ける。大きな騎士鎧が動き出す前に、14型の世界の壁槍に貫かれていた。14型が、そのまま大きな騎士鎧を持ち上げる。そして、世界の壁槍を振り払い、紫の溶岩へと投げ落とした。

 大きな騎士鎧が溶岩に飲み込まれていく。今更のように動き出した騎士鎧が体から紫の炎を吹き出すが、そのまま溶岩の中へと沈んでいった。さすがは14型、馬鹿力だな。しかし、こうすれば瞬殺出来たのか。前回は微妙に苦労した気がするんだけどなぁ。


 14型が溶岩城の扉を押し開ける。


 さて、と。


 確か、ここは、三つの通路から像を取ってくるのが正規ルートだったよな。猿の像、犬の像、鳥の像だったかな。

 俺は通路を無視して円形状に並んでいる台座の前に立つ。

「ランちゃん、ここの攻略って置物がいるんやないの?」

 二夜子が首を傾げている。そう言えば、前回、ここを攻略した時に羽猫も一緒だったか。

『確かに、普通ではそうだろうな』

 そうなんだよな。


 必要なんだよな。


 だから、作る。


 俺は周囲の魔素を集め、猿の像、犬の像、鳥の像を造り出す。前回、見て触って、どんなものかは覚えているからな。今の俺なら――ここまで来た俺なら複製も可能だ。

「もう、何でもありやね」

 二夜子は呆れたような顔で俺を見ている。


『14型、前回と同じように像を置いてくれ』

 俺は14型に作成した像を手渡す。

「にしても、これはあれやね。鬼に立ち向かう犬、鳥、猿って――まるで童話みたいやね」

 ここは葉月が作った迷宮だ。間違いなくそうなんだろうな。

「そう言えば、うちらもそんな感じやね。うちが鳥、ユエインが犬かな」

『私が犬ですか?』

 狐姿のユエインは首を傾げている。羽猫を鳥扱いも無理があると思うけどな。しかし、となると猿は……。


 俺と二夜子は14型を見る。14型が猿かぁ。猿かぁ。

「マスター、何やら不穏で不快な視線を、その小さな生物から感じるのです。そちらのものをひねり潰す許可が欲しいのです」

 いつの間にか14型が二夜子の前に立っていた。二夜子が怯えたように後ずさっている。

「14型ちゃん、プレッシャーが、プレッシャーがやね」

『14型、像は置けたのか?』

「マスター、目も悪くなったのですか? 見れば分かることを確認するのは悪い癖だと思うのです」

 はいはい。


 すでに三つの像は置かれており、くるくると回り始めている。


 そして、置物の動きが止まる。それに合わせて、二階の扉がゆっくりと開き始めていた。


 さあて、最後へと向かいますか。


「ランちゃん、きびだんご、ちょうだい」

 八大迷宮、最後の決戦に向かう俺の横では、14型に無残な姿で運ばれている二夜子が、のんきにそんなことを言っていた。こいつは、ぶれないなぁ。

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