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むいむいたん  作者: 無為無策の雪ノ葉
12 むいむいたん
984/999

12-47 八大迷宮『名を封じられし霊峰』

―1―


 ユエインに頼み、なるべく魔獣と出会わないようにしながら樹海を駆ける。魔獣は――出来れば殺したくないからな。


 樹海を走っていると奥に燃え上がる炎が見えてきた。

「ランちゃん、あれ!」

 威厳のない姿で14型にぶら下がっていた二夜子が、ある一点を指さす。ああ、見えてきたな。


 赤く、赤く、空を焦がしそうな勢いで煌々と輝いている。赤い炎の中に所々、紫の炎の姿も見える。現実的な炎と魔法的な炎って感じなのか?


「樹にお祝いの言葉が彫られてるんやねー」

 二夜子が感心したように、うんうんと頷いていた。


 へー、って、そこかよ。


『漢字ですね』

 そっかー、漢字かぁ。漢字なのかぁ。俺の見間違いじゃなかったんだぁ。

「何でお祝いの言葉なんやろうね」

 羽猫姿の二夜子は首を傾げていた。多分、葉月のよく分からないジョークだろうさ。こちらを馬鹿にして楽しんでいるんだろうな。


 さらに炎を目指して樹海を進む。

「熱くなってきた」

 二夜子は舌を出してぐったりとしている。

『かなり暑いですね』

 君ら2人は天然の毛皮に包まれているからな。


『炎が赤いだろう? 魔法的な炎ではなく、実際に燃えているから暑いのだろう』

 魔法的な紫の炎なら、属性が火ってだけで熱くはないだろうからな。まぁ、属性的な火でも、そこから燃え広がって、何かを燃やし始めたら熱くはなってくるだろうけどさ。


「原理が分かっても熱いのは熱いんよねー」

 二夜子はぐったりしている。だらしない。こいつは気合いが足りないよなぁ。


 俺はアイスウォールの魔法を使い氷の壁を作る。その上端部分を竜泉の大剣で切り落とし、二夜子とユエインに渡す。

「お、おお、ひんやりやね」

『確かに冷たいですね。しかし、これも魔法的なものなら冷たいのはおかしいですね』

 つららを受け取ったユエインが首を傾げている。本来の、風と水の属性を複合しただけの氷魔法なら、その通りだろうさ。でも、これは、氷は冷たいものだって、俺の思い込みが作用しているからな。結局、この世界、こうだって思い込みが一番強いんだよ。それが一番、魔素へと働きかける。この氷の壁を切り落とした時に、普段のように粉々にならず形が残ったのも同じだな。


 そして、樹海を抜け、まばらに木々が生えた岩肌が見えてきた。


 岩山には石畳の道が作られており、その道を塞ぐように赤い炎が燃えていた。やはり、所々に紫の炎が混じっている。この魔法的な紫の炎が、この炎を燃え広がらないように制御しているのだろうか?


 雨季にだけ道が開くってことだったけどさ、多分、違うんだろうな。前に来た時にも思ったけどさ、周期があっているから通れる――なんだろうな。


『行ってくる』


 俺は炎の前へと歩いて行く。確かに熱い。俺の青々とした肌が焼けそうだ。


 さて、と。


 俺は炎へと――炎の中へと進む。


 魔素の流れを見て、この世界を形作っている魔素に接触して、直接、流れを変えていく。


 赤い現実的な炎? 確かに、そうだろう。


 だが、それすらも、魔素で作られた偽物だ。この世界の全ては魔素で作られている。


 俺は、それに干渉していく。


 浸食していく。


 流れを変え、そのまま引き裂く。


 炎が、空を燃やすほどの赤い炎が、別れ、道を作る。

「おー、凄い、凄い」

 二夜子は肉球と肉球をあわせてぺちぺちと拍手をしている。

『先を急ぐぞ』

 というか、急いでください。これ、多分、余り、長くは持たない。サクッと炎を抜けてくれ。


 14型と二夜子、ユエインが炎の間に作られた道を駆け抜けていく。俺もその後を追いかけていく。そして、俺たちが炎の間に作られた道を抜けきったところで、その道が閉じられた。元の炎の壁へと戻る。何とか出来たな。


 にしても、帰りも同じ事をやるのはキツいなぁ。頂上から《転移》スキルで移動できなかったかな? あー、崩壊を始めたら、何とかなるか。


 ……。


 うむ、今は余り考えないようにしよう。


 山肌に作られた石畳の道を進んでいく。

「マスター、情報を検索します」


 山道を進んでいくと、やがて大きな八つの鳥居が見えてきた。


「空間転移実験の残骸だと思われるのです。エラー、情報のアクセス権限を越えています。情報の検索が出来ません」

 そう言えば、ここって転送されるような仕組みが多かったな。それに建物とかの位置関係が微妙におかしかったような……?


 俺たちが居た時でもフミチョーフ・コンスタンタンは転送して襲ってくる機械兵器を作っていた。そう言えばグレイシアの城にも、戻るための転送装置があったな。この八大迷宮は、どの迷宮にも転送の台座があったし、ここの鳥居はもろに、その転送を使った仕組みだ。

 魔素を使えば転送くらいは、普通に可能なのだろうか?


 多分、出来るんだろうな。


 フミチョーフ・コンスタンタンくらいの天才なら、それが可能なんだろう。八大迷宮にも、その元になった施設にも、生き残ったあいつが関与していた可能性が高いな。


 八つの鳥居が並ぶ広場に人の姿はなかった。当然だな。今の、この、炎によって塞がれた時期に、他の冒険者がいるはずがない。それに今は迷宮を攻略するどころの話じゃないからな。まぁ、俺たち以外は、って話だけどさ。


 さ、答えは分かっている選択だ。


 サクサクと正解の鳥居を抜けていくか。

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