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むいむいたん  作者: 無為無策の雪ノ葉
12 むいむいたん
983/999

12-46 八大迷宮『名を封じられし霊峰』

―1―


 霊峰の麓へと降り立つ。


 さてと、今は雨季ではないから、うん、そのままだと奥へ侵入出来ないはずだよな。ただ、そこは俺に考えがある。


 白い霧のような、そんな結界に守られた樹海へと足を踏み入れる。樹海といっても、霧の結界によって道が作られているからな。自由に動けるわけではなく、結局、行く先が決められた迷宮なんだよなぁ。


 木と木の間に作られた道を進む。


「マスター」

 と、そこで14型の足が止まった。ああ、分かっている。


 パキリパキリと地面に落ちた小枝を踏みならし、自身の存在を隠そうともしない。


 そして、それは現れた。


「あが……、ひ、ひと? 魔獣?」

 それの口から言葉が漏れる。


 そうか。確かに、ぱっと見だとさ、14型が人に、俺や二夜子、ユエインは魔獣に見えるよな。


「マスター」

 14型が動こうとするのを、俺は手で止める。


「たず、たず、たずげて」

 現れた、それは人だった。そう――人だったものだ。


 右半身にツタが絡みつくような姿へと異形化している人だった。


「あが、あが、あがーーー」

 俺たちの目の前で人がツタに覆われていく。


 人が、化け物へと、魔獣へと姿を変えていく。何かに寄生されたから、魔獣に姿を変えた――って訳じゃないんだろうなぁ。


 俺は魔獣へと姿を変えた人の元へと歩いて行く。


「ランちゃん!」

 二夜子が叫ぶ。大丈夫だ。


 生まれたのはツタが絡みついたトレントのような魔獣。俺は、振り回すツタを躱し、その魔獣へと歩く。そして、俺は、その魔獣の体に触れる。小さなまん丸な手で触れる。


 これが出来なければ、この先には進めないはずだ。だから、今、俺は、この機会を利用させてもらう。


 俺は生まれた魔獣の中の魔素の流れを見る。迷宮都市では助けられなかった。俺の力が足りなかった。だが、今ならッ!


 俺は、人の中の魔石に杭のように入り込んだ因子を引き抜いていく。魔素の流れを変え、作り替え、元の――人であった頃の形へと戻していく。


 魔獣の体が、その体が黒い液体へと変わり、剥げ落ち、その中から人の体が現れる。


 成功だ。


 成功した。


 気絶している人に回復魔法を使い、しばらく待っていると、その目が開いた。

「あ? ひっ、魔獣!」

 そして、そのまま後ずさる。


「マスター」

 その反応に14型が世界の壁槍を構えた。いや、だから、すぐにさ、攻撃的になるなってば。

『大丈夫だ。自分は星獣様だ』

 俺の言葉を理解してくれたのか、目を覚ました男は、必死にうんうんと頷いていた。しかしまぁ、今更、星獣か。我ながら、何というか、白々しいな。


『何があった?』

「この迷宮で狩りをしていたんだ。そしたら、急に体が……」

 狩りをしていた、か。まぁ、雨季になっていなくても、この樹海部分なら問題無く入り込めるもんな。

『仲間は?』

「俺が、俺の姿が変わった時に、逃げ出しやがった。俺を置いて、ちくしょう、ちくしょう、あいつらっ!」

 逃げ出した、か。この男には同情するけどさ、仕方ないよなぁ。俺みたいに助けるすべがあったとは思えないし――逃げ出すか、迷宮都市の時のように介錯するか、それしか選べないだろう。


 しかしまぁ、この男は、何で、この時期に迷宮に入ったのやら。

『外のことは――女神のことは知らないのか?』

「まだ、雨季にも、女神の休息日にもなっていないはずだ。俺たちが迷宮にこもっている間に何かあったのか?」

 そうか。ずっと迷宮に居たから気付かなかったのか。何という、間の悪さ。まぁ、この男の言葉を信じるなら、だが。


『一人で戻れそうか?』

 ここまで来て、この人を送るためだけに里へと戻るのはなぁ。

「あ、ああ。だが、出来れば、何か武器を……」

 あー、確かに、それは不安になるか。


『普段は何を使っている?』

「短剣だ」

 短剣か。それなら、何とか出来るか。


 俺は周囲の魔素を集め、鉄のような鉱石を作る。そして、それをクリエイトインゴットの魔法でインゴットに変える。うーん、余り品質は良くない、か。天然物じゃないから、仕方ないな。


 それを鍛冶スキルを使い、短剣に作り替える。


『あり合わせだが、里に戻るくらいなら大丈夫だろう』

 男は驚いた表情で作成した短剣を眺めている。


 驚く気持ちは分かるよ。ホント、何でもありだもんな。この世界が魔素で作られているって分かったからこその何でもありなんだけどな。


「あ、ありがてぇ。でも、いいのか?」

『冒険者は助け合いだろ?』

 そうだ。俺もこの世界には助けられたからな。


 男が短剣を持ち、立ち上がる。

『逃げた仲間を……』

「わかってるさ。恨みはするが復讐はしねぇ。冒険者のルールは分かってる」


 そして、助けた男は何度もお礼を言い去って行った。


「ほえー、ランちゃん、凄いんやねぇ」

『ですね』

 男が去ったのを確認すると置物のように動かなかった二夜子とユエインが口を開いた。男を驚かさないために黙っていたのか?


『余計なことで時間を取られた。急ぐぞ』

 しかし、人が魔獣になる、か。何か、俺が居なくても何とかなるような手段があればいいのだが。

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