12-44 八大迷宮『二重螺旋』
―1―
大きく透明なカプセルが並ぶ実験施設を進む。
『これは、余り見ていて楽しいものではないですね』
「そうやね」
こんな実験施設の跡地なんてさ、この世界の裏側というか、確かに見ていて楽しいものではないよな。
先に進もう。
透明なカプセルが並ぶ通路を抜け、次の部屋へと進む。さらに小部屋を抜けると、余り広くない部屋に出た。周囲は石壁という、いかにも迷宮といった作りになっている。
俺の正面には扉が二つ。右と左。そして、その扉と扉の間に、女性の顔を持ち、猫の胴体、鳥の羽を持った石像が置かれていた。まるでスフィンクスだな。
そして、スフィンクスの相変わらずよく分からない質問。
えーっと、前回はどうしたんだったかな。
フミコンに連絡して、その指示に従って、右、右、右、右、右、左、右、左、右、だったかな? 確か、そんな感じだったような。俺は記憶力はそれなりに良いからなッ!
前回と同じように進む。
道は終わらない。
「ランちゃん、これ……」
二夜子が口を開く。
言うな、言うな、言うんじゃない。
『同じ場所をくるくると回っている感じですね』
あ、はい。
もしかして、俺の記憶が間違っていたのか? 順番が違っていたのか?
……。
うーむ、どうしようかな。
「ランちゃん、もう一度行ってみよう」
二夜子の言葉で、もう一週することになった。
「なるほど、そういうことやね」
『ですね』
二夜子とユエインが頷きあっている。14型は無言だ。何か分かったのか?
二人の言葉に従って、扉を選んでいく。
そして、俺たちは巨大な両開きの扉がある部屋に辿り着いた。
『結局、何が答えだったのだ?』
俺の言葉を聞いた二夜子は、もったいぶって、ニシシと笑っている。ホント、小憎たらしいヤツだな。
『問題自体に意味は無くてですね……』
「あー、ユエイン、言ったら駄目なんよー」
二夜子、こいつは……!
もったいぶっている二夜子とため息をついているユエインの前に14型は無言で立っている。
『で、答えは?』
ほら、14型さんも聞きたがってるから早く答えるのだ。
『最初の、出だしの言葉で、右と左に別れているみたいですね』
えーっと、つまり?
あー、なるほど。
本当に問題には意味が無かったのか。あー、やっと俺も理解した。そういうことだったのか。だから、あの時、問題を全て聞かず、出だしだけで右と左を言い当てていたのか。
言われてみれば、そんなことだったのかって内容だけどさ。気付かないよなぁ。
……。
『先に進むぞ』
そう、答えも分かってすっきりしたことだし、先に進もう。
……。
何だろう、14型の俺を見る目が優しい気がする。いや、無表情なのに。いやいや、俺は――俺だって、時間をかければ分かったはずだからな? な?
『さ、先に進むぞ』
「了解です、マスター」
14型が俺の方を見たまま、両開きの扉を押し開ける。むむむ。言いたいことがあれば、言うのだ14型よ。
―2―
扉の先は真っ暗闇だった。
俺たちが暗闇の中を進むと、突然、ガタンという何かが外れたかのような音が響き渡った。
そして、警報が鳴り響く。
俺たちの足元が、床が振動している。
部屋に光が灯る。俺たちの足元から、上へ、俺たちを追い越していくように次々と灯った光が通り過ぎていく。ガイド灯か?
「エレベーター?」
『物資搬入用を想像させますね』
採掘現場とかにありそうな剥き出しのエレベーターみたいな感じだよなぁ。
何もない空間に俺たちが乗っている板が浮いている。
そして、俺たちの目の前に――空中に四角い箱が現れた。現れたな。
一つだけだった四角い金属の箱から、新しい金属の箱が生まれていく。箱が分裂するように生まれ、螺旋を描きながら連なっていく。箱から箱が生まれたわけではなく、縦に長く、一個にしか見えないように重なっていたのか?
次々と同じサイズの四角い箱が連なり、まるで蛇のようだ。
長く伸びた無数の四角い箱が動き、形を変えていく。
それは漢字の不と縦棒がくっついたような姿だった。
『梵字みたいですね』
知っているのかユエイン?
梵字って、梵字ってさ。そう言えば、円緋のおっさんって坊さんみたいだったもんな。そのつながりだろうか。
そして、四角い金属の箱の正面が開いた。
金属のはこの中にはまん丸な球体が埋まっている。無数の金属の箱の中央一つだけが橙色で、後の箱は全て黒色だった。
そして、俺は、その橙色の球体目掛けて、すでに準備していた世界樹の弓に番えていた矢を放つ。
レーザーのように、ほぼ、まっすぐに飛んだ矢は、橙色の球体を貫き、爆発させる。橙色の入った四角い箱が空中を転がり落ちていく。
抜け落ちた箱の部分を埋めるように隣の箱が動く。そして、再度連結する。
金属の箱の一つの黒い球体が裏返り、橙色に変わる。そして、それを待ち構えていた俺は、次の矢を放つ。
相手に攻撃はさせない。
放つ、放つ、放つ。
次々と金属の箱を壊し、残る一つとなる。
最後に残った四角い金属の箱がこちらへと迫ってくる。そして、その巨大な箱が、こちらの足場と連結する。
中の球体が、丸まっていた人型が、起き上がる。
さあ、待っていたぜ。
速攻で、たお……。
しかし、俺の攻撃よりも早く、丸まったゴーレムが発光する。ちッ、そちらの方が早いかッ!
ゴーレムから光線が放たれる。しかし、その光線は途中で止まっていた。見れば、俺の腕輪が光っている。そうか、この腕輪、もしかすると、魔法無効、スキル無効なのか? 多分、そうなんだろうな。
腕輪の光が消える。効果は一瞬だけか。まぁ、その一瞬を稼いでくれただけで充分なんだけどな。
俺は《永続飛翔》スキルで飛ぶ。
下から上に、竜泉の大剣で丸まったゴーレムを打ち上げる。そして、俺は浮き上がったゴーレムに真紅妃を――無限の螺旋を解き放つ。コアを穿たれ、風穴を開けたゴーレムが、その姿を光へと変えていく。
俺は手を天へと伸ばし、周囲へと散らばった魔素を集める。ゴーレムを形作っていた魔素を集めていく。
『円緋、聞こえるか?』
円緋のおっさん、久しぶりだな。
俺の言葉に答えるように、集めた魔素がほのかに青く光る何かへと姿を変えていく。
『この姿、それに、その声、それがしは』
青い光が明滅し、やがて人の形を――青く透明な人の形を作っていく。
『今、解放する』
俺の姿を見た青い影が大きく笑う。懐かしい笑い方で、俺に笑いかける。
『それがしもセンパイに助けられたか!』
ああ、そうだよ。こんな形でしか助けられなくて――すまない。
『その様子だと、まだ戦いは終わっておらぬか』
円緋のおっさんの笑い声とともに、俺の背に袈裟のような巻き付く形のマントが生まれる。
『これは……?』
『それがしの思いが少しでも力になれば、と』
ありがとう、円緋のおっさん。
青い影が薄れていく。
『センパイ、気にするな。後悔せぬように、お主はお主の道を突き進むのだ』
その言葉とともに青い影は消えた。ああ、そうだな。
あんたまで俺を先輩呼びしていたけどさ、あんたの方が、俺よりよっぽど人生の先輩だったよ。
ありがとう。
あんたが俺たちの後ろを守ってくれて、凄く心強かったよ。
あんたの意思、確かに受け継いだからなッ!
2021年5月9日修正
すきっりしたことだし → すっきりしたことだし




