12-42 ただ駆け抜けた後のお食事
―1―
島へ、八大迷宮『二重螺旋』のある島に渡るための洞窟へと入る。
進む。
チロチロと海水が流れる薄暗い洞窟を進む。
その洞窟を住処にしているであろう牙の生えた虎型の魔獣、触手を持った大きな瞳の魔獣、腐った蠢く死体、剣と盾を持った骨の騎士――数々の魔獣たち。
そして、そんな現れた魔獣たちを14型が蹴り飛ばし、吹き飛ばし、無視して、そのまま薄暗い洞窟を駆ける。
「快適やねー」
『本来はもっと大変でしょうね。至る所から何かが蠢く反応があります。ものすごい数ですね』
その割には余り多くの魔獣とは出会わないな。いやまぁ、まったく出会わないとは言わないけどさ、ものすごいってほどではないよな。14型が謎のセンサーを使って敵や地形を感知しながら進んでいるのか? 今の14型ならあり得そうなのが怖いなぁ。
複数の通路に別れ、複雑に入り組んだ岩肌の迷路を、まるで最初から答えを知っているかのように駆け抜けていく。まぁ、急いで攻略したい今なら、サクサク進むのは助かるな。
流れる海水と湿り気を帯びた岩肌の迷宮を進む。
至る所に大きな穴が開いた広間を抜け、そして出口へ。思っていたよりも長かったな。
陽射しがまぶ……しくないな。もう夜だ。赤い月が煌々と輝いている。
俺が異世界だと思い込んだ原因の一つ、2つある月、か。欠けた月と赤い月。いくら、ここがさ、葉月が再構成した世界だとしても、赤い月なんて、今までの世界にはなかったものだもんなぁ。
「このまま向かうのですか?」
珍しく14型が俺に確認してくる。
『いや、村があった場所は覚えているな? 先にそちらへと向かう』
そろそろ休憩が必要だ。いくら、俺や14型が、余り休憩をしなくても良い体だって言ってもさ、さすがに何日もぶっ続けで迷宮を攻略しているからな。急ぎ何とかしないとって想いだけで頑張ってきたけどさ、それで無理をしすぎて、馬鹿らしいヘマをしても洒落にならないしな。
「マスター、了解です」
14型が森を駆ける。
日が落ち、暗闇に包まれた森の中を駆けていく。
「やあ、旅人さん。良か……」
こんな暗闇の中でも狙っていたかのようにマンイーターが現れる。
『14型、無視だ』
俺の言葉を受け、拳を握り上げていた14型が、その拳を降ろす。そして、そのままマンイーターを無視して駆ける。
『無視ですか。それなら、私が周辺の情報をある程度調べておきますね』
14型に掴まれていたユエインが獣耳をピクピクと動かす。
ユエインと14型の力を借り、島を、森を、進む。
やがて日が昇りはじめる。そして、村が見えてきた。
村には――誰も居ない。
以前、俺たちが出会った白い蛇の星獣の姿はない。
そうか、そうだよな。
あいつも星獣。となれば、星の神殿に召喚されていただろうし、ここに居ないのも道理か。あの戦いの余波で死んでいなければいいが……。
……。
『14型、ここで休むぞ』
「了解です、マスター」
タイミング悪く日は昇ってしまったが、ここで食事と睡眠を取るかな。
狐姿のまま器用に手足を動かして調理をするユエインと、それを手伝う14型。羽猫姿の二夜子は、料理を手伝うことなく、毛繕いをしてくつろいでいた。
『二夜子は手伝わないのか?』
「この姿だからねー。ランちゃんこそ、手伝わんの?」
俺は小さな手を横に伸ばす。
『この姿だからな。難しいのだ』
そうなんだよなぁ。手伝いたいけど、難しいのさ。って、二夜子、お前、人型になれるんじゃないのか? 人型になって手伝えばいいじゃん。
「ランちゃんも、見えない手があるから、手伝えるんやないの?」
いや、こういうのはだな、料理できる人に任せた方がいいんだよ。素人が無理に手伝おうとすると邪魔にしかならないんだって。
「マスター、料理が出来ました」
14型が俺たちを呼ぶ。にしても14型が料理、か。以前は効率だけを求めていたのに、変われば変わるものだなぁ。当初のポンコツぶりから考えると随分と成長したよな。それとも元に戻った――これが本来の14型だったのか?
「どうしたのです、マスター? 餌を待っているひな鳥のような無能で情けない顔をしているのです」
いや、餌を待っているひな鳥は愛らしいからな。無能ではなく、仕方なく――って、そうじゃない。
『いや、14型も有能になったな、と思っていたのだ』
「マスター、私ははじめから有能だと思うのです」
はいはい、14型はそうだよな。
「と言いたいところなのですが、これは姉さまたちの力を引き継いだからなのです」
14型が胸元に手をあてる。14型の姉である機械人形たち、か。それらを破壊したのは14型自身だ。
俺は姉妹の間で何があったのか、どうして敵対していたのか、その深いところは知らない、分からない。なんとなくは把握しているけどさ。
『14型、引き継いだものを大切に、な』
俺の言葉に14型が優しく、小さく頷く。
俺は空を見る。俺だけではなく、14型も多くのものを受け継いでいる。
「おーい、ランちゃん、早く早くー」
『ああ、二夜子。もう少しゆっくりと』
「にゃにゃにゃ、熱いぃぃ」
『ほら、二夜子。今は猫舌なのを忘れているからですね』
あいつらは何をやっているんだ。
はぁ……。
「早くしないと、ランちゃんの食べる分も食べちゃうんよ」
そうだな、今は食事を楽しもう。
俺は皆の元へと歩く。
明日は八大迷宮『二重螺旋』の攻略だな。
サクサクと終わらせて解放するからなッ!