12-38 八大迷宮『二つの塔』
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二つの塔。
魔法を封じる塔、スキルを封じる塔、二つに分かれた塔。
光の属性をメインとした八大迷宮の一つ、二つの塔。
俺たちの前に、砂漠の流砂へと飲み込まれるように交差した二つの柱が迫る。
「行きます」
14型が二夜子の背中を駆け、そのまま飛び降りる。メイド服をはためかせ、塔の一つに作られた窓のような入り口へと飛び込む。
早いなぁ。
「ランちゃん、こっちもやねー」
二夜子がもう一つの塔の横へとつける。そして、そのまま光り輝き、小さな羽猫の姿へと変えていく。俺とユエインは転がり込むように塔の中へと入り込む。さあて、こちらが魔法が封じられる塔だな。だよな? 14型が間違えていなければ、そうだよな? スキル封じの方の塔だと、今の俺の状態でも苦戦は必至だろうからなぁ。
室内を確認する。余り広くない室内には左手側に壁へと沿うような形で螺旋階段の入り口が見える。そう言えば、こちら側の塔を攻略するのは初めてか? 以前はバーン君に頼んだよなぁ。
サクッと攻略するつもりだったが、油断は出来ないな。
『急ぐぞ』
俺の言葉に二夜子とユエインが頷く。そして、ユエインが俺の頭の上に、さらにその上に二夜子が駆け上がる。
『準備完了ですね』
「ランちゃん、こっちの準備はばっちりやね!」
いや、あの、俺は、お前らの乗り物じゃないんだけどなぁ。ホント、童話の音楽隊かよ。まぁ、いい、進むか。
俺は《永続飛翔》スキルを使い螺旋階段を降りる。急がないと14型に遅れてしまうからな。あいつのマスターとして、あいつより先に進んでおきたい。あいつより遅れるのは、気分的に、な。
《永続飛翔》スキルで駆け下りた先は広間になっており、その中心部に、ぶよぶよと蠢く謎の肉塊があった。そして、肉塊には何かの幼虫が這いずり回っており、その肉塊を蝕んでいた。グロいなぁ。
「ランちゃん、あれは無限再生を繰り返す失敗作みたいやね。先への道を封じてるんかな?」
無限再生、か。バーン君が突破したはずなのに復活しているのは、それが理由かな? それとも迷宮の魔獣だからだろうか。
とにかく、壊さないと先に進めないから、うん。
しかし、直接破壊するのは、なぁ。ぶしゃぁって液体とか浴びそうだし、ここは、弓か。
世界樹の弓を取り出し、魔法で作成した矢をつがえる。
放つ。
放つ。
放つ。
矢を放つたびに肉塊が削り飛び、体を這いずり回っていた幼虫ごと吹き飛ばす。おー、凄い威力だ。さすがだぜ、リッチ。
最後まで砕け散った肉塊をアイスコフィンの魔法で包み込み消し飛ばす。さてと、ここまでは魔法が使えるから、こういった処理の仕方も出来るけどさ、それも、ここまでなんだよなぁ。
肉塊の下にあった蓋を《魔法糸》で持ち上げ、開ける。中には下へと降りる金属の梯子があった。さあて、ここからが魔法禁止エリアかな。まぁ、スキルが使えるから、俺なら何とでもなるか。
《永続飛翔》スキルで梯子の先へと降りる。周囲は薄暗いが、今の俺ならば問題無い。
降りた先の円形の広間では白い紙で作られた人型が歩いていた。紙のゴーレムって感じだな。まぁ、無視できそうだから、無視、無視。
そのまま《永続飛翔》スキルで飛び、円形の部屋から伸びている通路へと入る。その先の螺旋階段も飛び降りていく。
螺旋階段の先の広間を抜け、さらに新しい螺旋階段へ。現れる白い紙のようなゴーレムは全て無視する。動きはそれほど早くないからな。どんどん進むぜ。
螺旋階段を降り続けると金属の扉が見えてきた。
俺は《魔法糸》を飛ばし、その力で無理矢理こじ開ける。
金属の扉の先は広いドーム状の室内になっていた。中央にシェルターのような建物があり、そこから橋が八方向に伸びている。橋の下は何かの液体で満たされているようだ。スキル封じの塔と同じような作りだな。
となれば、謎解きも似たような感じかなッ!
俺は《永続飛翔》スキルで伸びた橋の先へと飛ぶ。その途中、下の液体から、手を伸ばすように液体の触手が伸びてくる。しかし、《永続飛翔》スキルの速度より遅いッ! 俺は駆け抜ける。
そして、橋の先――こじ開けるように開かれていた金属の扉の先には、重そうな金属のレバーがあった。扉をこじ開けたのはバーン君たちかな? 迷宮の罠自体は元に戻っているようだけど、壊した部分はそのままなのか。それとも、これは直りきる前だったのだろうか。
重そうな金属のレバーを《魔法糸》で無理矢理動かす。俺、脳筋じゃないからなぁ、力仕事は苦手なんだよな。そこは14型やミカンの仕事だよな。
水位の減った部屋を《永続飛翔》スキルで駆け抜け、もう片方の橋へ。そして、その先にもあった重そうな金属のレバーを動かす。
何かが排水されるような大きな音が響く。先ほどのエリアにあった水が消えたんだろうな。
さあて、これで先に進めるようになったかな?
南側の橋を駆け抜け、螺旋階段を降り続ける。
長く、長く、長く、長ーく続く螺旋階段を降り続けると終わりが見えてきた。またも中央側に進む通路に出るようだ。
通路の先には観音開きの大きな金属の扉が見えた。
そして、大きな金属の扉の左右には2体の白い巨人が立っていた。門番か。
なかなか強そうだ。
白い巨人が動く。
白い巨人の手が動き――俺は危険を感じ、とっさに後ろへと飛び退く。
「あ、ランちゃ――」
二夜子の言葉。
次の瞬間には俺の頭の上に乗っていたはずの二夜子が何かに囚われ、空中に浮いていた。見えない何かが光を反射している。糸――か?
二夜子の体に巻き付いた見えない糸が締まる。そして、そのまま、体を切り裂いた。へ?
え?
二夜子の、小さな羽猫の体が、バラバラになった。
う、嘘だろ……?
次の瞬間、バラバラになった肉片は霧のように消え、俺の目の前で元の羽猫の体に再生していた。
「死ぬかと思ったぁ! 完全復活してなかったら、やばかったよ、やばかったよ!」
羽猫が俺の目の前でパタパタと羽ばたきながら胸をなで下ろしていた。いや、俺も死んだかと思ったぞ。マジで心配したぞ!
『下がっていろ』
「ランちゃん、結構、強敵みたいやから、気をつけて」
二夜子とユエインが螺旋階段の辺りまで下がる。
確かに、結構、強敵みたいだな。
俺は真紅妃と黄金妃を解放する。
巨大な蜘蛛と空飛ぶ羽蟻が生まれる。
『片方は任せた』
サクッと片付けてやるぜッ!
2018年8月4日修正
君に頼んだったよな → 君に頼んだよなぁ
何かが排水されるよな → 何かが排水されるような




