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むいむいたん  作者: 無為無策の雪ノ葉
12 むいむいたん
972/999

12-35 始まりの地で始まったこと

―1―


 そう、来栖二夜子だ。


 小さな羽猫の姿をしているが、それは、確かに来栖二夜子だった。

『お前は……』

「ランちゃん、会話は後やね」

 二夜子は俺をランと呼び、そして、こちらへとパタパタと小さな羽をはためかせて飛んでくる。そして、そのまま俺の頭の上に収まった。

「まずは、崩壊するここから脱出やね」


 迷宮の主を失ったため、『空中庭園』が崩壊を始めている。


 いや、失ったか?


 俺の頭の上に収まった、コレは何だ? 迷宮の主だったものじゃないのか?


 違う扱いなのか?


 俺の疑問はともかく、迷宮は崩壊を始めている。揺れ、崩れ、その姿を魔素へと変え始めている。人が造った恒星間移民船だったとしても、その素材は世界が崩壊した後の物だから、か。そう言えば、『空舞う聖院』も『世界の壁』も、『世界樹』の人工部分も、同じだったな。どうあがいても、魔素で造られた物でしかないのか。

 魔素で作られていないものは、その魔素という容器に入れられた人の魂くらいだろうか。


 人の魂という見えない物が存在するとしたならば、だがね。だが、俺は、それを信じたい。


「マスター、脱出します」

「14型もただいまやね」

 二夜子が俺の頭の上で14型に手を振っている。いや、そこで手を振られると視界が遮られるんだが。

「マスターの隣を許したわけではないのです。今回も、緊急時のため、そこにいることを許しているだけなのです。ですが、お帰りなさいなのです」

 14型が世界の壁槍を背中にまわし、俺とユエインを持ち上げる。そして、そのまま駆ける。


 崩壊を始めた八大迷宮『空中庭園』を駆ける。


「ランちゃん、ここを抜けたら、うちと同調して飛ぶよ」

 頭の上の二夜子が俺の頭をぺしぺしと叩いている。いや、同調って、いきなり言われても困るんだけどさ。

『その声、本当に二夜子なんですね』

「ユエもただいまやねぇ」

 頭の上の二夜子はのんきにそんなことを言っている。って、そう言えば、こいつ、何で喋っているんだ? ユエインは念話だし、俺も天啓を使わないと喋ることが出来ないのに、どういうことだ?


 崩壊する八大迷宮『空中庭園』を駆け抜け、そして、外へと出る。


「ランちゃん、飛ぶよ!」

 二夜子の言葉と共に、俺の中に何処か見知らぬ場所の風景が流れてくる。草木も見えない、黒い岩肌だけの風景。何処だ、これは?


 そして、俺は、その見知らぬ場所へと転移する。大きく、空へと飛び上がり、そのままその地へ。


 転移スキルの力で、その謎の場所へと降りる。


 ここはナハン大森林の近くか?


『二夜子、ここは何処だ?』

 見渡すばかり、何もな……いや、アレは?

『二夜子、まさか、ここは?』

 そう、この場所は。

「始まりの地やね」

 始まりの地。


 そう、俺たちが、フミチョーフ・コンスタンタンと戦った、あの隕石だ。不思議なことに、俺たちが乗っていたアマテラスの残骸が、そこには残っていた。そう、何年も、何千年も経っているはずなのに、その残骸が残っていたのだ。


『あれはアマテラスですか?』

「そうやね。今は迷宮と化しているようなんやけどね」

 迷宮化しているから、残っている?


『二夜子、何故、この場所に……』

「ゆっくりと会話出来る場所が必要やと思ったんよね。ランちゃん、聞きたいこと多いでしょ?」

 いや、そうだけどさ。それは確かに凄く気になる。だけど、それよりも、だ。

『八大迷宮『空中庭園』は沈んだ。上に乗っていた首都ミストアバンは無事だったのだろうか?』

 そうなんだよな。俺は、迷宮が崩壊することを誰にも伝えていない。いや、天竜族のウルスラがいるから大丈夫だとは思うが、それでも、何か起きていたら? 俺は急ぎ戻り、そのことを伝えるべきじゃないのか?


「マスター、構造計算から付着した上部は問題ないと断定出来るのです」

 ほんとにぃ?

「マスターの今の空っぽの脳みそでは計算能力が足りないため、想像出来ないと思うのですが、間違いないのです」

 誰が空っぽだよ。

「ランちゃん、アルファゆずりの14型ちゃんの計算を信じるべきやね」

 頭の上で二夜子が笑っている。だから、お前はいつまで俺の頭の上にいるんだ。こいつ……。何を言っているか分からなかった羽猫の状態ならまだしも、普通に喋れるようになると、一気に小憎たらしくなるなぁ。


『分かった。神国のことは信じよう。では、改めて二夜子、これはどういうことだ?』

「そうやね」

 俺の頭から二夜子が飛び降りる。


 そして、そのままくるりと一回転。小さな羽猫は光に包まれ、そして、その姿を変える。


 そこに立っていたのは元の来栖二夜子、そのものだった。いや、少し幼くなっているか?


『その姿は?』

「この方が会話しやすいと思ったんよ。あまり長くは維持出来ないんやけどねー」

 人の姿。


 本当にこいつ、何者なんだ?


「改めまして、うちは来栖二夜子やね。かつて、みんなと共に第七魔導分隊として働いた来栖二夜子、本人やね」

 来栖二夜子はにこりと笑う。

「そして、元々の来栖二夜子と別れ落ちてしまった分体の一つやね」

『分体? どういうことだ?』

「焦らない、焦らない。今のランちゃんには全てを説明するから」

 来栖二夜子は、ただ微笑んでいる。

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