12-34 八大迷宮『空中庭園』
前回のあらすじ
ゼノブレイド2をクリアした。
本当に2だった。
―1―
『この世界は閉じられている、そういうことですね』
ユエインが言葉を発する。閉じられている、か。この世界は言うなれば、葉月が創った妄想の世界だからな。
『閉じられているのか』
「はい、マスター。空に宇宙はなかったのです」
空に宇宙は無い、か。なんだか哲学的な気分に浸れる言葉だな。上位存在が葉月の記憶を元に作り直した世界を、葉月が好き放題に作り替えた先にあるのが、今のこの世界だろう? つまり、宇宙までは存在しなかったってことか。
まるで、ゲームの世界で見えない壁があるように、か。
は、はは。
ははははは。
現状の再確認が出来て、さらに絶望感が増したよ。葉月をどうにかしたとして、それで、どうなる? 結局、何の解決にもならない、元の世界が戻ってくることは無いって、そういうことじゃないか。
俺たちは現実にここにいて、世界があって、生きているのに、なのに、それは偽りでしかない。まるでゲームや物語の世界の登場人物にでもなった気分だよ。
……。
それでも、それでも、俺はやるべき事をやるしか、ない、か。
諦めることは出来ない。
『この迷宮の主がいるのは何処だと思う?』
「マスター、制御室だと思われるのです」
14型は断定する。まぁ、同系統である八大迷宮『空舞う聖院』でも、制御室だったもんな。ここも、同じか。
『14型、道が分かるようなら、案内を頼む』
「マスターは、この場所を探索済みだったと記憶しているのですが、仕方ないのです」
14型はため息でも吐いてそうな言葉を並べ、そのまま俺を持ち上げる。いや、だからね、俺は赤ちゃんじゃないんだから、持ち上げる必要が、ね? あのー、14型さん。
さらに、何かに気付いたのか怯えるように震えているユエインの首を掴み、持ち上げる。ユエインさんも早く諦めるといいぜ。
そして、駆けた。
恐ろしい勢いで風景が流れていく。
『何故、私はこのような扱いなのでしょうか?』
ユエインが俺へと疑問を飛ばす。いや、だからね、俺に聞かれても分からないのです。俺だって、こんな扱いだしさー。
以前の時に倒されたであろう機械の残骸が散らばる通路を駆け抜け、制御室へと走る。そうか、機械が魔獣のように復活することはないのか。まぁ、修理して再起動ってことはあるのかもしれないけどさ、でも、そのための動力は、以前の時にアオが引き抜いて無くなっている状態だろうし――だから、放置、か。
長く続く通路を抜けた先に扉があった。
「アクセス」
14型が扉を開ける。
開かれた扉の先には一匹の魔獣がいた。
――いや、星獣か。
羽の生えた巨大な猫。まるで意思を持たぬ人形のような作り物めいた虚ろな瞳で、何処とも定まらぬ虚空を眺める羽猫。
やはり、お前が、ここの主だったか。
多分、前回の時に、主がいなかったのは、フウキョウの里を守っていた星獣であるファー・マウがちっこい羽猫であるエミリオを残していたからだろう。迷宮の主が生存しているから、復活しなかった。
そして、今、ここに主がいるということは――エミリオは死んだ。
葉月との――あの女神と戦った時に囚われ、そして、元々の迷宮の主として再構築させられたということだろう。俺と旅をしたエミリオは、その存在を消され、ただの迷宮の主である星獣になってしまったということか。
目の前の羽猫の瞳に赤い色が宿る。こちらを敵として視認したのだろう。
……。
いいさ、解放してやるよ。
この囚われた運命から解放してやるさッ!
『襲ってくるようですね』
『彼女が来栖二夜子だ』
俺の言葉にユエインが驚いたような表情でこちらを見る。おー、狐顔だと驚きも表現出来るんだなぁ。
『14型、魔石の位置は分かるか? 一撃で仕留めるぞ』
俺の言葉に14型が頷く。そして、俺とユエインを地面に置く。いや、だから、俺は物扱いなのかよ。
羽猫が翼をはためかせる。それにあわせて次々と赤い刃が生まれ、こちらへと飛んでくる。
目の前に赤い刃が迫る。
一瞬にしてこちらへと飛んで来た赤い刃を、それこそ同じように一瞬にして俺たちを庇うように前に立った14型が、それらを世界の壁槍で撃ち落としていく。
羽猫がなぎ払うように赤いブレスを吐き出す。14型が俺を持ち上げ、ユエインを掴み、大きく後方へと飛び、それを回避する。
赤――風の属性か。そう言えば八大迷宮『空中庭園』は風の属性の迷宮だったか。
……。
アレ?
そう言えば、ちっこい方の羽猫って風属性だったか? なんとなく光属性だったような? 光属性の迷宮は『二つの塔』だったよな? 何か、何か関係があるのか?
「マスター、行ってきます。しばらくお待ちを」
14型が羽猫と距離をとり、改めて俺たちを地面に置く。いや、だから、お前、そのマスターを物扱いするなって。
14型の姿が揺らぐように消える。そして、気付いた時には羽猫の懐にいた。14型が手に持った世界の壁槍を突き出す。
静かに、流れるように――そして早く、槍が消え、次には、優雅にお辞儀をしている14型がいた。
一瞬にして羽猫の魔石は貫き破壊される。
いや、何というか、14型さん、強いですね。ゼロの力を引き継いで覚醒したよなぁ。もう14型に任せれば、全て大丈夫だって感じだな。
と、感心している場合か。俺は俺のやるべき事をやらないとな。
俺は《永続飛翔》を使い、14型の横へ、光り輝き魔素へと霧散していく羽猫の前へと立つ。
俺は手を天へと伸ばし、周囲へと散らばっていく魔素を集める。羽猫を形成していた魔素を集めていく。
そして……。
光は俺を無視して小さな塊へと姿を変えていった。
それは、いつもの小さい羽猫だった。
へ?
小さな羽猫が前足で顔を洗い、そして口を開く。
「助かったんよー。危うい賭けやったんやけどねぇ、勝ったようやね」
その小さな羽猫から発せられた言葉は来栖二夜子のものだった。
2018年8月2日修正
光り属性だったような? → 光属性だったような?