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むいむいたん  作者: 無為無策の雪ノ葉
12 むいむいたん
969/999

12-32 あー、こいつが出てくるか

―1―


 ネウシス号がクリスタルパレスの中庭へと降り立つ。それを待っていたかのように、次々と城の騎士たちが現れ、ネウシス号が取り囲まれる。えーっと、囲まれちゃった!


 これはヤバいか?


「ま、俺様が話をつけてくるからよぉ」

 ファット船長が動く。いやいや、ファット船長は猫人族だよな? 俺よりはマシだろうけど、大丈夫か? 大丈夫なのか?

「マスター、私も話をつけてくるのです。こちらでお待ちください」

 何故か14型も動く。えーっと、14型も一緒だと、不安が二倍になるんですが。いや、だってさ、14型に交渉とか無理だろう。と言っても俺やユエインはもっと不味いだろうしなぁ。最悪、強行突破するか?


「一応、外の景色は出したままにしておくからよ」

 そう言い残してファット船長と14型はネウシス号から降りていった。外の状況が見えるようにしてくれているのは、不味くなったら強行突破しろってことだよな?


 ファット船長と14型がネウシス号の外に出ると、すぐに取り囲んでいた騎士たちが槍を構えた。おいおい、これはヤバいんじゃないか。問答無用って感じか?

 しかし、そこで騎士たちの動きが止まる。取り囲んでいた騎士たちをかき分け、騎士鎧に身を包んだ女の子が現れた。偉そうだ。うん、凄く偉そうだ。


 シリアだ。シリアだな。俺は、あまり関わり合いになりたくないシリアだな。えーっと、そういえば、セシリーが不在の間、その女王業の代行をしているとか、そんな感じだったか?

 まぁ、でもさ、シリアなら、俺のことを知っているし、上手く話をすれば、通してもらえるか。


 ファット船長がシリアに何事かを伝えると、シリアは凄く大きなため息を吐いていた。女王の代行で疲れているのかな?


 シリアが手を上げる。それにあわせて騎士たちが警戒を解き包囲を緩めた。おー、何とかなったか。知っている人がいるってのは心強いね。


 さあ、これでさっそく八大迷宮『空中庭園』の攻略に……。


 と、そこで騎士たちがにわかに騒がしくなった。ん? どうした、どうした?


 ネウシス号を遠巻きに見ていた騎士たちが一斉に膝を付き頭を下げる。シリアも慌てたように膝を付いていた。突然のことに驚きぼーっと立っているファット船長と無駄に偉そうな14型が対照的だった。


 そして、跪いた騎士たちの奥から光り輝く天使の羽を持った少女が現れた。


 天竜族のウルスラッ!


 ここで、ここでやってくるのか。こいつ、凄いものぐさだったよな? いつものように引きこもっていればいいのに、今更、何のようだ?


『控えよ』


 ウルスラから念話と威圧が飛ぶ。ファット船長が、その迫力に押され、ゆっくりと膝を付く。おや、意外と悔しそうな顔をしているな。まぁ、俺様キャラだもんな。誰かに威圧されて膝を折るのは屈辱か。

 14型はピクリとも動かない。まぁ、14型だもんな。


 ウルスラは動かない14型を見て、少しだけ眉をしかめていた。

「人形か……」

 そして、そう呟いているように見えた。まぁ、天竜族のウルスラなら機械人形である14型を知っていてもおかしくないか。


 ウルスラがどかどかとこのネウシス号へと歩いてくる。えーっと、頭を下げていて誰も見ていないと思って、威厳も何もない姿で歩いてくるなぁ。


 そしてネウシス号まで来たウルスラが、その外壁を叩く。

「おいこら、出てこい」

 えーっと、何なの、この人。

「いるのは分かってんだよぉ」

 ウルスラが容赦なくどんどんと叩き続ける。やべぇよ……やべぇよ。こいつ、やべぇよ。

「手間かけさせんじゃねぇよ。燃やすぞ、ごらぁ」

 凄く猛ってらっしゃるんですが、天使のような少女の姿だと、全然、怖くない。むしろ滑稽である。


 と言うか、俺、何かしたか?


 いやまぁ、女神である葉月には喧嘩売ったけどさ。それくらいじゃん。


『外に出なくても大丈夫なのでしょうか?』

 常識人ぽいユエインがそんなことを言っている。でもさ、ウルスラって女神側の人間だからなぁ。下手に出て行って何かされたら危ないしなぁ。


「でてこいよ、でてこいよぉ」

 ウルスラのネウシス号を叩いていた動作が緩慢となり、そのまま疲れたようにネウシス号へと寄りかかる。そして顔を伏せ肩をふるわせていた。泣いているのだろうか?


 そして、そのまま座り込み……、


「はぁ、たりぃっすわー」

 と頭を掻いていた。すぐに諦めて座り込むとか、根性が無いなぁ。引きこもっていた影響だろうか。


 こういう姿を見ると威厳とかゼロだなぁ。一応、この国のトップだろうに……。


 にしても、何で、こいつはネウシス号に乗り込んでこないんだろうか。ネウシス号の乗り込み方を知らないとか――まさかね。


『ユエイン、ネウシス号を降りるぞ。一応、用心だけは』

 俺の言葉にユエインが頷く。


 そして、ネウシス号から降りる。空からやって来た船から下りてくるのが芋虫と狐とか、何というか、なんだか、アレだよなぁ。


『ウルスラ、久しいな』

 まぁ、この姿で会うのは初めてだけどな。えーっと、初めてのはずだよな?

「お前が世界の敵(ワールドエネミー)ですか。らしい姿をしているよーですね」

 座り込んでいたウルスラが顔を上げニヤリと笑う。さっきまで必死にネウシス号の壁を叩いていたとは思えない表情だ。


『何のようだ?』

 用事があったから、わざわざ出てきたんだよな、この引きこもりは。

「あー、はいはい、要件、要件ねー」

 ウルスラは立ち上がり、何か言いづらそうに、その場でくるくると回っていた。

『こちらも忙しいのだが』

 忙しいのだった。と言うか、ウルスラは敵だからね、敵側だからね。俺が優しく待ってあげる必要も無いんだよなぁ。


「あー、アレだよね、アレ。身内がどうなったか……」

 身内、か。セシリーや紫炎の魔女ソフィアのことだろうか。それともスターマインやルナティック、ソルアージュなどの女神の使徒のことだろうか。

『セシリアとソフィアなら女神セラの元にいる』

 未だ、捕まったままだ。

「いや、その……」

 三人の使徒の方か。そうか、そう言えば、あの三人はウルスラの父親に当たるのか。

『スターマイン、ルナティック、ソルアージュの三人なら倒した』

 倒した? いや、殺しただな。

「あー、そうか。そうですよねー」

 ウルスラは乾いたように笑い、空を見る。


 しばらく、空を見続け、そして、ゆっくりと俺を見た。

「あー、お前はここの迷宮に用があるんでしょ? 私が周囲を威圧してる間に行ったら?」

 確かに騎士たちが下を向いて控えている今なら、普通に迷宮に入れるか。


『14型、ユエイン行くぞ。ファット船長は申し訳ないがネウシス号で待っていてくれ』

2021年5月16日修正

今だ、捕まった → 未だ、捕まった

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