12-31 神国の首都ミストアバンへ
―1―
ファット船長と14型の案内で迷宮都市内に墜落したネウシス号の元へと向かう。迷宮都市の至る所が崩れ、煙が上がっており、これからの復興の難しさを感じさせた。全てが終わったら、グレイシアからも出来る限りの援助をしないとな。
「急ぐぜ」
珍しくファット船長が全力で駆けている。
「遅いのです」
それでも14型の移動速度と比べたら、かなり遅いんだけどな。
ネウシス号が墜落した場所は迷宮都市内の中心部に近く、意外とすぐに辿り着くことが出来た。
迷宮都市の建物に突っ込んだ状態のネウシス号を見る。外装は――そんなに傷があるようには見えないな。建物から見えている部分の状態だけどさ、それでも傷があるようには見えないな。ステルス戦闘機のような外見はそのままだ。
『ファット船長、壊れているようには見えないな』
ファット船長を見ると、船長自体が驚いていた。
「何でだよ」
いや、俺が聞きたいけどさ。
「こんなこともあろうかと自己修復させておいたのです」
凄く、凄く、14型が得意気だ。表情は変わらないけどさ、凄く得意気なのが分かるんだよなぁ。にしても自己修復か。こう、ナノマシーン的なものが直してくれたのだろうか。いや、この世界だと魔素かなぁ。何でも魔素でなんとかなる世界だしな。
「後は最後の仕上げをするだけなのです」
修理に時間はかからないって、こういうことだったんだなぁ。
「ま、いいんだよ。俺様のネウシス号が直ったなら、それでいい。さあ、行くぜ」
俺とファット船長、ユエインと共にネウシス号に乗り込む。
14型は外で最終チェックをしているようだ。有能だな。うん、有能だ。
「動力充填中よぉぉぉ!」
何故かファット船長がノリノリだ。ああ、壊れたと思っていた相棒が、殆ど完治していて目の前にある状況だもんな。ノリノリにもなるか。
『大丈夫な方なんでしょうか?』
何故かユエインが不安そうな顔で俺の方を見ている。あー、今はテンションがおかしくなっているだけだから、だけだからッ!
「マスター、修理完了です」
すぐに14型が戻ってくる。早いなぁ。こんな風に、本当に、すぐ修理が終わるとは思っていなかったんだぜ。
「さっそく動かすんだよぉぉぉ」
だから、ファット船長、そのテンションはなんなんだ?
ネウシス号が動き出す。突っ込んだ建物から逆噴射よろしく飛び出し、空へと舞い上がる。いや、不思議な感じで動くね。前から、こんな感じだったかなぁ。
ま、まぁ、とにかく、これで神国へ出発だ。いやぁ、何だろう、その場のノリで、そのまま出発してしまったが、これで良かったんだろうか。ヤズ卿に挨拶をしたりとか、おっさん連中のフォローをしたりとか、全て投げ出しているけど、えーっと、まぁ、うん、多分、大丈夫だ。だって、迷宮都市は冒険者の本拠地だもんな。色々と図太い冒険者の国だから大丈夫なはずだ。うん、うん。
……。
後でフォローに来よう。
―2―
ネウシス号が全力で進み、迷宮都市と神国の境目である刹那の断崖へとさしかかる。刹那の断崖に住む飛竜たちが、こちらに気付き襲いかかってくる。しかし、その飛びかかってきた速度よりも早くネウシス号が飛んでいく。おー、高速、高速。これならすぐに神国の首都に到着するな。
刹那の断崖を抜けると、何処からか竜に乗った竜騎士が飛んできた。ファットがネウシス号の速度を落とす。それにあわせて竜騎士がネウシス号と併走する。
『ファット船長、大丈夫なのか?』
「だ、大丈夫だ、だぜ、よぉ!」
ファット船長が、先ほどまでのテンションと違い、少しだけうろたえながらも俺の方を見る。いやいや、それ、本当に大丈夫か。
ネウシス号と併走している竜騎士が、何か小さくため息を吐き、前方を指さす。進めってことか?
「ほら大丈夫だったんだよ」
何故か、ほっとしたようにため息を吐いているファット船長であった。あ、ああ、確かに大丈夫だったな。
ネウシス号は、手を振っている竜騎士を後にして、さらに進む。
もう、ここからは神国か。
「このまま神国の首都ミストアバンのクリスタルパレスまで飛ぶぜ。行き先は、そこでいいんだよな?」
ああ、頼むぜ。一応、八大迷宮『空中庭園』のあるクリスタルパレスまでは学院の方からでも行けるけどさ、結局、その首都にあるクリスタルパレスに行くわけだからな。それなら、直接、そちらに向かった方が正しいだろう。
ネウシス号は神国の上空を何事もなく通過していく。うむ、確かにこれなら、ファット船長が言っていたように任せて良かったな。
やがて海に落ちた首都のミストアバンが見えてくる。さあ、目指すは、その中心クリスタルパレスだな。
あー、でもさ、神国の首都のミストアバンって、八大迷宮『空中庭園』の上に作られた都だよな? これ、八大迷宮『空中庭園』を崩壊させたら不味いんじゃないか?
うーん、でも、今は、以前と違って、空に浮いていないからな。海上だし、なんとかなるかなぁ。上の首都部分は迷宮じゃないからね。そのまま浮いたままかな。た、多分、大丈夫だよな?
駄目だった時が怖いなぁ。
それこそ世界の敵って呼ばれていたのが正しいって言われかねないな。
……。
ま、まぁ、その時は、その時で、何とかなるように考えよう。
「さあ、クリスタルパレスだ。中庭に降りるからよぉ」
ファット船長がクリスタルパレスの中庭へとネウシス号を進める。攻撃とかされなくて良かったぜ。それに中庭なら、他の人に見られずに、そのまま八大迷宮『空中庭園』に挑めるしな。
一応、セシリーの方針で、ある程度は、普人族以外にも友好を掲げていくって言ってもさ、昔からの方針がすぐに変わるわけじゃないだろうからなぁ。特に貴族連中なんて、納得していない連中も、まだまだ残っているだろうしさ。
こっそり、忍び込めるなら、それが一番だ。
さあ、次は八大迷宮『空中庭園』だな!