12-29 八大迷宮『名も無き王の墳墓』
―1―
俺は目の前の騎士鎧を見る。
騎士鎧は手に持った長剣を正眼に構える。綺麗な――長い鍛錬によって培われた技術を感じさせる構え。
そして、そのまま、その場で長剣を振るう。
横切り、袈裟斬り、斬り上げ、斬り降ろし、斬り上げ、そして――突き。
星を描くような剣の軌跡。流れるような一連の連続技。全ての行動が最後に繰り出される必殺の突きへと繋げるための動作になっている。
フェイトブレイカー。運命を壊す一撃。
俺が、この迷宮で取得した剣技。元は、安藤優が使っていた剣技――だよな? それの発展系だよな。俺がヒントを渡したことで優が閃いたこともあった。でもさ、あいつなら、あいつなら、自力でたどり着いていたはずだよな。
こんなダークロードとしての化け物の力なんて、手に入れなくてもな!
辿り着いていたはずだったんだよッ!
『見事な技だ』
ああ、完璧な、完璧な技だ。約束の通り、ドヤ顔していいぜ。
俺は真紅妃を舞台に突き刺す。真紅妃、悪いけど、ちょっとだけ待っててくれよ。これは、剣と剣の勝負だからな。
騎士鎧は手に持っていた長剣を俺の方へと投げ放ち、腰に差していた二本の剣を抜き放つ。
いつも悪いな。お前の剣、借りるぜ。俺はサイドアーム・ナラカで長剣を持つ。重いからね、俺の手で持つのは無理だから、そこは勘弁してくれよ。
勝負だぜ。
俺は騎士鎧へと駆ける。
騎士鎧が二本の剣を振るう。素早く、鋭い剣の軌跡が、次々と描かれる。ああ、そうだよな。
俺は剣の軌跡を避ける。見る必要すら――無い。俺は覚えている記憶の通りに剣の軌跡を、次々と繰り出される攻撃を、避けていく。
はは、こんな姿になっても変わらない、か。いや、こんな姿だからこそ、かつての、そのまま、を、か。
俺が知っている、知っていた、そのままの剣筋の隙間を――抜ける。
知っている、覚えている。
ああ、行くぜ。
以前のように赤い線で軌跡が見えるわけでもない、しかし、俺には、共に戦った記憶が、優と共に、皆と共に、鍛錬をした記憶がある。短い時間だったよ、でもさ、覚えているんだよッ!
ああ、覚えているんだよッ!
俺は騎士鎧の懐へと入る。
お前の技。もう一度、使わせてもらうぜ。
運命を壊す一撃、フェイトブレイカーッ!
サイドアーム・ナラカから放たれる横切り、袈裟斬り、斬り上げ、斬り降ろし――流れるような一連の動作。騎士鎧が衝撃によってよろめき後退する。
そしてッ!
必殺の突きが描かれた星を貫き砕く。
俺の運命を壊す一撃。
サイドアーム・ナラカに持たせた長剣が騎士鎧を、その体を貫いていた。
俺は騎士鎧から長剣を引き抜く。
騎士鎧が光に包まれ、粉となって霧散していく。
今、解放してやるからな。
俺は手を天へと伸ばし、周囲へと散らばった魔素を集める。騎士鎧を形作っていた魔素を集めていく。
『優、聞こえるか?』
俺が言葉をかけたからか、集めた魔素がほのかに青く光る何かへと姿を変えていく。
『優、お前には助けられてばかりだ。こんな世界になった後で、俺がお前のことを忘れてしまっていても、それでも助けてくれてありがとう。そして、遅くなってしまって、すまない』
フェイトブレイカー。俺は、お前の力にどれだけ助けてもらったか。優、お前は、俺がこんな姿になっていても、俺のことが分かったってのに、俺は情けないよな。
『その声は……先輩か?』
ああ、そうだ。
『俺は……死んでいたのか。そうか、そうだったのか』
青い光が明滅し、やがて人の形を――青く透明な人の形を作っていく。青い影が自身の体を、姿を、見る。
『優、すまない。お前を――俺はお前を、囚われた身から解放することしか出来ない』
俺の言葉に青い影が小さく笑った――そんな気がした。
『この世の中はいつだって背水の陣だぜ。先輩、気にするなよ。これが、必然さ』
サングラスもないのに、サングラスを上げた真似をしている。ああ、笑っているんだろうな。
『先輩、まだ終わっていないんだろう?』
ああ、そうだ。まだ、終わりじゃない。
『今の俺では、もう、先輩の力になれない。だから、最後に、受け取ってくれ』
優の言葉と共に、光の中から二振りの剣が生まれる。
『こいつらにも活躍の場を作ってやってくれよ』
竜泉の剣――優の実家に伝わっていた伝説の剣、か。
二振りの剣が、俺の見ている前で重なっていく。光が合わさり、一つの剣へと形を変えていく。
竜泉の大剣。
『先輩、楽しかったぜ』
青い影が薄れ、消えていく。
ああ、俺も楽しかったぜ。
世界が変わって、地獄のような世界の中、俺は、お前たちに出会えて、本当に良かった。良かったよ。
最高に楽しかったよ。
お前の意思、確かに受け継いだからなッ!
2018年7月30日修正
そのして――突き → そして――突き