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むいむいたん  作者: 無為無策の雪ノ葉
12 むいむいたん
965/999

12-28 八大迷宮『名も無き王の墳墓』

―1―


 階段を降りる。どんどん降りていく。


 うーむ、かなり長い階段だな。


 長い階段を14型が降りていく。14型の勢いは止まらない。はい、俺はいつものように運ばれているだけです。まぁ、14型の方が速いから、これは仕方ない。仕方ないんだ。いや、俺だって《永続飛翔》スキルを使えば、一瞬は、そう、少しくらいは俺の方が速いんだからね! 負けてないんだからな。


 途中、何度か踊り場を通り過ぎる。しかし、俺たちは休憩せず、踊り場を無視して駆け下りていく。


 そして、ついに最下層にたどり着いた。ここが終着点。


 しかし、そこは行き止まりだった。いやいや、一番下まで降りたのに何もないとか、嘘だろ。いや、確かにトウモロコシぽいものは転がっているけども、転がっているけどもッ!

 あるのは転がっているトウモロコシぽいものだけ。これだけの為に、長い、長い、超長い階段を降りてきたって言うのか? それとも、これは、俺を馬鹿にする為の残念賞だとでも言うのか!?


『向こう側に広い空間があるのは間違いなさそうですね』

 ユエインが音で作ったマップを見せてくれる。確かに、向こう側には、それなりの空間がありそうだった。しかしなぁ、壁が、壁があるんだよなぁ。


 ちょっとやそっとではビクともしない迷宮の壁。傷がついたとしても、すぐに再生してしまう、そんな特性を持った迷宮の壁。これを力でぶち破るのは無理だ。無理だと分かっているからか、脳筋の14型さんも手を出さない。


 先ほどまでのようなスイッチや何かの仕掛けが無いかを探してみるが、何も見つからない。


 く、遠回りしてしまっただけなのか?


 俺は時間を無駄にしてしまったのか!?


 どうする、どうする!?


 ……。


 ……。


 いや、待てよ。


 迷宮は魔素で作られている。しかも、この迷宮は、他の八大迷宮と違い、既存の施設を使わずに、葉月が魔素を中心として作り上げた迷宮だ。


 八大迷宮が崩壊の時、どうなった?


 魔素となって崩れていったよな?


 出来るか?


 いや、やるしかない。


 こんなことも出来なくて、魔素から世界を創造した葉月に勝てるのか?


 そうだよ、そうだよな。


『14型、ユエインを連れて、この迷宮から脱出してくれ』

「マスター、了解です」

 14型が、俺と一緒になって壁に何か無いかを探してくれていたユエインを捕まえる。

『何をするつもりですか』

 ユエインが驚きの声を上げる。

『ユエインにも会わせてあげたかったが、すまない』

「マスター、ご武運を」

 14型が来た道を――階段を駆け上がっていく。

『何をするんですか! アルファ、あなたのマスターですよね? 無茶を……』

「記憶力も判断力も乏しいマスターですが、私は、そのマスターを信じているのです」

 えーっと、14型さん? 信じてくれるのは嬉しいんだけど、その、しっかり聞こえたんですけど。


 俺が何か言うよりも速く、14型とユエインの姿は消えていた。


 はぁ、あいつは……。


 まぁ、俺は14型のマスターだもんな。信じてくれている期待には応えないとな!


 俺は壁に手をつける。うーむ、手をつけるというか、壁を這っているような状態だな。って、いかんいかん、集中、集中。


 壁を、迷宮の壁を、魔素へと、元に、元の魔素へと、作り替え、戻していく。


 こ、これは、かなり難しいぞ。


 集中力と精密な操作が――注意力散漫な俺には難しい作業だ。


 少し、壁が魔素に変化したと思ったら、すぐに元の壁へと再生してしまう。固定化する力が異常に強い。


 ……。


 いや、地道な作業は俺の得意分野だよな。


 集中力の要る作業だと思わず、地道な、同じ作業の繰り返しだと思え。


 地道に、ただ、それだけをッ!


 俺は道を作る。


 魔素の道を作り、作り替える。


 何度も、何度も、道を作り、作り替える。


 そして、ゆっくりと魔素のうねりに身を投げ出し、壁を、体を、通していく。


 繰り返しだ。


 何度も無心に同じ作業を繰り返し、そして、俺は壁を抜けた。


 俺は振り返り、通り抜けた壁を見る。そこには傷一つ無い、迷宮の壁があった。はぁはぁ、はぁはぁ、凄い疲れた。これだけのこと、ただ、壁を抜けるだけで、こんなにも疲れ果てて――こんなザマで葉月に勝てるのか? 情けないぞ、俺。


 と、疲れている場合じゃないな。


 そして、俺は振り返る。


 ああ、待たせたな。


 俺が壁を抜けた先は大きな舞台になっていた。その舞台の上には、腰に二振りの古めかしい剣を差し、両手で長剣を持った騎士鎧が立っていた。風もないのにマントがなびいている。


 あの長い階段の先の空間がちょうど、この舞台だった? そんな奇跡があるものか。


 俺はな、お前の目の前に立つ為に、お前が居るところまで、直通で壁を抜けてきたんだよッ!


 どうだ、俺も成長しただろ?


 ああ、待たせたな。


 待たせたな、安藤優。


 お前の人生の先輩が、お前の運命を壊す為にやって来たぜ。


『聞こえているか、優! ここが、お前の背水の陣だぜ!』


 俺の言葉に反応するように騎士鎧が動く。


 それは泣いているのか、それとも歓喜なのか。


 ああ、本当に待たせたよな。


 お前からもらったもの、それが巡り巡ってお前に返すことになったんだもんな。不思議なものだよ。


 いま、解放してやるからなッ!

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