12-27 八大迷宮『名も無き王の墳墓』
―1―
表示されたマップを頼りに隠し通路へと向かう。
そこは何もない壁だった。
『この先ですね。音の流れが違いますね』
俺を抱え上げた14型の懐から飛び降り、俺は壁に触れてみる。すると俺の小さなまん丸お手々が壁をすり抜けた。
なんだ、と。
これは気付かない、気付かないぞ。
まるで本物にしか見えない壁を抜け、隠し通路へと出る。もしかして、ここに最下層への近道があるなんて、可能性が……?
隠し通路を進むと、そこはすぐに行き止まりになっていた。
『行き止まりですね』
行き止まりなのだった。よく見ると端っこに、何でも無いような感じでリンゴのようなものが置かれていた。
『リンゴのようだな』
リンゴにしか見えないのだった。
『リンゴですね』
リンゴなのだった。
小さなまんまるお手々で持ち上げてみる。何処からどう見てもリンゴだ。
『何故、迷宮にリンゴが?』
『普通の迷宮には存在しないものなのですか?』
いやいや、それこそ、ゲームじゃないんだからさ。リンゴだよ、リンゴ。
サイドアーム・ナラカでリンゴを持ち直し、一口囓ってみる。うん、リンゴだ。新鮮な味だ。
……。
何で、リンゴが? しかも新鮮な状態で? 迷宮だからか、迷宮だからか? これも葉月流のジョークか、何かなのか?
俺たちは何事もなかったように3階層へと進む。この階層でもユエインが音の反響を利用してマップを作ってくれたので、それを参考にして進む。
『十字路に入るといつの間にか向きが変わるようですね』
うん、ターンテーブルだからね。まぁ、マップが表示できるユエインがいれば、ターンテーブルのトラップに引っかかることはないな。
ユエインの案内で3階層を進むと行き止まりに突き当たった。
『この先に空間があるようですね』
なるほど、隠し通路か、隠し部屋か、そんなところか。って、ユエインさん、俺は別に隠し通路を見つけてくださいって頼んだ訳じゃないんですが、えー、あのー。ま、まぁ、せっかくだから、調べてみるか。
手で触れてみる。ちゃんと壁の手応えがあるな。今度は幻の壁ではないようだ。他に何かあるかな?
よく見ると壁に小さな押しボタンのようなものがついていた。俺はボタンを押してみる。すると目の前の壁が消えた。
壁の先は、本当に、小さな、小さな、小部屋になっており、その片隅に黄色い楕円形の物体が転がっていた。鏡餅の黄色い版みたいだな。
黄色い物体を手に取ってみる。
……。
これ、チーズだ!
チーズだよ!
って、何で迷宮にチーズが?
食材が新鮮なままで迷宮に転がっている?
これはゲームか? ゲームか!?
葉月のヤツ、人をおちょくりやがって、ふざけやがって!
『ここは、これだけのようだ』
『そのようですね』
……。
『先を急ごう』
「マスター、記憶容量の乏しいマスターを補足して進言します。前回と同じ道順でよろしいですか?」
はいはい、14型さん、頼みます。
14型が俺とユエインを持ち上げ、駆け出す。
3階層のターンテーブル地帯を抜け、4階層へと降りる。4階層に降りた俺たちを、大口を開けた巨大な銀色狼が待ち構えていた。
「マスター、少し汚れますがご容赦を」
14型が俺たちを抱えたまま、その人を丸呑みできそうな大口へと飛び込む。ちょ、食われる、喰われる。
そして、そのまま口内を突き抜け、飛び出す。俺たちの背後には大口を開けた状態で大穴を開けた銀色狼がいた。うおおお、よだれが、体液が、ぶしゃーって、ぶしゃーって。
14型は障害物が何もなかったかのように、そのまま駆ける。いやいや、急ぐけど、確かに急ぐけれど、無茶苦茶し過ぎだろう。
俺はとりあえずクリーンの魔法を使い汚れを落とす。体液まみれのままってのは、さすがに、な。
4階層も抜け、5階層へと降りる。
そこは至る所に木の根が這っている大広間だった。
大広間には、大きく枝を伸ばした大樹があり、その上には黒い球体が存在していた。霜のヴァインだったかな。
「マスター、まずは邪魔なアレを始末します。今度は外しません」
14型が俺とユエインを降ろす。そして、世界の壁槍を構えた。ま、まさか!?
そして、そのまま投げ放つ。
投げ放たれた世界の壁槍は黒い球体を撃ち抜き、破壊が難しいはずの迷宮の天井に突き刺さった。恐ろしい威力だな。
「マスター、回収してきます」
14型が何もない空間を蹴り、大樹の上へと駆け上がっていく。もう無茶苦茶だな。ホント、お前一人でいいんじゃないかってくらい無茶苦茶だな。
『ここも隠し通路があるようですね』
と、そんな14型を見ていると、いつの間にかユエインがマップを表示させていた。えーっと、また隠し通路ですか。
『今度は下へ降りる道もありそうですね』
本当に?
俺がじーっと見ていたからか、ユエインが、ちょっとだけ気まずそうに顔を逸らしていた。今度は食材じゃないといいなぁ。まぁ、下へ降りる道があるっていうなら、少しは期待できるかな。
戻ってきた14型と共に隠し通路があるという壁まで向かう。壁を叩いてみる。ふむ、幻の壁とかではないのか。
壁をよく見ると、壁に小さなドクロのような模様が描かれていた。口の部分には何かが差し込めるようになっている。これは鍵が必要なパターンか?
でも、鍵なんて持っていないしなぁ。
……。
待てよ?
俺は周辺の魔素を集め、ドクロの口の中へと突っ込む。
鍵がなければ作ればいいじゃない!
魔素で作られたこの世界ならではの攻略法だな。
鍵ぽいものが差し込まれたからか壁が消えた。うむ、上手くいったな。ホント、コレがありなら、何でもありだよなぁ。
何でもありの魔素で作られた世界だって言うのなら、俺もそれを利用させてもらうだけだ。
そして、隠し通路の先は下り階段になっていた。
さあ、どんどん進むぜ。