12-24 迷宮都市の崩壊と黒い液体
―1―
《転移》スキルを使い迷宮都市へと飛ぶ。重なった世界の記憶がある影響か、《転移》スキルのチェックできる場所が八カ所までという制限がなくなっている。
いや、無くなったわけではない――八カ所の制限は変わらない。だが、他の重なった世界の記憶を呼び覚ますことによって、そちらで《転移チェック》をしていた箇所へと飛ぶことが出来るようになっていた。まぁ、他の重なった世界でチェックしていなかった場所に飛ぶことは出来ないから、何処までも自由に、とはいかないけどさ。こんなことなら、そこら中でチェックしておけば良かったよ。
空高くから迷宮都市付近へと落下する。俺は、その様変わりした都市の姿に驚く。都市を覆っていた城壁が破壊され、崩れ落ち、その外壁だったものの近くには、いくつもの破壊された天使像が転がっていた。ここにも、あの天使像が襲撃を仕掛けていたのか。人形遣いである3型は倒したはずなのに――いや、人形遣いでなければ動かせないと思い込む方がおかしいか。
俺と14型、そして俺たちの横をゆったりとした足取りで歩く狐姿のユエインと共に城壁の中へと入る。
迷宮都市に入ってすぐの橋は至る所が崩れ落ち、原形をとどめていない。遠くに見える建物のその多くが崩れ、破壊されている。また至る所で大きな爆発音や金属と金属がぶつかり合う音が聞こえる。まだ、ここでの戦いは終わっていないようだ。冒険者が多く住む迷宮都市だから、都市自体が陥落することはないだろうと思っていたが、これは予想以上に酷いな。俺が送り出したおっさんたちと三姉妹は無事だろうか。
まずは冒険者ギルドか? それとも城か? いや、それとも戦いの音がする方に行くべきか?
ゆっくりと歩いて見て回るような状況では無さそうだ。
『14型、ユエイン、急ぐぞ』
俺の言葉に狐姿のユエインが頷く。しかし、そこに待ったがかかる。
「マスター、お待ちください。あの建物の下に弱々しく消えそうな反応があります。どうされますか?」
駆け出そうとした俺を14型が引き留め、前方にある崩れた建物を指さす。反応? 誰か居るのか?
助けられるなら、助けていこう。
『助けよう』
俺たちは崩れた建物へと向かう。まさか、倒し損ねた魔獣が居るってパターンじゃないよな?
14型が瓦礫をはね除けると、その下には、倒れ、目を閉じ、今にも息絶えようとしている兵士がいた。瓦礫の下敷きになったのか?
『今、助ける』
俺が声をかけると兵士が目を開けた。
「た、助け、人が、急に、ば、ば」
『大丈夫だ、今、助ける』
回復魔法で――と、そこで俺は、その兵士の魔素の流れがおかしいことに気付く。何だ? 何かが……?
「人が、ば、化け物、もの、ものーーーー!」
兵士が狂ったように叫び声を上げる。先ほどまで死にそうだったのが嘘のような勢いだ。
そして、兵士の体が、崩れ、溶け、一部が欠けた魔石だけを残し黒い液体へと姿を変えていく。そして、その欠けた魔石も黒い液体に溶けた。残っているのは黒い水たまりだけだ。
おいおいおい。おいッ!
……。
この世界の人は、魔素――黒い液体で作られている。着ている物など、装備品も、全てそうだ。だとしても、それが、何故、今更、こんな、こんな……。
俺がもう少し早ければ、この兵士は助けられたか? 何かしてあげられたんじゃないか?
……。
「マスター、まだ戦いは続いているようです」
あ、ああ。そうだ、ここで足を止めている場合じゃない。
『14型、音の方へ案内してくれ』
冒険者ギルドも城も後回しだ。
まずは最前線にッ!
―2―
14型の案内で崩壊した迷宮都市を駆ける。
駆け抜ける。
駆けぬけた、その先では、蛇型の魔獣との戦いが行われていた。人くらいのサイズはある蛇のような姿を持った魔獣と戦っているのは俺の見知ったおっさん二人だった。
「ランか!」
「手伝え」
ああ、もちろんだ。
俺が真紅妃を持ち、駆け出す――よりも早く、14型が動き、その蛇の頭を世界の壁槍で貫いていた。
「マスターの手を煩わせるまでもないと進言しておくのです」
あ、はい。
蛇型の魔獣は14型の一撃を受け、黒い液体に姿を変え、散らばった。残っているのは先ほどと同じ黒い水たまりだけだ。
『状況を教えてくれ』
いきなり、このおっさん二人に出会えたのは運が良かったな。
「お、おう。おうさ、任せろ」
14型の動きに驚き、大きく口を開いて間抜け面をさらしていたモヒカンが頭を振る。
「迷宮都市の人々の殆どは城に避難してるぜ」
「俺たちはよぉ、逃げ遅れた人が居ないか、探していた訳よ」
となると、三姉妹も、同じ感じかな? それとも、まだ療養中だろうか?
『皆は無事か?』
「当たり前だろうが。ここを何処だと思っているんだ? 冒険者の本拠地、迷宮都市だぜ」
モヒカンが偉そうにそんなことを言っている。
「ま、犠牲になった連中が居ないとは言わないがよ」
天使像の襲撃があったんだもんな。
『何故、都市内に魔獣が?』
俺の言葉に二人は首を横に振る。
「わからねぇぜ。いや、魔獣が居た理由じゃないぞ」
魔獣が居た理由じゃない?
「人が魔獣になった理由だ」
人が魔獣に?
まさか、さっきの魔獣は!?