12-23 助けたモノ助けられたモノ
―1―
『空舞う聖院』の浮上にあわせて、こちらは脱出を開始する。俺が動こうとすると、いつの間にか背後に回っていた14型が俺を持ち上げた。いや、だから、あのね。
さらに14型が、もう片方の手でおろおろと周囲を見回していた九尾狐の首根っこを掴む。ぶらーんってなってるね、ぶらーんって。
そして、そのまま14型が駆け出す。
『あの、これは……』
九尾の狐が何か言葉を飛ばしているが14型には聞こえていないようだ。完全に動物に対する扱いだよなぁ。
浮上しながら崩壊を始めた『空舞う聖院』を、その中を14型が駆けていく――駆け抜けていく。
『長い、長い悪夢のような時間でした』
14型に首根っこを掴まれたままユエインがしゃべり始めた。あ、その状態で、さっきの続きを語り始めるんだ。ま、まぁ、俺たちは14型に運ばれているだけだしな、情報を共有するには良いタイミングかもしれない、しれないけどさぁ。
『何があったのだ?』
ま、まぁ、とりあえず俺も乗っておく。
『私は、瘴気に囚われ、体を作り替えられ、身も心も化け物へと変わっていきました。しかし、長い長い時の中、ゆっくりではありましたが、私の中の私が目覚めました』
何だろう、ユエインの言葉がとてもわかりやすいな。国語の教科書みたいだ。以前のようなカタコトじゃない。星獣となっていた影響だろうか? それともこの世界だから、なのか?
『どういうことだ?』
『私が私として目覚めたきっかけ――元が鬼憑きだったのが幸いしたのでしょう。その部分が、体を、心を、変異させられた時に混ざりきらず残ることとなったようですね。長い年月をかけ、私は、その混ざらなかった部分から自我を取り戻し、切り離し、その支配から抜け出しました』
そう言えばユエインって獣耳があったよな。確か、鬼憑きって言っていたような。そうか、あれも瘴気によって変異していたものだったのか。
そこで九尾狐が俺の方を見る。首があるのはうらやましいなぁ。俺なんて目をキョロキョロと動かすことくらいしか出来ないぞ。
『あなたも同じだったのではないでしょうか?』
ああ、そうなのか。俺も、瘴気によって半分化け物になっていたから――逆に、そのおかげで、俺は自我を取り戻せたのか。
『そして、私は、この施設から抜け出しました』
ここの攻略者は誰もいない迷宮を攻略したんだろうか?
『その時の私は、今のように記憶もなく、自分が誰かも分からない状態でした』
ああ、俺も似たようなモノだったな。真紅妃が居なければ、自分が本当は何者かも分からず曖昧な記憶のままで、ただ流されるだけだったからな。それでも、あの隕石が落ちてくる事件より前の記憶だけはあったから、自我を保つことは出来たけどさ。芋虫の化け物の姿でも、諦めずに生き抜くことが出来た。まぁ、今もその姿なんだけどさ。
『その後、この世界のおおらかな人々に助けられ、生き延びました』
ああ、帝都にユエって名前が多いのも、ユエインがたどった軌跡の結果なんだろうな。ユエインがユエインだったから、だから、多くの人がユエインを助け、慕われ――今、こうしてユエインが俺と再会する結果を作った。
『しかし、私は囚われ、その身を失いました』
隠されていた大陸に、か。
『その時に、子狐として、上手く逃げ出していたのか』
どうやったかは分からないけどさ、そうやって、俺と出会ったと。
でもさ、そうなると、なあ? 分かっていたことだけどさ、他の皆を救うのは――魂を救ってあげることしか出来ない、か。あのとき、瘴気混じりだったのは、俺とユエインくらいだもんな。
……。
いや、俺は、俺の出来ることをやろう。
『ユエイン、自分に、その力を貸してくれ』
俺の言葉にユエインが頷く。
『もちろんです』
ただまぁ、俺は14型に抱えられた状態だし、ユエインは、体をぶらーんと、その首をもたれた状態だし、しまらないなぁ。
『ところで、この状況は……?』
あー、うん、気になるよね。
『14型だ。アルファの後継機と言えば分かりやすいと思う』
「14型です」
『あ、そうなのですね。ところで、何故、私は、こんな扱いに?』
あ、うん、気になるよね。俺も、こんな扱いだしね。でも14型だから、としか言いようがないんだよなぁ。
「マスター、そろそろ出口です」
あ、はい。
『14型、外に出次第、すぐに飛ぶぞ』
「マスター、了解です」
八大迷宮『空舞う聖院』の出口となる扉を14型が体当たりしてこじ開ける。そして、そのまま外へ。
足元の床が、聖院が、崩れ、崩壊し、魔素となって流れていく。海中じゃなくて良かったな。
……。
ああ、そう言えば、前回、来た時に、次に探索する時は行ってない場所も見て回ろうなんて考えていたのにな。今回もハイスピード攻略で、見ることが出来なかったじゃないか。
ま、それも俺らしい、か。
俺たちは《転移》スキルを使い迷宮都市へと飛ぶ。
次の八大迷宮は『名も無き王の墳墓』か。