12-22 八大迷宮『空舞う聖院』
―1―
転送装置に乗ると周囲の景色が変わった。
ああ、制御室だな。かつて、俺たちが戦った、そのままの姿で――いや、そこには、俺と九尾の子狐の目の前には一匹の魔獣が居た。魔獣? いや、違うな。この八大迷宮『空舞う聖院』を守護している星獣か。
その姿は九本の尻尾を持った巨大な金色の狐だった。まるで白磁のように美しい毛並みの妖艶な見惚れるほどの美しさを持った星獣。羽猫と違う姿、ということは……?
そうか、ここを守っていたのは雷月英の方だったのか。
そこで俺の頭の上の九尾の子狐が動いた。真紅妃を構える俺の前へと――金毛九尾の狐と対峙するように九尾の子狐が俺の頭の上から降り立つ。そう言えば、この金色狐、九尾の子狐が巨大化した時と姿形がそっくりだな。まぁ、九尾の子狐の方は体毛が黄色なんだけどさ。そこが違いと言えば違いか。まるで親と子みたいだな。
九尾の子狐の方がきゅううんと一声だけ鳴く。目の前の金色狐に反応はなし、と。まるで中身のない人形のようだ。九尾の子狐は、反応がないことにがっかりしたのか、すぐに俺の頭の上に戻った。
さて、と。
中身の入っていない器だけかもしれないけどさ、これも解放しないとな。
『今、行くぜ』
俺は目の前の金色狐へと歩いて行く。
俺が一定の範囲まで近寄ったからか、金色狐が動く。九本の尻尾を先立て、そこから無数の針を飛ばす。これは金色の毛か?
飛んできた針が空中で膨らみ破裂する。
俺はとっさに氷の壁を張り、飛んできた針を防ぐ。俺の氷はカチカチだぜ?
金色狐が大きく息を吸い込み、その口から金色のブレスを吐き出す。金色のブレスが氷の壁を破壊していく。ブレス攻撃まで持っているのかよ。
氷の壁の破壊を確認したからか、金色狐がくるりと振り返る。九つの尻尾が俺の方へと向けられる。何だ、何をするつもりだ?
そして、その尻尾が姿を変える。
一つは剣のような形状に、
一つは刀のような形状に、
一つは斧のような形状に、
一つは棘のような形状に、
一つは針のような形状に、
一つは槍のような形状に、
一つは棍のような形状に、
一つは刃のような形状に、
一つは鎖のような形状に、
その姿を変える。
それらの尻尾が、まるで別々の生き物のように襲いかかってくる。俺は《永続飛翔》スキルを使い、次々と迫る尻尾を回避していく。
そして、そのまま本体へと突撃する。喰らえ、螺旋の一撃ッ!
真紅妃が唸り上げ、無限の螺旋を描く。しかし、貫いた先は霧のように消えていた。消えた巨体が俺の背後に生まれる。幻影だと?
巨体がくるりと周り、尻尾を振り回す。俺はとっさに《魔法糸》を飛ばして、体を横にするような形で浮かび上がり、振り回された尻尾を黄金妃で受ける。そのまま距離を取るように弾かれた勢いのまま飛ぶ。
バラバラに動く九つの武器に、こちらの攻撃は幻影へと姿を変えて回避、か。なかなかに厄介な相手だな。
―2―
俺は、飛び、回避し、攻撃を続ける。こちらからの攻撃の決め手に欠け、戦闘が長引く。幻影回避が厄介だな。俺一人ではなく、もう一人居れば何とか出来ただろうに――さて、どうする? 14型が居ないのが悔やまれるな。
と、そこでチャンスがやって来た。
金色狐が大きく息を吸い込み、その口から光り輝く金色のブレスを吐き出した。そうだよ、それを待っていたぜ。
俺は《魔法糸》で飛び上がり、ブレスに乗る。黄金妃がブレスを踏みしめる。俺はそのままブレスの上を駆ける。
息を吐き出した状態ではぁ! 幻影になって消えることは出来ないよなぁ!
俺は、そのまま金色狐の顔面へと駆け上り、その眉間に真紅妃を突き立てる。
貫けッ!
真紅妃の刺さった金色狐が吼え、そのまま輝く粒子へと形を変えていく。俺は真紅妃に力を入れる。真紅妃が螺旋を描き、光る粒子を爆散させていく。
終わりだ。
金色の毛を持った九尾狐が終わりを迎える。
俺は、ゆっくりと天へと手を伸ばし、周囲へと散らばった魔素を集める。金色の九尾狐を形作っていた魔素を集めていく。
しかし、上手く集まらない。
と、そこで、俺の頭の上の九尾の子狐が一声鳴き、その場から飛び降りた。そして光り輝く。周囲の魔素を――金色の九尾狐を形作っていた魔素が九尾の子狐へと集まっていく。
九尾の子狐が姿を変えていく。
少しだけ大きく、体毛を金色へと、その姿を変えていく。うん? あまり姿が変わっていないような……?
そして、九尾の狐がこちらへと振り返り、微笑んだ。
『その姿、あなたも同じですね』
こちらへと念話が飛んでくる。
『ユエインか』
俺の言葉に九尾の狐が頷く。
『何があったんだ?』
俺は聞く。そう、俺は確認しなければならない。
『長い、長い悪夢でした。まだ続いているんですね』
『ああ。だが、それを終わらせる為に俺が居る』
と、そこで周囲に大きな振動が走る。崩壊が始まったのか?
揺れだけではなく、『空舞う聖院』が動き始めた。14型が『空舞う聖院』を浮上させようとしているのか?
『時間がないようですね。詳しい話は後で』
ああ、そうだな。
周囲の揺れは大きくなり、壁が崩れ、魔素へと姿を変えていく。
俺とユエインは急ぎ動力室へと戻る。
「マスター、最後の力を使って、この施設を浮上させます」
ああ、そのまま脱出だ。
『行くぞ、14型』




