12-19 海賊たち、廃業のお知らせ
―1―
仕方ないので、一応、もう一つの方法、ファット団のアジトの方へと向かってみる。
結論から言うと、ファット団のアジトはもぬけの殻だった。誰も居ない。うーん、ファット団の連中はグレイシアの交易船のスタッフとして雇っているからなぁ。でも、誰も居ないなんて不用心じゃないか。
「マスター、何やら音がすると進言するのです」
俺がもぬけの殻となっているファット団のアジトをあさっていると14型がそんなことを言った。はいはい、そうだね。って、音?
俺たちがしばらく待っていると洞窟内に見知らぬ船が入港した。海賊船か? 何にせよ、ついでに乗せていってもらおう。
俺たちは船が止まるのをゆっくりと待つ。小回り重視なのか、あまり大きくない船だな。といっても、しっかりと船倉があるタイプの何人もで動かすような船だけどさ。
「なんだい、なんだい、誰も居ないのかい!」
そう言いながら降りてきたのは腹筋が割れている怖そうな女性だった。
『自分たちだけだ』
俺が声をかけると女性がこちらを見た。
「なんだい、なんだい、何処かで見たことのあるヤツじゃあないか」
『久しいな、レディ・ネイ殿』
半海棲族で海賊ギルドのトップスリーの一人、レディ・ネイだったよな? その海賊の女性が、俺目掛けてノシノシと歩いてくる。いや、勢いが怖いんですけど……。
「あんたのおかげで海賊稼業あがったりだよ。どうしてくれるんだい!」
あれ? まだ海賊稼業を続けているんだったか? えーっと、つまり?
「自分の無能さをマスターのせいにするとは救いようがないと思うのです」
おいおい、14型、喧嘩を売るような真似はするなよ。
「あたい相手に威勢のいいことだねぇ! そのはっきりとした物言い気に入ったよ!」
しかし、何故か14型は気に入られたようだ。レディ・ネイに肩を思いっきり叩かれている。
「どうだい、うちのギルドで働かないかい?」
恨みがこもっているような勢いで叩かれている14型は迷惑そうだ。
『すまないが、自分の14型をスカウトしないで欲しいのだが』
「マスターの言うとおりなのです。分をわきまえるのです」
「そうかい? それは残念だねぇ」
意外にもレディ・ネイは心底残念そうな顔をしていた。本気で14型をスカウトしていたのか。
『ところで、レディ・ネイ殿は、何故、こちらに?』
「ファットの小僧の様子を見に来たのさ」
あれ? この人、ファットが俺の国で働いているのって知らないんだったか? うーん、重なった記憶が多すぎて、ちょっと混乱するな。
『ファット船長なら自分の国で働いてもらっている』
俺の言葉にレディ・ネイは驚いた顔をしていた。
「あたいが厄介ごとを片付けている間に、そんなことになってたのかい。はぁ、あたいもこんな有様じゃあ、情報が売りの海賊稼業は廃業しないと駄目だね」
俺からすると、この人が知らないってことの方が意外だな。ファットだって別に隠していた訳じゃないだろうしさ。
『もし、良ければレディ・ネイ殿も自分の国で働くかな?』
俺の言葉にレディ・ネイは腕を組み考え込む。おや、意外と真剣に考えてくれるようだ。
「うちの者どもと相談してからだね。あたいの一存では決められない」
『そうか、善処して欲しい』
俺の国は海路を使っての交易も盛んだからな。船乗りが多くて困ることはない。と、そうだ。
『もし良ければ、八大迷宮『空舞う聖院』が落ちた海域まで連れて行ってもらえないだろうか?』
俺の言葉にレディ・ネイは悔しそうに首を横に振る。
「そいつは難しいね。あたいらの船は速度や小回り特化だ。あの海域は、今、危険な状況だからね」
『何か起きているのか?』
「単純な問題さ。力が足りないのさ。速度はあっても力のないあたいらの船では海流に飲まれて海の藻屑さ。軍船のような海流をモノともしない大型船じゃないと無理だね」
うーん。そうなの? まぁ、この今の世界の船の動力はよく分からないし――いやまぁ、魔石を利用して推進力を得ているのは分かるけどさ、その仕組みが、だな――海の上のプロがそう言うんだから、そうなんだろうな。
『ならば、ホーシアまでお願いしてもよろしいか?』
「ははは! 海賊船を足に使おうってかい! 面白い、任せな!」
―2―
かってにファット団の施設を使い補給を終え、レディ・ネイの海賊船が出航する。
目的地は海に浮かぶ海上の国ホーシア。それ自体が巨大な船になっている国だ。まぁ、国と言っても帝国の属国である小国扱いだけどさ。グレイシアとは交易があり、数多くの海産物を輸入させてもらっていた。
『他の海賊ギルドのメンバーは元気なのか?』
俺がレディ・ネイに聞くと、彼女は楽しそうに大きく笑った。
「アイズのとこに面白いお嬢さんが来てるよ。アイズは必死に逃げ回っているようだが、アレは、そのうち捕まるね。ついに、あの色男も年貢の納め時さ」
へー。そうなのか。まぁ、誰かは想像出来そうな気がするけどさ。
「イーグルのヤツは消えたね。あいつはファットの親代わりのつもりだったみたいだからねぇ。ファットのケツを追っかけたんじゃないかと思ってるよ」
うーむ。ま、まぁ、うむ。
「あたいは、好奇心旺盛な神国の女貴族二人に引っかき回されて散々さ」
神国の女貴族か。俺とは関わり合いがない人物だろうな。
俺たちは海賊船による船旅を楽しむ。
なんだか、こうして海を渡ったのが、つい昨日の事みたいで懐かしいな。あのときもキョウのおっちゃんとジョアンが居てさ。ホーシアではミカンとも再会してさ。八大迷宮の『空舞う聖院』ではキョウのおっちゃんが死にかけて、あのときは焦ったぜ。でも、そのおかげで俺は《変身》スキルを手に入れて――そこから俺の運命は大きく変わった気がするな。
「見えてきたよ」
そして、巨大な船が見えてきた。大きな船と船がくっつき一つの船となっている。
船の上で生活する海上国家ホーシアか。女王となった、猫人族の血が混じった半普人族のリーン、彼女は元気だろうか。