12-16 八大迷宮『世界の壁』
―1―
世界の壁。
旧世界の人類である魔族を永久凍土に封じる為の巨大な壁。
水の属性をメインとした八大迷宮の一つ、世界の壁。
俺は八大迷宮『世界の壁』を見る。そびえ立つ何処までも続く巨大な壁、壁、壁。以前、俺たちが開けたはずの門は閉じられている。一から攻略しろってことか。
このまま《永続飛翔》スキルで頂上まで駆け上がってもいいんだけどさ、これ、間違いなく上にある見えない結界が復活しているよな? さすがにさ、結界へと突っ込んだら、今の俺でも死んでしまうよなぁ。そんな馬鹿らしいことは試せないしさ、地道に行きますか。
『14型、行ってくる』
「マスター、私も一緒に行った方が良いと進言するのです」
何故かついて来たがる14型を《魔法糸》で結びつけ、サイドアーム・ナラカで荷物でも持つかのように抱える。
そして、俺は《永続飛翔》スキルを使い外壁を一気に駆け上がる。クロアさんと出会った懐かしの場所を抜け『世界の壁』の外壁に作られた出っ張りの上に着地する。
出っ張りの中央部には回転して動かすタイプの大きなレバーがあった。
「マスター、動かします」
14型がレバーを動かす。ぐーる、ぐーると、謎の機械を動かしている奴隷のようにぐるぐるとレバーを動かす。
やがて巨大な歯車がかみ合っているような、そんな機械的な音が響きはじめ、世界の壁の一部に大きな縦線が入った。
そして、ゆっくりと開き始める。開かれた門を、さらにこじ開けるように、中から大量の水があふれ出す。相変わらず大げさな仕掛けだ。
さあて、これで中を探索できるな。
壁の出っ張りから落下するように地上へと降り、巨大な門の中へと足を踏み入れる。
「マスター、情報を検索します」
俺たちが進むのに合わせて明かりが灯っていく。相変わらずの謎演出だ。
「元々は瘴気によって変異した人々を隔離する為の隔離壁だったようです。それをあの女が再利用し、壁の向こう側の瘴気濃度を上げ、変異が変異を生み出す、人為的な変異を生む蠱毒の巣としていたようです」
ここも再利用施設なのか。って、うん? その説明だと魔族も葉月が作ったような感じになるな。直接ではなく、間接的に、だけどさ。わざと恨まれるように仕組んでいたのか?
唯一、こちら側に残った魔族がフミコン。そして、壁の向こう側が蠱毒の実験施設――葉月とフミチョーフ・コンスタンタンの関係を知っていると邪推してしまうな。うーむ、安易な決めつけは良くない。今はまだ可能性の一つとして考えておこう。
俺が考え事をしていると、後ろから手を伸ばしてきた14型に、ひょいと持ち上げられてしまった。
「マスター、道は分かります」
いや、まぁ、14型も一緒だったから、道順は覚えているだろうさ。で、何で、また持ち上げたんだ。
14型が音を置き去りにするような恐ろしい勢いで駆け出す。頭上からの、明かりの点灯速度が、明らかに間に合っていない。この速度でも、落ちずにしっかりと俺の頭の上に乗っている九尾の子狐は、何というか、ある意味凄いな。
長い通路を抜け、長い階段へと進む。
階段を上る、登る、昇る。14型の速度をもってしてもうんざりするような長さの階段を上り続ける。まぁ、前回は一日かけて上り続けた階段だもんな。いくら何倍もの速度で駆け上がっていると言っても、時間はかかるか。
やがて頂上が見えてきた。頂上部分は吹き抜けになっており、先ほどまで上ってきた高さの分をくりぬいたように、その真ん中に塔が立っていた。水位を操作する為のスイッチも見える。
『14型、一度休憩をしよう』
「マスター、了解です」
14型と共に食事の用意をする。14型が用意した鍋にトウモロコシ風の野菜、出汁を取る用の干し魚、干し肉を入れ、俺がアクアポンドの魔法で作り出した水で煮る。燃やす燃料としての木も火も全て魔法でまかなう。うーむ、さすがは魔法。便利で何でもありだぜ。
味は――うん、不味くはない。美味しくもないけどな!
やはり、ちゃんとした料理じゃないと美味しくはないよなぁ。ただ、ぶっ込んだだけだもん。
「マスター、私が作った方が効率的で美味しく作れると思うのです」
いや、それでも14型が作った料理――いや、料理と言ってしまうのもおこがましい物よりはマシなはずだ。アレ? でも、こいつ、今、美味しくって言ったよな? 味が理解出来るようになったのか?
ま、まぁ、食事はコレで終わりだ。少しだけ仮眠を取ろう。
『14型、仮眠を取る。見張りを頼む』
「了解です、マスター。この、14型が、しっかりと見ておくのです」
はいはい、任せたからな。
塔の地下へと降りる為、水位は変えず、そのまま飛び降りる。落下途中で《永続飛翔》スキルを使い塔の内部へと着地する。そこから螺旋階段を使って最下層へと降りる。
「マスター、こちらのレバーも動かします」
塔の底辺部分にある回転式の巨大なレバーを14型が動かす。ここも、ぐーる、ぐーるって感じだね。
レバーの動きに合わせて歯車がかみ合っていくような大きな音がガリガリと響いていく。
14型が巨大なレバーをまわしきると、室内の壁の一つが大きな音を立てて開き始めた。さあて、中ボス戦か。
扉の先は大広間になっていた。その広間の殆どが生け簀のようなプールになっており、それを囲むように端側に通路が作られている。
そして、俺たちを待ち構えていたかのように巨大なムカデが現れる。巨大なムカデが大きな口をギチギチと鳴らす。巨大なムカデが、その大きな口を開いた瞬間――には、14型によって頭を叩き潰されていた。いや、だから、まぁ、いいけどさ。
14型は何もない空間を蹴り、水槽の上から、こちらへと戻ってくる。一撃でしたね、瞬殺でしたね。
巨大なムカデを倒したからか、奥の壁が大きな音を立てて開き始めた。
部屋の中には開かれた金属の箱がぽつんと置かれているだけだった。今回は開いたままか。ジョアンがこの宝箱の蓋を盾代わりに使ったんだよなぁ。懐かしいぜ。