12-15 世界の壁を目指して、飛ぶ
―1―
「はい、ラン王、これからの帝国を見ていてください」
ゼンラ帝が微笑む。八常侍の傀儡政治、フロウのクーデターを経てだもんなぁ。まぁ、そのおかげで帝国の膿が全て出たとも言えるけどさ。
「ラン王の下で学んだこと。それを生かしたいと思います。土地の痩せた帝国と比べ豊穣な神国をうらやみ、戦って奪うのではなく、交易によって、商いによって共に歩むことが出来る。素晴らしいことだと思います」
まぁ、そこら辺は、元々、商会をやっていたからこそ、だよな。
うん、帝国は大丈夫だろう。
と、そう言えば。
『キョウ殿、バーンの姿が見えないようだが』
そうなんだよな。バーン君もキョウのおっちゃんと一緒に残って戦ってくれていたはずだよな?
「あいつは旅に出たんだぜ」
ん?
『まさか……?』
死んだとか言わないよな?
「違う、違うんだぜ」
キョウのおっちゃんが慌てて手を振る。
「あいつは、戦いが終わってすぐに自分の役目は終わったと旅に出たんだぜ。その行動の早さ、さすがは最高ランクの冒険者なんだぜ」
バーン君らしいか。まぁ、少し顔を見たかったが、それなら仕方ない。冒険者の仕事は冒険をすることだもんな。それに今は冒険者ギルドが大変な時だ。最高ランクの冒険者の仕事は山ほどあるだろう。
「おっと、忘れていたんだぜ。ラン王の為に用意したんだぜ」
そう言ってキョウのおっちゃんが持ってきたのは――食料一式だった。
干し肉、干し魚、日持ちのする緑の野菜、それと帝国ならではのトウモロコシ風の野菜等々。
『助かる』
さすがはキョウのおっちゃん。俺が欲しかった物だ。途中、何処かで水と交換して手に入れようかな、なんて安易に考えていたからな。
「ランの旦那の旅は、まだ終わっていないと思ったからなんだぜ」
キョウのおっちゃんが目を細め、ニヤリと笑う。
すげぇ、助かる。助かるんだが、問題が。
『キョウ殿、魔法の袋は余っていないだろうか? これらを運ぶ手段がないのだ』
そうなんだよなぁ。道具類がなくなったというのは不便でしょうがない。まぁ、ここで頼むのはアレかもしれないが、ついでだよ、ついで。
「はは、ランの旦那らしいんだぜ。分かったんだぜ」
キョウのおっちゃんが、少しだけ、苦笑し、魔法の袋を持ってきてくれる。
「今、急ぎ用意出来るのはこれくらいなんだぜ」
キョウのおっちゃんが持ってきてくれたのは魔法のウェストポーチだった。
【魔法のウェストポーチM(4)】
【亜空間にアイテムを収納できる魔法のウェストポーチ。収納できる種類は4】
「ランの旦那なら、普通に使えるはずなんだぜ」
『ありがたい』
これは助かるな。でも中サイズを4つまでかぁ。まぁ、まだまだ混乱の残っている帝都だもんな。帝都を取り返したばかりで急ぎ準備出来るのがこれくらいだったんだろう。仕方ない、仕方ないんだぜ。
では、ありがたく使用者登録をして、と。
登録した魔法のウェストポーチM(4)に食材を入れていく。が、数量的に入りきらない。
「マスター、残りは私が所持します」
14型が何処からか取り出した魔法のリュックに入りきらなかった食材を詰め込んでいた。えーっと、アレ? アレ? そ、そう言えば14型にも魔法の袋を持たせていたような……。
これ、魔法の袋を用意してもらう必要がなかったかも……。いやいや、そんなことはない。これは必要だ、うむ、必要だ。
『キョウ殿、助かった』
「ランの旦那、任せたんだぜ」
キョウのおっちゃんが俺の前に拳を突き出す。俺は、そこに小さくまん丸な手をぶつける。おうさ、任せろ。次に会うのは、全てが終わってからだな。
「ラン、頼んだ!」
そこにジョアンも拳を重ねる。
「ラン王、道を、世界が続く道をお願いします」
ゼンラ帝が頭を下げる。
『行ってくる』
俺たちは帝都を後にする。
14型を抱え、周囲の魔素を吸収してMPの補充をしながら《永続飛翔》スキルを使い続け、飛ぶ。
途中、キョウのおっちゃん、ゼンラ少年が用意してくれた食材を使い料理をし休憩をする。
「マスター、料理ならばお任せして欲しいのです。効率的な……」
はいはい、料理は俺が作るよ。サイドアームがあるから、普通に調理も出来るしな。14型に任せたらろくなことにならない。
休憩は食事だけで終わらせ、そのまま日が落ちた後も《永続飛翔》による移動を続ける。こういう時に休憩いらずの体は便利だよなぁ。
周囲が雪景色に変わっていく。
俺たちは雪の中に生まれた国――俺たちのグレイシアを抜け、さらに飛ぶ。グレイシアに寄りたいところだけどさ、それは、まだまだ後だ。
まずは八大迷宮『世界の壁』を目指して。
そう言えば帝都のメンバーって八大迷宮『世界の壁』に挑戦した時の――キョウのおっちゃん、ジョアン、14型だったんだよな。羽猫は居ないけどさ。代わりに居るのが、この頭の上の九尾の子狐か。今のところ、役に立ってはいないが、まぁ、今のところは、だよな。
「きゅううん?」
頭の上の九尾の子狐が小さく鳴く。はいはい、待ってるからな。
やがて雪に包まれた大地の先にそびえ立つ巨大な壁が――行く手を阻むそびえ立つ壁が現れる。
たどり着いたな、八大迷宮『世界の壁』ッ!