2-85 鼓動
―1―
さて。
スイロウの里に着いたけど、まずは何処に行くべきかな。俺的にはホワイトさんのトコに行きたいなぁ。それともうすぐ日が落ちそうだし、宿を……。
「ラ、ラン殿、よければ家に寄って欲しいのだが」
な、何ですと。ミカンさんってスイロウの里に家を持っているのか?
「いえ、私の持ち家では無い。正確に言えばスイロウの里にあるシラアイ家の道場になるのだが」
おお、スイロウの里にも道場があるのか。にしては散策した時にそれっぽい建物は見なかったけどなぁ。
「恥ずかしながら、門下生が居らず私独りが使っているような状況なのだ」
師範みたいな人も居ないのか? それって道場って言わずに別荘みたいなもんだよね。
「いや、さすがに師範代は居るぞ」
ああ、居るのね。てことは、師範代とミカンさん二人だけだったのかよ。
「さすがに普段着のままでは……それに替えの武器も必要になると思うのでな」
そういえば町娘みたいな格好そのままだったね。
「後、ラン殿は何処か泊まるところは考えておられるか?」
あー、宿を引き払っちゃったしなぁ。
「ならば是非、うちの家に泊まるといい。どうせ部屋は余っている」
なるほど、それはお言葉に甘えよう。
とりあえず道場に行って場所を憶えて、ミカンさんは着替えとかの準備を、俺はその間にホワイトさんのトコって感じかな。
「ラン殿の用事が済めば、今日はもう冒険に出ない感じなのか?」
いや、それはさすがに……。この後もって、俺はそこまで戦闘狂じゃないよ。
「ならば家の場所を見て貰った後は別行動だな。私はラン殿の部屋を用意しておこう」
有り難いなぁ。
ミカンさんの案内でスイロウの道場へ。
「恥ずかしながら、ここが、その……家だ」
……簡易な木の柵に囲われた、庭が広いだけの『スイロウの里ではよくある』木造の平屋だな。これを道場と呼ぶのは無理があるよ。
広い庭では猫人族の女性が真剣にて素振りをしていた。って、木刀とかじゃないんだね。さすがは普段から魔獣と戦っている異世界。にしても師範代は女性なのか。まぁ、お爺ちゃん猫も孫娘を野郎と一つ屋根の下みたいな環境に置こうとは思わないだろうしね。仕方ないね。そこで俺は一緒でもいいのかってコトになりそうだけどさ、俺ってば芋虫だしなぁ。まぁ、種族も違うしね。
素振りをしていた猫人族の女性がこちらに気付き、素振りを止める。
「あ、お嬢、お帰り。思っていたよりも早かったね」
「あ、ああ」
ミカンさんは沈んだ顔で答える。フウキョウの里のことを話さないと駄目だろうしなぁ。
「まずは紹介しよう。ここで師範代をしている、ユウノウだ」
「あ、星獣様じゃないですか。初めまして、ユウノウ・ハヅキ・フウキョウです」
猫人族の女性の綺麗なお辞儀。ホント、和風だよなぁ。にしても、やはりスイロウの里では俺の事がちゃんと知れ渡っているんだな。
『自分は星獣のランという。よろしく頼む』
「で、お嬢、どうしたんです?」
「ああ、それなのだが、まずはこちらのラン殿の部屋を用意して欲しい。里で侍のクラスを得られているので、な」
なるほど、という感じでユウノウさんが頷く。
「では、ラン殿、また後で」
―2―
俺はミカンさんと別れホワイトさんの鍛冶屋へ。随分と久しぶりだな。
『すまない』
俺は鍛冶屋の中へ。奥から犬頭のホワイトさんが出てくる。
「うん? ランじゃねえかよぉ。こんな遅い時間にどうしたんだ? というか何日ぶりだよぉ?」
俺は無言で手に持っている折れた赤槍を見せる。
「お、お前っ!」
『治せるだろうか?』
手に持った赤槍からは、まるで生きているかのような鼓動を、わずかながら感じる。
「この槍がこんなになるなんて、お前……」
俺も悔しいが、【レッドアイ】お前も悔しいよな。
ホワイトさんが折れたレッドアイに触れる。
「こいつは……。この感じ、まるで力を溜めているような、何かのサナギのような……これならいけるかも知れねぇ。少し預からせろ」
俺は無言でホワイトさんにレッドアイを預ける。
「で、よぉ。この槍が、こんなになっているってコトは代わりの武器が必要なんじゃねえか?」
ホワイトさんが犬歯を剥き出しにしてこちらを見る。うん?
『何かあるのか?』
「お前の為に用意したんだぜ。ちょっと待ってな、すぐに持ってくる」
ホワイトさんが奥から所々に青く輝く銀色が混じった閉じた傘のような槍を持ってくる。
「俺が作ったオリジナル武器、ホワイトランスだぜ」
ちょ、武器に自分の名前を付けちゃったよ。
「少量だが真銀を混ぜて作っているからな、一時的に魔法を乗せることも出来るぜ」
ほうほう。でもお高いんでしょう?
「特別に163840円(小金貨4枚)でいいぜ。次は無いからな、壊すなよ」
壊すなよって、今からフラグを立てるのは止めてください。でもまぁ、小金貨4枚なら充分、購入できるな。よし、買おう。
後はもう一本、鉄の槍も買っておくか。
「ああ、それとよぉ。こんなのもある」
そう言って持ってきた槍は鉄の槍にそっくりな造りだった。
「鋼の槍だ。鉄の槍よりも固く丈夫だ。更に柄の部分に鉄糸を巻いて補強しているから簡単な攻撃なら柄で受けることも出来るぜ」
ほうほう。でも、やはりお高いんでしょう?
「こいつは30720円(銀貨6枚)だぜ」
ふむ、価格は単純に鉄の槍の2倍か。買うなら鉄の槍より、こっちだな。
『ではホワイトランスと鋼の槍を貰おうか』
俺は小金貨5枚を渡し、お釣りを貰う。ホント、ホワイトさんにはどれくらいお金を使ったか分からないぜー。
にしてもこれでレッドアイが治るまでの間の武器が手に入ったのはラッキーだな。これで充分、戦えるだろう。風槍レッドアイが守ってくれたのか、SPが残っていたからか分からないが、小盾以外の装備品(コンポジットボウと矢)や所持品は無事だったしな。
さて、次は冒険者ギルドによってクエストの報酬を貰う手続きをして、その後は換金所かな。それが終わったら道場に戻る感じだなぁ。
さ、行きますか。
4月28日修正
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