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むいむいたん  作者: 無為無策の雪ノ葉
12 むいむいたん
949/999

12-12 八大迷宮『世界樹』

―1―


「マスター、お水です」

 14型が俺の口の中へ水を注ぎ込む。いや、それ、俺が[アクアポンド]の魔法で生み出した水だよね? それと何度も言っているんだが、注ぎ込むのは止めろ。もう一度言う、止めるのだ。

 にしても、食べ物が無いのは少し残念だな。葉っぱエリアを駆け抜けずにさ、少しくらいは確保しても良かったよなぁ。


 ちょっとした休憩を終え、14型、九尾の子狐と共にシリンダーの中へと入る。透明な扉が閉まる。そのまま体がふわりと浮き、上昇を始める。どんどん上昇していく。

 そして、透明なシリンダーが開き、たどり着いた部屋へと排出される。部屋の奥には綺麗な竜の装飾が施された緑色の扉だけがあった。


『この扉の先が世界樹の迷宮の最後になるだろう』

 そう、ここが最後の部屋だ。そして、この迷宮の最後だ。


「マスター、危険を感知しました」

『14型、扉を頼む』

 俺の言葉に14型が丁寧なお辞儀を返し、緑の扉に手をかける。


 そして、緑の扉がゆっくりと開かれていく。


 薄暗い室内に足を踏み入れる。入ってすぐの壁際には、絡みつくように木を生やした、無数の骨があった。この世界樹の迷宮に挑み、アッシュドラゴンのブレスによって壁まで吹き飛ばされた冒険者たちの骸だ。


 と、そこで俺の感傷を遮るかのように、薄暗い室内の、その奥に緑の光が灯った。


 ああ、そうだよな。


 お前は、ここにつなぎ止められているよな。


 竜の咆哮が薄暗い室内に響き渡り、それに答えるかのように一斉に部屋の明かりがともされる。


 明るくなった広い室内、その奥に居たのは一匹の竜だった。二本の角を生やし翼と手足を持った西洋風の竜。その体には無数の苔が生えており、背中からは木も生えている。まるで樹木で作られた竜のようだ。


 待たせたな。


 ああ、今、俺が解放してやる。


『行くぜ、リッチ!』


 俺の言葉を理解したかのように樹木竜がゆっくりと顔をこちらに向け、そして吠える。


 俺は真紅妃を構える。そこへ樹木竜が巨体を揺らし突進してくる。俺は《魔法糸》を飛ばし、14型は飛び、突進を回避する。樹木竜が壁にぶつかり、無数の骸を粉々に吹き飛ばす。

 樹木竜がゆっくりと顔を起こし、回避した俺の方へと向き直る。その隙に俺は動く。俺の手に握られた真紅妃が無限の螺旋を描き樹木竜へ迫る。樹木竜が地面を叩く。その震動によって俺の体が浮かび上がり、真紅妃の軌道が逸れる。迷宮を揺らすとか、卑怯だろうがッ!

 そして、そのまま、いつの間にか口に貯めていた緑の光を俺に向ける。ブレスかッ!

 樹木竜が首を振り回し緑のブレスを放出する。しかし、それよりも早く14型が俺を抱きかかえ、その場から飛び去っていた。

 なかなか、強いじゃないか。もっと楽に勝てるかと思ったのにさ。もしかすると、再生にあたって葉月が強化したのか? あいつなら、それくらいの嫌がらせはしそうだ。




―2―


 戦いは続く。


 14型の拳が樹木竜の体をえぐり取る。しかし、その場から木が生え、えぐり取った部分を埋めていく。

 俺も14型に続き真紅妃を振るい穂先も見えぬほどの突きを放つ。そして、その体を削る、削る、削る。削ったそばから、体が再生していく。

 樹木竜はかなり強化されているようだ。


 だが、負ける気がしない。


 いくら、今の俺が以前よりは弱体化していると言っても、それでも負ける気がしない。いや、負けるわけにはいかないからなッ!


 何度でも復活するというなら、復活できなくなるまで攻撃を続けるだけだッ!


 樹木竜のブレスを《魔法糸》を使い避け、真紅妃で体を削る。そのうち、樹木竜の再生速度が遅くなってくる。

「マスター、とどめです」

 14型が樹木竜の頭を拳で打ち付け動きを止める。


 ああ、これで最後だな。


『リッチ、今、解放してやる』

 俺は真紅妃を構え、無限の螺旋を放つ。


 樹木竜の表皮が削れ、木片が飛び散り、その身を削っていく。そして、真紅妃が樹木竜の体を突き抜けた。


 樹木竜の体が崩れ小さな粉となって消えていく。今度は指輪が落ちることは無かった。


 しかし、これで終わりじゃないッ!


 俺は、空へ、頭上へと手を掲げる。


 周囲の魔素を集める。樹木竜を形作っていた魔素を集めていく。


 ここで終わらせるッ!


『リッチ、そこに居るんだろう?』

 俺が言葉をかけたからか、集めた魔素から、ほのかに青く光る何かが生まれた。

『リッチ、お前の大切な指輪、何処かにいってしまった。すまない』

 そうなんだよな。何処で無くしたのか分からないが、いつの間にか指輪がなくなっていたんだよな。

「マスター?」

 すると俺の言葉に14型が反応した。

「指輪とはこれでしょうか?」

 14型が何処からか見覚えのある指輪を取り出す。少し古ぼけ、年代を感じさせる指輪。指輪の裏にはR & N の文字が見える。リチャードのRと二夜子のNか。14型が持っていてくれたのか。


『リッチ、お前が渡せなかった指輪だ』

 青い光が明滅し、やがて人の形を――青く透明な人の形を作っていく。


『もしかして、センパイですか? セッシャ、この体……?』

 青い影が自身の体を、姿を見る。

『リッチ、すまない。最後の戦いで自分は負けた。こんな形でしかお前を救ってやれない』

 俺の言葉に青い影が揺らめく。それは、何処か微笑んでいるかのようだった。

『お前の魂だけは、あの葉月せらに囚われた、お前の魂だけは救う』

 そう、それだけは、どうしても、やっておかなければならないことだッ!


『カタジケナイデース』

 青い影が薄く、さらに薄く、消えそうになっていく。


『センパイ、最後に、セッシャの力を、その指輪に』

 リッチの言葉と共に14型が持っていた指輪の形が変わっていく。


『センパイならやり遂げると信じてるデース』

 それは弓だった。指輪の形が変わり、弓へと変わる。


『センパイ、これでオサラバデース』

 青い影は、満足したように微笑み、そして消えた。たく、最後まで、最後まで、変な言葉遣いで喋りやがってッ! そんな喋り方だと感傷に浸れないじゃないかッ!


 ……。


 お前の意思、確かに受け継いだからなッ!

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