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むいむいたん  作者: 無為無策の雪ノ葉
12 むいむいたん
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12-10 奇妙な冒険と初代様の記憶

―1―


 14型、九尾の子狐と共にスイロウの里の前へと降りる。懐かしいな。俺の冒険の始まりの場所だもんな。なんだか、本当に随分と久しぶりに帰ってきた気がするよ。シロネと一緒に里に入って、放置されてさ。今、思えば、そこから随分と長い旅をしてきたんだな。


 里の方に用があったわけじゃないけどさ、せっかくだから、ホワイトさんのとこだけでも顔を出しておくか。ホワイトさんが真紅妃を作ってくれなければ、今の俺は無かったからな。お礼を言っておこう。


 奇妙で数奇な冒険の始まりの場所だ。


 いつもの門番さんに挨拶をして里の中に入る。うむ、顔なじみってのはいいね。こんな、巨大な芋虫の姿でも呼び止められることなく、普通にさ、里の中に入れてもらえるんだもんな。


 里の中に入ると、その様子が少し変わっていた。


 至る所に旗が立っている。何の旗だ? 旗にはちょっと崩れた猫のような絵が描かれている。この変な猫、何処かで見たことがあるような……?


 俺は至る所で掲げられた旗を眺めながら、ホワイトさんのお店へと歩いて行く。ホワイトさんの前にも旗はあった。ホント、これ、何だろうな?


『たのもー!』


 乱雑に鎧や武器が置かれている店内に入り、ホワイトさんを呼ぶ。


『たのもー!』


 もう一度、声をかけると店の奥で動きがあった。


「ちっ、誰だ。今がどんな時期かわかってるのかよぉ」

 忌々しげに顔をしかめながら現れたのは、犬頭のホワイトさんだ。

「って、おい! ランかよぉ! 今日はどうした?」

 俺に気付いたホワイトさんの表情が嬉しそうなものに変わる。

『久方ぶりだ。この近くに用があったのでな。少し、顔を見に来た』

「たくよぉ、お前は相変わらずだな」

 俺の言葉にホワイトさんは苦笑する。何が相変わらずか分からないんだぜー。

『ところで、外の旗は何だろうか? 以前は無かったと思うのだが』

「そうか、ランは知らないのか。初代様を祭った祭事の準備よぉ」

 お祭り?

『こんな時にか?』

「こんな時だから、こそよぉ」

 な、なるほど。にしても、初代様ねぇ。


『初代様とは?』

 俺の言葉にホワイトさんは、小さくため息を吐く。あー、そう言えば、ここって聞きたがりはあまり好まれないんだったか。

「初代様はよぉ、この里に結界をもたらした方だ」

 結界? そう言えば、この里って魔獣避けの結界があるんだよな? いや、悪意があるものを通さない結界だったかな? 俺は、この里が初めての人里だから、それが当たり前だと思ったんだけどさ。よく考えたら、この里以外で結界の張られた場所ってあったか? 無かったような気がする。もしかして、結構、特殊なことだったのか? それとも、重なった世界の今回だけの流れか?


「森人族の最初のお一人だとも言われてよぉ、結界を女神さまから授かった……いや、悪魔から奪っただったかな?」

 始まりの森人族の一人、か。この種族も女神セラが、ゲームのように例の種族を作り出したくて真似た種族だろうな。確か、普通に作っただけだと、心を持たなかったから、破壊を生き延びた人々と合成した、とか、そんなような……。姿形は人とそっくりだけど、ある意味、魔族と同じだよな。


 ホワイトさんの言葉は続く。


「ほら、あのランも知ってる、森人族のお嬢さまよぉ。あのお嬢さまの名前も初代様から来ているんだぜ」

 森人族のお嬢さま……? えーっと、まさかシロネのことか? あいつがお嬢さまって、何の冗談だって気もするけどさ、あれでも、この里長の娘だったんだよな。


 ん?


『初代様の名前を聞いても良いか?』

 俺の言葉にホワイトさんが頷く。

「マシロ様だ」

 マシロ?


 ……マシロ?


 俺は、言葉を失う。


 マシロ、マシロ、真白。


 神楽坂真白。


 神楽坂恵美の娘。


 作った人形に心を宿らせる為に人と合成――した。


 あ、あ、あ、あああああッ!


 一緒にいたのは短い間だ。でも、いや、それでも。


『その、初代様のことを聞いても良いだろうか?』

 俺の言葉にホワイトさんは首を振る。

「俺はよぉ、森人族じゃないからよぉ、そんなに詳しくないぜ。でもよぉ、この里を作ったんだからよぉ、凄い人だったんじゃないか?」

『初代様は幸せだったと思うか?』

「こんなよぉ、初代様の時代から祭られるってのは、周りから慕われていたからじゃないか? そこから想像するかしかねえよぉ」

 ホワイトさんは俺を見て笑う。

『そうだな』

 そうだよな。これだけ、里の人々から、祭られて、慕われて、その一生は幸せだったと思いたい。俺が真白ちゃんに何かをしてあげることは――もう出来ない。あのとき、あの場所で別れて、そのままだ。


 真白ちゃん、か。


 俺は、そこで自身の手の中の異変に気付く。


 俺の小さな、まんまるお手々の中に、いつの間にか不格好なフェルトのワッペンが生まれていた。まるで最初から手の中にあったかのようだ。こ、これは……?

「そいつは初代様の紋章かよぉ」

 俺は不格好なフェルトのワッペンをローブに取り付ける。


 また一つ、女神セラが――葉月せらが許せない理由が出来てしまった。

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