12-9 それぞれの結末の結果の先
―1―
「ら、ラン?」
目覚めたジョアンが驚きの声を上げる。
「むが!?」
そのジョアンの口へと14型が無理矢理水を注ぎ込んでいた。いや、確かに水を与えてくれって言ったけどさ、そういうことじゃないよな? ほら、ジョアン君が咳き込んでいるじゃないか。
「み、水か。生き返ったよ」
ジョアンが、ゆっくりと首を振り、立ち上がる。
「盾が……」
あー、盾はステラが持って行ったもんな。
『ジョアン、盾はステラが持っていった』
「み、みんなは!?」
俺は驚くジョアンに現在の状況を説明する。皆が女神と一緒にいるとか、俺のこれからの予定とか、そう色々だ。
ゆっくりと説明を聞いていたジョアンが――ジョアンが一つ、小さく頷くと顔を上げる。
「デザイアを、デザイアを助けて欲しい!」
デザイア――魔人族の長か。ジョアンが、魔人族を助けて欲しいって言うなんてな。ステラのこともあるし、ジョアンも旅の中で成長しているんだなぁ。
『ジョアン、デザイアは何処に?』
「魔獣の侵入を防ぐ為、この神殿の門を閉じて、その向こうに……」
ん?
『ジョアン、この神殿の門なら、自分が来た時には開かれていた。そこにデザイアの姿は無かった』
俺の言葉を肯定するように14型も頷く。
「そ、そうなのか……」
『姿が無かったということなら、きっと生きているさ』
生き意地が汚いあいつのことだ。なんだかんだで生きて色々と策謀を巡らしているんじゃないかな。
『ジョアン、動けるか? 次は星の神殿に向かう』
ジョアンは少し考えるように下を向き、そして顔を上げ、頷く。
俺とジョアン、14型、そして、俺の頭を占拠した九尾の子狐。九つもある尻尾がフリフリと凄く邪魔だ。
俺たちはもう一つの小神殿に向かう。14型が扉を開ける。その中は、他と同じように転送の台座が置かれているだけだった。ホント、手抜きな造りだな。
俺が台座に手を置くと、その台座を中心として俺たちの足元に光り輝く円陣が走り、周囲の雰囲気が変わった。
転送されたかな?
俺たちが小神殿の外に出ると、そこは星の神殿だった。無事、転送完了っと。さて、ここからだな。
黒い液体の海の前へと歩く。どうやって渡ろう。
俺の《永続飛翔》を使うには魔力の器――MPが心許ない。それに《永続飛翔》では14型やジョアンを運ぶことが出来ないもんな。うーむ。
俺が少し考え込んでいると、九尾の子狐が俺の頭をポンポンと叩いた。なんだ?
九尾の子狐が俺の頭からふわりと飛び降りる。そして、きゅうんと一声鳴く。すると九尾の子狐が光に包まれ、みるみるとその姿を大きく変えていった。
そして俺たちの前には羽猫と同じように大きくなった九尾の狐がいた。九尾の狐が顔を動かし、その背中を見せる。乗れってことか?
「マスター、このものが運んでくれるようです」
九尾の狐は、小さくため息を吐き、14型を咥えた。
「何をするのです」
暴れる14型を無視してそのまま、ペッという感じで背中へと吐き出し、自身の背中に乗せる。
やれやれ、乗れということなら乗りますか。
――《永続飛翔》――
一瞬だけ《永続飛翔》スキルを使い、九尾の狐の背中に乗る。ジョアンも俺に続き、九尾の狐の背中に乗る。
俺たちが背中に乗ったのを確認すると、九尾の狐は小さく頷き、空へと駆け上がった。九尾の狐がふわりふわりと、何もない空間を、跳ね、駆けていく。羽猫と比べたら速度は出ないようだが、これはこれで便利な能力だな。
九尾の狐が、跳ね、飛び、駆け、黒い液体の海を渡っていく。
地下世界か。女神セラが封じた壊れた世界のかけら。本来の世界。黒い海に、瘴気に飲まれ、作り替えられ、沈んでしまった世界。もう俺の知っていた世界は無くなっていたんだな。
……。
黒い海を越え、開かれた巨大な門が見えてくる。
九尾の狐が門の前に着地する。俺たちがその背から降りると、九尾の狐は、一声、きゅうんと鳴き、光り輝きながら、くるくると回りながら、元の小さな姿に戻った。そして、そのまま俺の頭の上に着地する。いや、だから、俺の頭はお前の――いや、これでいい。これでいいか。羽猫がいれば、どちらが俺の頭の上に乗るかで揉めそうだな。
俺たちは透明なトンネルを抜け、階段を上がり、地下世界を後にする。
そこは地下室。
帝都、俺の自宅が、ノアルジ商会の本社があった場所。結局、ここに帰ってくるんだよな。
静まりかえった地下室を歩き、そして、建物の外へと出る。
帝都は静まりかえっていた。俺たちが乗り込んだ時は、たくさんの兵士がいたはずなんだけどな。
本当に静かだ。
静かな帝都を少しだけ歩く。俺は当初の予定通りに動いても良かったんだけどさ、こうも静かだと帝都がどうなっているか気になるもんな。
帝都を歩き続けると人影が見えた。それは、道ばたに――瞑想でもするかのように目を閉じ座り込んだ老人だった。
「じ、じーちゃん!」
ジョアンが叫ぶ。
それは剣聖だった。ジョアンの言葉に剣聖が目を開ける。
「帰ってきたのか」
『戦いは?』
俺は剣聖に確認する。
「わしらの負けじゃよ」
剣聖が、その傍らに置かれた半ばから折れた剣を持ち上げる。
「剣聖なぞ、剣が折れれば、そこまでよ」
剣聖だった老人が笑い、そして帝城を指さす。
「おぬしらの仲間は、そこじゃよ」
俺は帝城を見る。キョウのおっちゃんにソード・アハトさん、バーン君。皆、無事、か。
『ジョアン、そちらは任せた』
俺の言葉にジョアンが頷く。これだけ分かれば――俺は充分だな。皆との再会は後だ。
「任せて。ランも、ランの道を!」
ああ。俺は、俺にはやることがあるもんな。
『では、行ってくる』
――《転移》――
《転移》スキルを発動させ、俺は飛ぶ。