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むいむいたん  作者: 無為無策の雪ノ葉
12 むいむいたん
943/999

12-6  重なった世界のその先の先

―1―


 ……。


 俺の手の中の真紅妃が震える。その思いが伝わる。


 そうだな。


 あまり難しく考えるのは止めよう。


 とりあえず、食事だ。


 もしゃもしゃ。


 足元の世界樹の葉っぱを囓り、食べる。


 もしゃもしゃ。


 次にやるべきことは――。


 俺は真紅妃を持ち、上半身を持ち上げる。そして、そのまま真紅妃で空間を――次元を切り裂く。俺が切り裂き、広げた次元の断層から羽の生えた金色のブーツが現れる。


 そう、黄金妃だ。


 黄金妃も俺の相棒だもんな。あまり待たせると拗ねてしまうからなぁ。金色のブーツが俺の足元を覆う。その力によって、俺は、この芋虫の体でも普通に歩けるようになる。やれやれ、これでやっと這い這いから卒業だな。


 次は――そうだな、一つ、一つ問題を片付けていこう。


 俺は真紅妃を使い、もう一度、次元を切り裂く。真紅妃が繰り返しの絶望の中で手に入れた、重なった世界を乗り越える力。


 俺と真紅妃、黄金妃の女神セラに対抗する為の力だ。


 そして、俺は、その次元断層へと飛び込む。


 いくつもの重なった自分が切り裂かれるような、引き裂かれるような、分裂するかのような感覚と共に世界を乗り越える。


 重なった世界を乗り換える。


 まずは、最初は――ここから終わらせよう。




―2―


 さて、と。


 世界を乗り越えた先は、荘厳な雰囲気が漂う神殿の前だった。中央に大きな神殿と、左右に小さな神殿――ここは、三神殿のうちのどれかか?

 俺は中央の大きな神殿へと歩く。


 神殿の中は、何か大きな爆発に巻き込まれたかのように破壊されており、何か、機械の部品が散らばっていた。俺は、その散らばった機械の破片に見覚えがあった。

 まさか、ここは月の神殿か?


 俺は歩く。


 爆発の惨劇と散らばる部品の中を歩く。


 俺は歩く。


 そして、そこには、壁に寄り添い、まるで死んだかのように静かに眠る見知った姿があった。


『起きろ、14型』

 俺は眠っている14型に声をかける。しかし、動かない。俺の天啓をスキルを使った声が届いていないようだ。

『もう一度言うぞ。起きろ、14型』

 しかし、14型は動かない。


 はぁ、こいつは……。


 俺は14型のツインテールの片方を引っ張る。すると、14型はバネ仕掛けの人形のように跳ね起きた。

「はわわわ、寝てないのです。私は眠る必要がないのです」

 あー、うん。14型だな。ちょっとポンコツな感じもするが、元からだしな。


 改めて14型を見る。ツインテールの機械仕掛けのメイドさんだ。誰が作ったのか、誰の趣味なのか、メイド服のロボットだ。14型は、ここで戦いが――爆発があったとは思えないくらいに綺麗な姿をしている。


『14型、何があった?』

 俺の言葉に14型がわざとらしく首を傾げる。

「ここで待ち構えていたゼロ姉さまたちと戦いになったのです」

 ん? ゼロ姉さま?

「私は最後の力を使って自爆して――そう、自爆したはずなのです。マスター、少々お待ちを」

 14型の動きが止まる。能面のような表情からは分からないが、何かを調べているようだ。

 そして、14型がゆっくりと再起動し、俺を見る。

「私のコアがゼロ姉さまのものに変わっているのです」

 コアが変わっている?

「これは……ゼロ姉さまの記憶領域(メモリー)?」

 記憶?


 と、そこで14型が、素早く俺に手を伸ばしてきた。そのまま俺を抱きかかえるように持ち上げる。


「お帰りなさいませ、マスター」

 それは14型らしくなく、何処か懐かしい響きだった。




―3―


『14型、どういうことだ?』

 俺の言葉に14型が頷く。

「私は反旗を翻し敵対した姉さまたちを止める為に最後の手段として自爆をしたのです。私の使命は、あの女を倒す為、裏切ったゼロ姉さまたちを破壊することでした」

 機械の14型の表情は変わらない。14型が地下世界(アンダースフィア)に行きたがっていたのは、そのためか。0型たちに能力を奪われ、記憶を奪われた状態でも、その使命だけはうっすらと把握していたという感じなんだろうか。

「それを耐えきったゼロ姉さまは、私を直し、回復させる為、自身のコアを私に取り込ませたのです」

『何故、ゼロは14型を助けたんだ?』

「耐えきったと言ってもゼロ姉さまも半壊の状態だったようです。そのままでは機能停止してしまうため、再生する可能性の高い私を――」

 そこで14型は首を横に振る。

「ゼロ姉さまの目的は、『本来』のマスターと再会することだったようです。私たちナンバーズの試作0型としてではなく、よみがえった古い記憶の――そのために、かつての、勝算の無い戦いを止め、あの女の側に裏切っていたようです」

 本来のマスター、か。

『14型、ゼロは、その本来のマスターに出会えたのか?』

 14型は小さく頷き、俺を降ろす。そしてメイドらしく優雅なお辞儀をする。

「はい、マスター」

『そうか、それなら良かったよ』

 いや、違うな。こういう時に使う言葉はこれじゃない。


『ただいま』


 そう、これだ。


 俺の言葉に反応するように14型の瞳から、一つのしずくが落ちた。14型が慌てて目尻を拭う。

「マスター、申し訳ありません。まだ再生が完全では無かったようです」

 機械は涙を流さない、か。


 ……。


 先を急ごう。


 ここが、例の時間線の先なら、女神セラが世界を作り替える為に壊す準備をしているはずだからな。

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