12-5 この世界の真実真相絶望と
―1―
目覚めた真紅妃から膨大な情報が流れてくる。それはいくつもの重なった世界の俺と真紅妃の記憶だった。
かつての女神セラが記憶を外部に保存していたように、いくつもの記憶が流れてくる。
そして、俺は思い出した。
そして、俺は取り戻した。
そして、俺は絶望した。
色々な経験を、記憶を、想いを受け取り、だからこそ、分かった。
女神セラには勝てない。
葉月せら――かつての俺の後輩。
あいつが言っていたこと。
過去は変えられても、未来は変えられないと言う言葉の意味。
自身がこの世界の主人公だと言っていた意味。
今の俺なら分かる。
本当にその通りだったと。
この世界はあいつが見ている夢と同じだ。実際には不可能だが、もし女神セラを殺すことが出来た場合、この世界は――全ての重なった世界が消えるだろう。消えるという状態が、どういった状態なのかまでは想像出来ないが、全て無かったことになる。それが隕石の落ちる前に戻るってことならいいんだが、完全な無になるようなら……。
隕石――上位存在が、この星は壊してしまっている訳だしな。せらがいなければ、元々終わっていた世界だ。
……。
真紅妃の保存していた記憶には、いくつもの世界の俺と真紅妃の記憶があった。これは、普通なら、どう考えてもおかしい。一週か、二週程度、女神セラが究極魔法リセトやらを使ったのは、そんなに多くないはずだ。真紅妃が作られた週から考えても、そんなに多くないはずだ。なのに、数え切れないほどの重なった世界の記憶がある。
だから、俺は理解した。
俺は重なった世界――平行世界のようなものだと思っていたが、それは違う。いや、俺の認識では平行世界で正しい、間違っていないだろう。だが、違う。
この世界をゲームに例えるのがわかりやすいだろうか。
この世界は、『葉月せらが主人公』の章立てのRPGやアドベンチャーゲームのようなものだ。
世界の分岐点というか、ルート分岐の為に必ず起こる出来事というのがある。それがどういった基準で選ばれているのかは分からないが、例えば、魔族レッドカノンによるフウキョウの里の襲撃は必ず起こる。どの重なった世界でも起きていた。その場に俺がいないときもあったが、それは必ず起きる出来事だった。そういった、過程は変わっても、必ず起きてしまう、世界の収束というか、そういった分岐点が、この世界にはあった。
そして、一番重要なのは、この世界は『葉月せらが進んだ』部分まで世界が続いているということだ。あいつが4章まで進んでいれば、そこまでの世界が、5章に進めば、そこまでの世界が創られる。そして、あいつは前の章に戻ることが出来るって感じかな?
そして、俺は、その中の、世界を繰り返している登場人物って訳だ。だから、こそ、本来は何周もしているはずがないのに、俺の中に、真紅妃の中に、数々の、無数の世界の記憶がある。
俺からすると、俺にとっては、その重なった世界の記憶は本物で、実際にあった出来事、思い出だ。だが、それは、そうだったと創られただけのものかもしれないんだよ。
なんなんだよ、それはッ!
主人公は死なない。いや、消えない、か。消えたときが物語の――この世界の終わりだからな。
この世界を作り替えた上位存在ってヤツは、なんてことをしてくれたんだ。ふざけんなよッ!
……。
まぁ、だからこそ、俺を戻すループは隕石で世界が壊れた後からにしか――世界が作り替えられた時からなんだろうな。そして、あいつが戻ることが出来るのも、そこまでだ。
……。
勝てない。
女神セラには勝つことが出来ない。
世界を造り、好き勝手している主人公――物語を俯瞰できる外側の人物に、物語の中の登場人物が逆らうようなものだ。
今なら分かる。
来栖二夜子やフミチョーフ・コンスタンタンがやろうとしていることは、それだったんだな、ってな。
なぜ、その二人が気付いたのか、そこまでは分からない。もしかしたら、完全には把握できていなかったのかもしれない。だから、世界を壊そうとしたのかもしれないしな。
あの杭は……世界の――柱だ。この世界の歪みが、杭となって生まれたもの。この世界を一冊の本だとしたら、製本ミスによって生まれた落丁や折れみたいなものだ。それを上手く使って、今の女神セラの物語から、かつての世界に戻そうとしていたんだろう。それが実際に出来たかどうかは分からないけどな。
……。
どうすればいい?
どうするのがいい?
上位存在とコンタクトが出来れば、それが一番なんだろうが、まぁ、無理だろうな。この世界に、その存在が残っているのかも分からないし、言葉が通じるとも思えない。
はぁ、道化だよな。
でも、な。俺の中には、仲間の思い出、戦いの記憶があるんだぜ。それを無かったことに出来るか。俺にとっては、それは本物だ。
こんなの認められるかッ!
考えろ、考えろ。
女神セラよりも有利な点もある。こちらには、いくつもの世界を、何度も繰り返してきた記憶がある。考え、苦しんできた記憶がある。
そこだけは、あいつよりも有利なはずだ。