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むいむいたん  作者: 無為無策の雪ノ葉
むいむいたん ばんがいへん
936/999

シャルロット・カリヨンの思い出・中

―1―


 操舵室の船長のもとへと向かう。屋上へと上がり、船首へと向かって歩いて行くと操舵室が見えてきた。

「やれやれ、船長はあちらだろうね。カリヨン、どうするんだい?」

 カリヨンは楽しそうに微笑むだけで答えない。そのまま操舵室の中へと入っていく。


 操舵室の中には立派な髭を生やした勇猛そうな紳士がいた。彼が船長だろう。

「こんにちは、私はカリヨンです」

 カリヨンがらしくない淑女の礼をとる。

「私はホレイシオです。このグロリアス・セシリア号の船長です」

 ホレイシオ船長がかぶっていた船長帽を取り、視線はこちらに向けたまま小さく頭を下げる。カリヨンは、それを無駄に尊大な態度で見ていた。おそらく彼女はホレイシオ船長の人となり、その深いところまで見透かすつもりなのだろう。


「おやおや、お嬢さん、余り見つめられると照れますな」

 カリヨンのぶしつけな視線に船長は苦笑いを返している。

「軍経験者の船長とは珍しい」

 カリヨンが口を開き放ったその言葉に船長は驚いていた。

「おや、分かりますか」

「軍式の挨拶が出ていましたから」

「ああ、なるほど。これは恥ずかしい」

 さらにカリヨンは私に耳打ちして教えてくれた。

「ウィル、彼の手を見たまえ。手のたこが剣で出来たものだろう? 水兵上がりでもないようだ。水兵ならロープを握った時に出来るタコがあるはずだからね。彼は陸から船長に転職したようだ」

 陸軍出身ということだろうか。


「ところでお嬢さん方は、ここには何のようで。何か問題でもありましたかな」

 船長の言葉に私は事件を思い出す。そうだ、殺人事件が起こったのだ。

「ふむ。ホレイシオ船長、申し訳ないが、この場を離れることは可能だろうか?」

「何か事件が起きたようですな」

 カリヨンの言葉にホレイシオ船長は何か思うところがあるのか凄く複雑な顔をしていた。

「ええ、殺人事件ですよ」

「なんですと!」

 カリヨンの言葉にホレイシオ船長は驚きの声を上げる。

「ええ。ホレイシオ船長に確認して欲しい」

「分かりました。現場に向かいましょう」

 ホレイシオ船長が頷く。


 私たちはホレイシオ船長とともに事故現場である4号室へと向かった。

「なんてこった!」

 そこにある横たわった死体を見たホレイシオ船長がまたしても驚きの声を上げる。

「ホレイシオ船長、この方が誰か分かりますか?」

 カリヨンの言葉にホレイシオ船長はゆっくりと頷く。

「チャーリーさんですね」

 ホレイシオ船長は信じられないとばかりに大きく息を吐き、首を振っていた。

「ホレイシオ船長。このチャーリーさんのことを聞いてもよろしいだろうか?」

「はい。彼は、このグロリアス・セシリア号の共同経営者です。なんで、こんなことに……」

 ホレイシオ船長は驚くべき事を語った。この死んでいる人物は、この船の共同経営者だというのだ。そんな人物が何故殺されているのか? 私は思わずカリヨンを見る。彼女は腕を組み、下を向き、何か考え込んでいるようだった。

「情報のピースが足りない……」

 そしてカリヨンは顔を上げる。

「ホレイシオ船長、もし良ければ、他の乗客からも話を聞きたいのだが、よろしいだろうか?」

「ええ、もちろんです。あなたのホーシアでの事件解決のお手並みは聞いています。是非、力を貸してください。他の乗客には私の方から話を通しておきます」

 カリヨンの提案をホレイシオ船長は快く受けてくれる。彼自身も早く事件を解決して欲しいのだろう。


「ウィル、ということだ。それでは他の乗客から話を聞いてみようじゃないか」




―2―


 私たちは客室を順番に回った。

「ふむ。ウィル、この事件に関係がありそうなのは、この人物たちだろう」

 船内をまわり、情報を集め、そしてカリヨンが上げた人物たち。


 船長のホレイシオ、

 偶然出会った船員のアンペア、

 8号客室にキク、

 9号客室のカテジナ、

 15号客室のワイルド、

 20号客室のカーニデヤス

 23号客室のバーン、


 それは、彼、彼女ら7人だ。



 まずは8号室。


「こんにちは。私はカリヨンといいます」

 カリヨンがらしくない淑女の礼をとる。

「私はキクです。よろしくお願いします。お嬢さま方のような貴族が私に何の用でしょう?」

 露出の多い服を着た化粧の濃い女性キクは、余りこちらに良い感情を持っていないようだった。

「ホレイシオ船長から聞いていると思いますが、チャーリーさんが殺されました」

 驚くべき話だが、しかし、キクは、余り驚いていないようだった。

「まぁ、それは恐ろしい。ですが、私には関係のない話です」

「はい、そうですね。ただ、何か知っていることがあればと思ったのです」

 カリヨンの言葉にキクは少し考え込み、すぐに口を開いた。

「事件と余り関係がないのかもしれませんが、カテジナさんは、毎朝、魔法杖を持って火属性の魔法を使っているようですよ。魔法の練習だと言っていたのを聞きました」

「ふむ。それは貴重な情報をありがとうございます」

 カリヨンはそれだけ聞くとすぐに、その8号客室を後にした。


「カリヨン、彼女は怪しい。こちらは、まだどうやって殺されたかを話していないのに、すぐに魔法の話が出てきたのは怪しい」

 しかし、カリヨンは首を横に振るだけだった。

「ウィル、思い込みは良くない。もしかするとホレイシオ船長から話を聞いていたのかもしれないだろう?」

「しかし、だな……」

「ウィル、全てのパーツが揃ってからだよ」



 次に向かったのは9号室だ。


「こんにちは。私はカリヨンといいます」

 ここでもカリヨンがらしくない淑女の礼をとる。

「私はカテジナです。よろしくお願いします」

 カテジナさんは、上品な服を着込み、鋭い瞳をこちらに向ける知的な女性だった。

「ホレイシオ船長から聞いていると思いますが、チャーリーさんが殺されました」

 カテジナは大きくため息を吐く。

「ええ、ええ。そうらしいですね。彼は酷く恨まれているでしょうから、こうなると思っていました」

 彼女はチャーリーと知り合いだったようだ。

「お話を聞かせて貰ってもよろしいですか?」

「ああ。構いませんよ。彼はあの通り色男だろう? 数々の女性と問題を起こしていてね。いつか刺されると思っていたのですよ。ああ、最初に言っておくが、私と彼は、そういった関係にはない。知り合いといっても、とある事件で関わった程度だ」

 とある事件?

「失礼。あなたは毎朝、魔法杖を持って魔法の練習をしていると聞いたのだが」

「何かね。君は私が犯人だと疑っているのかな?」

「ところで、その魔法杖を見せて貰っても?」

「よいでしょう。君は魔法を使えるということで貴族である私を疑っているようだが、冒険者の中には魔法が使えるものもいるだろう。ほら、確か、この船にも乗っていたはずだ」

 カリヨンは手渡された魔法杖を見て、何かを確認し、すぐにカテジナへと返す。

「ふむ。ありがとうございました。ウィル、次に向かうぞ」

 カリヨンは杖を確認し、すぐに9号客室を後にした。


「カリヨン、彼女は怪しい。よく考えれば、だ。被害者はファイアニードルの魔法で殺されていた。これは魔法学院を卒業した魔法使いのクラス持ちでなければ難しいことだろう」

「ウィル、思い込みは良くないな。さっき、彼女も言っていただろう。冒険者の中には魔法が使えるものが居ると、な」

「しかし、だな……」

「ウィル、全てのパーツが揃ってからだ」



 次に向かったのは15号室だ。


「こんにちは。私はカリヨンといいます」

 ここでもカリヨンがらしくない淑女の礼をとる。

「私はワイルドです。よろしくお願いします。これは貴族様のお遊びですかな?」

 ワイルドはどこか胡散臭い、そんな笑みを浮かべた恰幅の良い男性だった。

「ホレイシオ船長から聞いていると思いますが、チャーリーさんが殺されました」

「ええ、らしいですな。ですが、すぐに事件は解決するでしょう」

 ワイルドは胡散臭く笑っている。

「ふむ。お話を聞かせて貰っても?」

「簡単な話ですよ。あの女、カテジナとあいつはグレイシア国の真銀鉱山の利権で揉めていた。その恨みですな」

 ワイルドはぐふふと楽しそうに笑っている。

「詳しく話を聞かせて貰っても?」

「いやいや、それだけの話ですよ。グレイシアは新興国ですからな。儲けになる話がごろごろと転がっているのですよ」

「元々、カテジナさんが持っていた鉱山を奪われたということですか?」

 ワイルドは何処までが首か分からない首を横に振る。

「元々は、神国の弱小貴族の持ち物だったらしいのですがね。その貴族は真銀鉱山を奪われて家族共々消えたという話ですがな! あの国は神国の貴族連中も入り込んでますからなぁ。まぁ、新しい国ですから色々あるのですよ」

「なるほど。ふむ。ありがとうございました。ウィル、次に向かおう」

 カリヨンは15号客室を後にする。


「カリヨン、やはりカテジナが犯人だろう」

 カリヨンは何か考え込み首を横に振るだけだった。



 次に向かったのは20号室だ。


「こんにちは。私はカリヨンといいます」

 ここでもカリヨンがらしくない淑女の礼をとる。

「私はカーニデヤスです。貴族の方々が何の用でしょうか?」

 カーニデヤスは丁寧なお辞儀を返す。着ている物は古く質も余り良くない物のようだが、しっかりと教育を受けた少女のように見えた。

「ホレイシオ船長から聞いていると思いますが、チャーリーさんが殺されました」

「はい、聞いております」

 カーニデヤスは何処か悲しそうに頷いていた。

「失礼。あなたのことで聞きたいのだが、よろしいだろうか?」

「はい。何故、私のような者が、この船に乗っているかということですね?」

 そうだ。この船は豪華客船だ。乗るにはそれなりの資格がいるはずなのだ。失礼な話になってしまうが、彼女の姿では、とてもではないが、乗れるとは思えない。

「知り合いに頼んで乗せて貰ったのです。ええ、頼んだからと言って乗せて貰えないのは分かります。代わりにこれを」

 そう言って彼女が部屋の隅から持ってきたのは長細い箱だった。

「鍵をなくしてしまい開かないのですが、両親の形見です。これを譲ることで、その資格を得ました」

「ふむ。なるほど。ありがとう。ウィル、次に向かおう」

 カリヨンは20号室を後にする。



 次に向かったのは23号室だ。


「こんにちは。私はカリヨンといいます」

 ここでもカリヨンがらしくない淑女の礼をとる。

「俺はバーンだ。見ての通り冒険者だ」

 そう名乗った長髪の男は面倒そうに欠伸をしていた。

「失礼。ホレイシオ船長から聞いていると……」

「いや、いい。俺を知らないなら名乗ってやる。俺はAランク冒険者の紫炎のバーンだ。事件を解決するなら他で勝手にやってくれ」

 そう言うが早いか、私たちはすぐに部屋を追い出された。


「カリヨン。彼は何だね! とても失礼な!」

 私がそう言うとカリヨンは小さく笑った。

「おいおい、ウィル。普段と逆じゃないか! 私が君を諫めるなんてね! 彼はAランク冒険者だと名乗った。国が認める最高峰の冒険者だ。あれくらいの態度も許されるだろうさ」

 確かにカリヨンの言うとおりなのだろう。しかし、それでも私は少し、そう少しだけ納得が出来ないのだった。



 そして、船内をまわり、機関室に向かったところで一人の船員と出会った。

「お嬢さまがた、ここは船員のみでして……」

 それなりに容姿の整った若い船員だ。手には折れた木の棒のような物を持っている。

「ああ、ちょうど良い。君も船長から事件のことは聞いていると思う。その情報を聞きたいのだ」

 カリヨンがそう言うと、その船員、アンペアは驚いた顔をしていた。

「ああ! 船長から聞いて、僕に会いに来たんですね。僕がアンペアです。そうです、僕は、あの薄汚いチャーリーの子どもです」

 そして、驚くべきことを喋った。彼が、あの被害者の子ども?

「もう少し詳しく聞いても良いかな?」

 カリヨンは調子よく、最初から知っていましたという顔をしている。

「ええ。疑われても嫌なので構いませんよ。僕はあいつの子どもです。と言っても私生児ですからね、向こうは僕がここで働いていることも知らないと思います。今回、一緒になったのは偶然ですよ」

「ふむ」

「天罰が下ったんですよ。あんな奴、死んで当然です!」

 何ということだろうか。この船に、被害者の子どもが乗っていた。しかも、その親を恨んでいたなんて……。

 しかし、だ。


 彼は犯人ではないだろう。犯行は魔法によって行われている。魔法が使えるのは魔法使いのクラスを得ている貴族くらいだ。冒険者という例外はあるが、今回は当てはまらないだろう。


 カリヨンは聞き込みと探索を続けている。そして、何やら折れた棒を手に入れていた。

「ウィル。事件のパーツは全て揃ったとみて良いだろう」

「どういうことだい、カリヨン? やはりカテジナが犯人なのかい?」

「まずは、今回の事件に関わった人を呼ぼうか」

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