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むいむいたん  作者: 無為無策の雪ノ葉
11 深淵攻略
930/999

11-53 深淵をのぞき込む覚悟を

―1―


 薄暗い実験施設をLEDライトの明かりを頼りに歩いて行く。事前に中心部までの空洞があることは確認済みだもんな。俺たちは失敗できないんだから、確実に破壊する為にそこまで向かうのは当然か。


 ある程度歩き続けると、周囲の雰囲気が変わった。機械機械した装置群がなくなり、円筒状のガラスケースが増える。ガラスケースの中には何か薬液が詰まっているのか、濁っており、中を見通すことは出来ない。そして、時折、ガラスケースの中で何かが蠢くような影が見えた。


 何だ、コレ?


『マスター、危険、危険。フィア反応が周囲に満ちています』

 抱えたゼロがうるさいくらいに警告を発している。

「少し黙っていろ。ここは敵地なんだからな」

 まったく警告を出すにしても、時と場合を考えて欲しいもんだぜ。


 って、ん?


「もしかして、このガラスケースの中って……」

 と、そこで俺たちの物音に反応したのか、ガラスケースの中の何かが動き、一瞬だけ、その姿を俺たちの前に見せる。


 それは、人と、触手の生えたヒルが絡み合ったような姿をしていた。


 異形……!?


 俺たちが杭の前で戦っていたような異形なのか?


「この中に詰まっているのは瘴気のようです」

 巴がガラスケースから目を背ける。

「おいおい、人工的に化け物を作っていたのか!」

 優が思わず叫ぶ、が、しかし、すぐに円緋のおっさんに口を塞がれる。敵地でうるさくするのはNGだからな。にしても、だ。人工的に、瘴気に浸して化け物を作っていたのか?


 俺たちは無数にあるガラスケースを避けるように進んでいく。何だよ、何だよ、コレ。どれだけの数があるんだ? 10や20って話じゃないぜ。100とか1,000って規模じゃないか? おかしいだろ、おかしすぎる数だろ。


「おいおい、俺は嫌な予感しかしないぜ。背水の陣に突っ込んでるじゃないのかよ!」

 背水の陣に突っ込むって、意味が分からない、どんな意味だよッ!

「無形隊長、この辺りでも、この隕石を壊すことは出来ると思います」

 ゆらとがタブレットをのぞき込み、無形に話しかける。

「確かにやね、これ以上進むのは危険な気がするんよねー」

 うーむ。

「二夜子様の言うとおりです。この透明なケースが割れたとき、危険です」

 巴も先に進むのは反対のようだ。確かに、これ以上進んでさ、例えば、突然、このガラスケースがパリーンと割れて、中の異形の化け物が襲ってきたら――この数だもんな、危険だよなぁ。

 でもさ、

「ガラスケースが割れたときは、その時は、今度こそ、優の剣が役に立つんじゃないか?」

「先輩、勘弁して欲しいぜ。確かにこいつを持ってきたのは俺の判断ミスだけどよぉ、無理に役に立たなくてもいいからさ」

 俺たちが、そんなやりとりをしていると無形が足を止めた。それにあわせて皆も足を止める。


「なるほど、分かった」

 そして、無形が皆の顔を見る。

「ここから先は一人で行く」

 ん? いやいや、そういうことじゃないだろ。

「おいおい、無形隊長、それは無いぜ。ここまで来たら、俺も背水の陣に入るぜ」

「僕も行きますよ。アルファの力は必要だと思います」

「ここは瘴気が濃いようです。私の力も必要になると思います」

「私の音を見る力も必要だと思いますネ」

「うちは、この先に何があるか知りたいんよねー」

「ニャーコが行くなら、セッシャも行くデース」

「それがしを仲間外れにはせぬだろう?」

 そうだよな、ここまで来たら、最後まで行かないとな。

「お前たち……」

 無形が皆を見、そして俺を見る。

「いや、お前は帰れ」

 無形が俺を指名する。へ? 何で、俺だけ?

「後は俺たちでも可能だろうよ。お前には艦に戻って作戦本部への報告を頼みたい。その護衛は来栖二夜子とリチャード・ホームズに頼む」

「この状況で俺だけ帰れるかよ。帰るなら、みんなでだろう?」

「そうデース。セッシャ、ここでは引き返せませぬ」

「うちも戻るんは反対やねー」

 無形は肩を竦める。


 そして、そのまま無言で歩き始めた。


 俺たちは無言で歩き始めた無形の後を追う。たく、俺たちがここで引き返す訳がないっての。


 そして、俺たちはガラスケース地帯を歩き続けた。


「無形隊長、そろそろ中心部に到達します」

 ゆらとがタブレットから顔を上げる。


 そして前方に、薄暗い中、俺たちのLEDライトに照らし出された巨大なガラスケースが現れる。

 それは他の円筒型のガラスケースと違い、『ひどく』大きく、そして、中が見通せるように澄んでいた。

 これが中心部?


「この巨大な透明のヤツよぉ、中に何か見えるぜ。リッチ、照らしてくれよ」

 優の言葉にリッチが頷き、手に持ったLEDライトで中央部を照らす。


 中に見えるのは、黒い球体と、それに寄り添うように作られた、こちらも真っ黒な女性の石像だった。何だ? 美術品か何かか? これが中心部? 何でこんなものが? にしても、この黒い女の石像、何処かで見たような……?


「ここが、この隕石の中心部みたいやねー」

「そのようだな。リチャード・ホームズ、北条ゆらとと協力して爆破準備を」

 無形が指示を出す。無形は、あの石像が何か気にならないのか? いや、違うな。こいつは、それよりも作戦の遂行を優先しているだけなんだろうな。そういうヤツだもんなぁ。


「俺の嫌な予感も外れたぜ」

 優はのんきに肩を竦めている。

「確かにな。何か襲撃でもあるかと思ったら、あっさりだもんな」


 俺たちはリチャード・ホームズとゆらとの作業をゆっくりと眺める。意外と時間がかかるなぁ。まぁ、これだけの規模の隕石を爆破するんだもんな。そりゃあ、設置に時間がかかるか。


「無形隊長、何かが来ますネ!」

 俺たちがのほほんとしていると、突然、ユエインが声を上げた。


 俺たちはすぐに武器を構え、やってくる何かに備える。


 そして、暗闇から現れたのは、醜く爛れ皮膚が崩れ落ちた老人――フミチョーフ・コンスタンタンだった。


 こ、こいつ、生きていたのかッ!


「フミチョーフ・コンスタンタン、その体で何が出来る」

 無形が油断なく短銃を構える。しかし、フミチョーフ・コンスタンタンは、その言葉を無視し、爛れた体を引きずりながら、中心部のガラスケースへと歩く。

「近寄るな、撃つ」

 無形の言葉を無視し、フミチョーフ・コンスタンタンは歩く。


 無形が短銃を撃つ。


 その弾丸はフミチョーフ・コンスタンタンの爛れた足に命中し、彼はそのまま転ける。しかし、それでもフミチョーフ・コンスタンタンは這うように動く。な、何だ、この執念は?


「近寄ってはならない……、目覚めさせてはならない……」

 フミチョーフ・コンスタンタンがうわごとのように繰り返しながら、這う。


 何を、言っているんだ?


 ガラスケースに何があるって言うんだ? あるのは球体に寄り添った女の石像だろ?


 そして、俺がガラスケースの方へ振り返ると、そこには女がいた。


 先ほどまでの黒い石像だった女が、色を持ち、立っていた。


 いつの間に――?


 いや、それよりも、だ。


 俺は、その女に見覚えがあった。


 俺は知っている。

「何で、お前が、そこに居るんだ?」

 そうだ、見知った顔だ。


「何で、居るんだ!」

 そこに居たのは――俺の仕事先の後輩、葉月だった。


 あの隕石が落ちた日、お前は――湾の方へ遊びに行くって言ってたよな? 何で、そのお前がそこに居るんだ?


「聞いているのかよ! 何で、お前がそこに居るんだ、葉月せら!」

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