11-51 完成された個の力、連携
―1―
「さてさて、このまま戦ったのでは、君たちもやる気が出ないだろう」
ヒトデ型ロボットの中央に収まったフミチョーフ・コンスタンタンが口を開く。
「そうだ、君たちの目的を当てよう」
ヒトデ型ロボットが動く。器用に――人の動きを模したかのように、ヒトデが考えるポーズを作る。
「この隕石の破壊だろう? この深淵内部へと潜入し、そして破壊する」
と、そこで無形が短銃を撃ち放っていた。無形はさ、ホント、相手が喋っていてもお構いなしだな。
ヒトデの左手部が、中央部――剥き出しになったフミチョーフ・コンスタンタンを隠すように動く。無形の短銃による射撃は、その左手の前に防がれていた。
「無駄に堅いようだな」
無形はそれでも短銃を撃ち続ける。
「ここに、この隕石の中央部、深淵への入り口を開くスイッチがある」
フミチョーフ・コンスタンタンはフミチョーフ・コンスタンタンで無形の攻撃を無視しながら喋る。お互いマイペースだな。
「君たちが私に勝てば、これを上げよう。これで少しはやる気になるだろう?」
そこで無形は短銃を下ろした。攻撃、効いてなかったもんな。
「それが本物だという証拠、あるのか?」
「おやおや、なかなかに用心深いね。そして疑い深い。君たちは、これが本物だと信じて必死になるべきだと思うのだよ」
ヒトデ型の左手で体を覆ってしまっている為、フミチョーフ・コンスタンタンの表情は見えない。
「つまり、嘘か」
「やれやれ、君は疑い深過ぎるよ。君は、君自身以外の何も信用していない、そんな傲慢さを感じるよ」
「隊の仲間は信用している」
「それはそれは。仕方ない。少しだけ、そう、少しだけ深淵への入り口を開いて見せよう。しかし、君たちの誰かが侵入しようとしたそぶりを見せた瞬間に、このスイッチは破壊する」
このフミチョーフ・コンスタンタンって老人もよく分からないな。何がしたいんだ?
ヒトデの左手部分が動き、中央部――老人の姿を露わにする。いつの間にか、老人の手には押しボタン式の装置が握られていた。
「見ていたまえ」
老人がスイッチを押すと、隕石の中央部が開き始めた。
「これが深淵の入り口」
中は薄暗く、どこまで続いているかも分からない。
と、そこで来栖二夜子が動いた。二夜子は猫のようにしなやかな動きで、するりと開かれた入り口の中へと入り込む。
「これで信じられたかね。これで少しは君たちのやる気も出るだろう?」
入り口が閉まっていく。おいおい、あっさりと潜入したぞ。人の認識を阻害する二夜子ならでは、か。
無形が横目でゆらとを見る。そして、ゆらとが頷く。
その瞬間、空が――空から雲を切り裂き光の矢が落ちる。アルファによる攻撃かッ!
ヒトデ型のロボットが空から落ちた光の矢に貫かれ、光に包まれる。激しい音と閃光、煙が舞い上がる。これは、やったんじゃないか?
爆発による煙が、風によって消えていく。
そして、そこには、
「これはこれは。会話に付き合ってくれたのは、この攻撃の為ですか」
光と爆煙が消えた後には、右手部分を空へと掲げ、何かの光る球体に包まれたヒトデ型ロボットの姿があった。
「無傷か」
「やれやれですよ。ある程度、オートマチックにしておいて良かったです。そうでなければ、やられていたかもしれませんね。私自身、戦うのは苦手ですからね」
オート防御か。反応速度はかなり良さそうだな。
「さて、では、そろそろよろしいですか? なぎ払っただけで死んだりしないでくださいよ」
やるしかないか。
「ちっ、こんなことならチタンブレードにすれば良かったぜ」
優が二本の古風な剣を構える。あー、そう言えば、魔物退治用の武器だもんな。俺もさ、この隕石の上が魔物の集団に囲まれていると思っていたからな。意外というか、予想外というか。あの杭の前に居たのは、どれも異形の魔物たちばかりだったのに、おかしいよな。このフミチョーフ・コンスタンタンが黒幕なんだろ? なのに、こいつしか居ないってのはなぁ。
フミチョーフ・コンスタンタンがヒトデの右手部分を動かす。車くらいのサイズの金属の塊による振り払いだ。単純だが、喰らえば、それだけで致命傷になりかねない威力だ。俺たちは、ばらけ、散開し、回避する。
「どうですかね、この個として完成された力は!」
フミチョーフ・コンスタンタンの声は楽しそうだ。
ヒトデ型ロボットの左手部分に杭のような金属の塊が生まれ、そして、そのまま射出される。金属の杭が轟音と共に隕石の地表へと突き刺さる。
「ふむ。外しましたか。私は、戦いが専門ではありませんからね、こういうこともありますか」
左手部分に新しい杭が生まれる。
無形が、散開した皆を、俺の顔を見る。何か、やるってことだな?
「これなら!」
巴がお札を取り出し、投げ放つ。お札は剥き出しになっているフミチョーフ・コンスタンタンの前へと飛び、その視界を覆い隠す。
「な、視界がっ! しかし、これにはオートアタックもあるのですよ」
またしてもヒトデ型ロボットの右手部分が振り払われる。俺たちの元へと迫る金属の塊。
俺は前に出て、真紅妃を構え、放つ。真紅妃が螺旋の唸りを上げ、迫る金属の塊を迎え撃つ。黄金妃の力で、踏ん張り、体を支え、迫るヒトデ型ロボットの右手の威力を、重さを受け止める。
……重いッ!
真紅妃の爆発力で一瞬は拮抗したかに見えた力が、すぐに押し戻され、跳ね返されようとする。しかし、そんな俺の背中に手が置かれる。
「力仕事なら、それがしに任せよ」
俺の体を円緋のおっさんが支える。おうよッ!
円緋のおっさん、黄金妃、そして真紅妃の力によって金属の塊を撃ち貫き、弾く。
「この質量を弾くですとぉ! しかし!」
俺と円緋のおっさんを目掛けてヒトデ型ロボットの左手部分から杭が射出される。見えてないくせに正確な攻撃だぜッ!
「おっと! 次は俺の番だぜ!」
迫る杭の前に優が立ち、二本の剣を構える。そして、杭へと飛び、剣を這わすように当て、その軌道を逸らす。軌道がずれた金属の杭は、俺のすぐ横に刺さった。危ねぇ、危ねぇ、当たったら死んでたな。まぁ、その衝撃はもろに受けたけどさ。にしても、飛んでくる金属の塊の軌道を逸らすとか、優のヤツ、神業だな。
「右足部、45度の位置、音が違いますネ」
「了解デース」
ユエインの言葉を受け、リッチが走る。そして、ヒトデ型ロボットの右足部に取り付き、そこへ小さな四角い粘土のような塊をくっつける。
「隊長、今デース」
リッチが急ぎヒトデ型ロボットの右足部から離れる。
無形が短銃を抜き放ち、撃つ。ヒトデ型ロボットの右足部にリッチが取り付けた四角い粘土の塊――その塊から見えている剥き出しの端子部に、弾丸が、着火される。起こる爆発。
「この程度の爆発で、何とかなるとでも……ん!?」
確かに爆発では傷をつけることは出来なかったようだ。しかし、その衝撃の影響か、内部に何か異常をきたしたのか、ヒトデ型ロボットが体勢を崩し倒れる。人型に近かったのが失敗だったなッ!
「今度は防げないよね!」
そして、そこへ空から光の矢が落ちる。ゆらとが操作したアルファによる攻撃。
閃光と衝撃。
その一撃によって、ヒトデ型ロボットが撃ち貫かれ、動きを止めた。
「はは、どうよ! 背水の陣からの、この完璧な俺たちの連携は、よぉ!」
そうだな。
フミチョーフ・コンスタンタン、俺たちはさ、お前の言うような完成された個ではないかもしれないけどさ、だけど、俺たちは連携して、お前を上回ることが出来たんだぜッ!




