11-50 老人の語る真実と否定?
―1―
昔話を語る?
「君たちは記憶があるかね?」
記憶がある? 奇妙な言い回しだな。
「例えば、君は昨日、何をしていたのかね? そこの君は?」
老人が俺たちを指さす。
「その前の日はどうだ?」
この老人の言いたいことが分からない。
「時間稼ぎか?」
無形が老人の言葉を警戒する。しかし、老人は、ただ、ため息を吐くだけだ。
「今更、時間稼ぎをしてどうなるというのだね。先ほど、用意が終わったと言ったはずでしょう。こちらは君たちのために時間を割いてあげている側なのだよ」
老人は楽しそうに笑っている。
「で、昨日の記憶がなんだって? それが重要なのかよ!」
優は少し苛々しているようだな。まぁ、気持ちは分かるぜ。
「君の昨日の記憶、それは本当に昨日あったことだと自信を持って言えるのかな?」
老人が優を指さす。だから、こいつは何が言いたいんだ?
「もしかすると、昨日は存在せず、昨日があったと思い込んでいる記憶だけがあるのかもしれない――君たちは、そんなことを考えたことがないかね」
この老人は何が言いたいんだ?
「SF小説みたいなことを言いたいのか? それとも、ここが平行世界だとか、そういうことでも言うつもりか?」
この老人が言いたいことって、これか?
しかし、老人は首を横に振る。
「話を戻そう」
話を戻すも何もお前が勝手に語っているだけじゃないか。
「この場、この地に、隕石が落ちたときのことを覚えているかね?」
この隕石のこと? ニュースでやっていたからな、覚えているぜ。
「君たちは疑問に思わなかったか? これだけの規模の隕石が落ちたのに、被害が何も出ていないと」
ん? 言われてみれば、確かに。
「そうだな、津波くらいは起きててもおかしくないはずだ」
「馬鹿言っちゃいけないよ。この規模の隕石が落下して津波程度で済むわけがない。場合によっては人類が滅亡の危機に瀕していてもおかしくないはずだ」
そうなのか? うーん、科学者が言うことだからなぁ。でも、そうはなってないんだろう?
「でも、現実に起きてないじゃないか」
「そうだ。起こるはずのことが起きていない。おかしいと思わないかね?」
老人が息をのむ。その顔は、非常に疲れた、長き時を生きることに疲れた――そんなことを感じさせる顔だった。
「世界はね、この世界は滅亡しているのだよ」
へ?
は?
「気でも狂ったのか?」
俺は目の前の老人に思わず言ってしまう。いや、でもさ、そうとしか言えないだろ。
「おいおい、それじゃあよ、俺たちが今居るのは天国だとでも言うのかよ!」
「ここは世界が滅んだ後の仮想世界だとでも言うつもりですか? あり得ないですよ」
優とゆらとが一気に喋る。しかし、老人の表情は変わらない。
「ある意味、正しいのかもしれないね」
老人の言葉は続く。
「この世界が隕石によって滅んだ後の世界だと言ったら? それが何年も、何十年もかけて、再生したのが、今のこの世界だと言ったら、君たちは信じるかね?」
それが、老人の語りたかった真実か?
「戯れ言は終わりか」
無形は老人の言葉を切って捨てる。
「やれやれ、信じられないか。君たちもこの前に来た者達と同じようだね。ここまでに変質してしまったもの、完全に再生が終わっていなかったものを見てきたはずだと思ったのだがね」
変質? 再生?
「語るに落ちたな。変質は、この隕石から発せられる瘴気によるものだ。お前は何かを誤魔化そうとしているだけだ」
無形の言葉に老人は肩を竦める。
「君たちは、そういったものを相手にしてきたのか。それゆえの誤解というものだ、が……」
老人の言葉は続きそうだ。
……。
「無形、そろそろいいよな?」
俺の言葉に無形が頷く。
俺は真紅妃を構える。そして、そのまま、見えない壁へ放つ。
真紅妃が見えない壁と衝突する。
「ふむ。無駄だよ。この壁を壊すのは君たちでは無理だ」
そして、ギリギリと嫌な音をたてながら、透明な壁の中へと小さく、ゆっくりと沈んでいく。
透明な壁に穴が、ヒビが広がっていく。
「ば、馬鹿な! この障壁を越えることは出来ないはずだ」
そして、透明な壁が砕け散った。
「可能だったようだな」
とりあえずドヤ顔だぜ。
「なるほど、君はもう一つの特異点だという訳か!」
老人が叫ぶ。
「さあて、老人に手荒な真似はしたくないからな。おとなしくしてくれよ」
俺はじりじりと老人に近寄る。
そして、そんな俺よりも早く、ぱあんと乾いた音が響いた。見れば、無形がすでに短銃を撃っていた。こいつは、容赦が無いというか……。
ん?
しかし、無形が撃った弾丸は、老人の前に現れていた金属の板によって防がれていた。金属の板? 何だ? この三角形の金属は?
「やれやれ、私も手荒な真似はしたくなかったのだがね」
老人が指を鳴らす。
それにあわせて5つの大きな三角形の金属の機械が現れる。一つ一つが人の背の高さの二倍近い大きさを持っている。それらが、まるでヒトデのように――星のような形を作る。
「これはね、元々は、身体を欠損した人々を補助する為に開発していたものなのだよ。それを拡張、強化したものが、これだ」
老人が、そのヒトデの中央に、まるで鎧を着込むように収まる。
「パワードスーツデース!」
リッチが驚きの声を上げる。
「いや、ありゃあ、もうロボットだぜ、ロボット」
何だ、コレ?
人型の、いや、ヒトデ型か? 5、6メートルクラスのロボット? この室内の天井いっぱいまできてるじゃないか。何だ、これは。
「少し、この城の中だと狭いかもしれませんね」
老人の言葉にあわせるように城が――周囲の壁が消えていく。
な、なんだ?
俺は夢を見ているのか?
城が一瞬にして消えた?
城が消え、俺たちは隕石の上に立っている。
そして、前方には巨大な機械に包まれたヒトデ型のフミチョーフ・コンスタンタンがいる。
「力で思い知らせる。君たちには、その方がわかりやすいかもしれないね」
おいおい、おいっ!
こんなロボットと戦えっていうのかよッ!
化け物の相手も大概だと思ったが、こんなのアリかよッ!