11-48 いざ、最終決戦の舞台へ
―1―
「で、承認ってどうやるんだ?」
なんかね、これから行くぞーって盛り上がっているけどさ、やり方が分からないです、はい。
「アルファ、承認を」
艦長の言葉に表示されている立体映像が変わる。
『=p』
えーっと、顔文字だな。うん、顔文字だ。
『マスター、承認されました』
抱えているゼロが、何故か、そんなことを言っている。
『:P』
『マスター、セミコロンピーです』
ゼロとアルファがよく分からない相互通信をしている。えーっと、そうだな、うん。
「では、これより突入作戦を開始する!」
艦長が声を上げる。いや、あの、本当に承認されたのか? 俺、承認するも何も言っていないんだけどさ。いや、まぁ、確かに承認する方向で話をしてたけどさ、俺が何もしなくても承認されるって、それってどうなんだよ。
「隕石付近までは潜航する。そして浮上次第、最終兵装を使用する!」
「あそこは浅い部分もあるからな、仕方ないか」
艦長の言葉を優が補足する。知っているのか、優? まさか、泳いで確認した訳じゃあるまいな?
「ポイントまでは3時間ほどで着くはずだ。準備をしておけ」
無形が指示を出す。3時間か。距離を考えたら近いんだろうな。潜航して進むから、敵の襲撃を受けないだろうし――受けないよな?
「そう言えば、その隕石の近くにも基地があったと思うけど、寄らなくてもいいのか?」
一応、聞いてみる。
「師匠、この状況で利用できると思う?」
ゆらとが、こちらを馬鹿にしたような顔で見ている。いや、一応、だな。
「難しいでしょうネ。先ほど表示されていたアルファの地図では、その基地も攻撃されているようでしたからネ」
へ? そうだったか? ユエインはしっかり見ているな。俺なんか世界各国が攻撃されているなぁ、くらいにしか見ていなかったよ。
「さあ、センパイ。それがしたちは突入の準備をしようぞ」
円緋のおっさんが大きく笑っている。たく、これから死地に乗り込むってのにさ。まぁ、でもさ、こいつらとなら、何とかなりそうな気がするんだよな。
「わかったよ」
突入の準備をしますか。と言っても、何処かへ宿泊に行くわけでも遠足に行くわけでもないからな。食料や着替えなんかも必要ないし、俺が準備するものって言ったら真紅妃と黄金妃くらいか。
『マスター、マスター、ライン、切断、終わりました』
いつの間にか俺の足元にゼロが歩いてきていた。あー、お前もか。ゼロはただのお荷物でしかないからなぁ。正直、置いていきたいんだけどなぁ。
『マスター、マスター』
はいはい。仕方ないな。今回の件みたいに、何処かで何か役に立つかもしれないからな、持って行くか。
皆が個々の準備の為に、艦内に用意された個室へと向かう。最初に――この基地に到着した段階で荷物の殆どを艦内へと運んでいるからな、突入の準備ならしっかりと出来るはずだ。あらかじめ荷物を持ち込んでおいて正解だったって訳だな。
「ちょっとよろしいでしょうか」
俺も個室に戻ろうとしたところで巴に呼び止められた。珍しいな。
「どうした?」
巴が俺を見る。変質してしまった腕を、黄金妃と一体化している機械のような足を。
「私たちが作った籠手は役に立たなかったようですね。あなたが瘴気に犯されるのを防げませんでした。申し訳ありません」
まだ気にしていたのか。
「必要なことだから、仕方ない。それに、あの小手も生活するには役に立ったよ」
すぐに壊れてしまったとしても、ね。
「分かりました。そういうことにしておきます」
巴は、冷たい瞳で俺を見る。もしかしたら、俺が冷たいと思っているだけで、こういう表情しか作れない子なのかな。
「巴、生きて帰ろうぜ」
俺は巴に笑いかける。
「当然……です」
そうだな、当然だよな。
俺は巴と別れ、艦内に用意された個室へ向かう。そこで最後の確認をする。一応、チョコレートバーみたいな携帯食を持って行くか? 途中でお腹が空いたら大変だもんな。それと……。
準備が終わり、ハッチへと向かう。
「先輩、遅いぜ」
そこにはすでに安藤優たち、皆の姿があった。
「ハッチが空き次第突入だ」
無形の言葉に皆が頷く。
そして、その時を待つ。
艦内が揺れる。浮上しているのか? 本当にもうすぐ、だな。
そして、艦の照明が全て消えた。
「いよいよ、最終兵装が発動だぜ」
暗く、皆の顔は見えない。それでも安藤優がニヤリと笑ってそうな気がした。
艦に激しい衝撃が走る。何度も、何度も。
「おいおい、大丈夫なのか?」
「静かにしてください」
これは巴だな。
「もはや神仏の加護を祈るのみよ」
円緋のおっさんか。
「信じるだけですよ」
ゆらとか。
『マスター、マスター、危険、危険』
はいはい、ゼロだな。
「大丈夫デース。セッシャ、シニマセーン」
はいはい、リッチだな。アニメの台詞とかなのだろうか。
「緊張しますネ」
全然、緊張してなさそうな声だが、ユエインか。
艦は揺れ続ける。そして、今までで一番大きな衝撃が走る。思わず――油断すれば、そのまま俺たちが壁に叩きつけられてしまいそうな衝撃。
そして、艦の動きが止まった。
いよいよ、か。
ハッチが開く。
ゆっくりとハッチが開いていく。
ハッチが開いた先は、例の隕石の上だった。艦が乗り上げたのか。
「行くぞ」
無形が静かに動き出す。ああ、最後の決戦だぜ。
そして、降りた隕石の上は静かなものだった。
「おいおい、こりゃあ、どういうことだ?」
安藤優がサングラスを直しながら呟く。
振り返って艦の方を見れば、よく持ったなとしか言いようがないくらいにボロボロになっていた。一部、中身が見え、装甲が剥がれ、激しい戦いだったのが分かる。しかし、だ。
今のこの静けさは何だ?
まるで戦いなんて無かったかのようじゃないか。
「油断するな、進むぞ」
無形の言葉に皆が頷き、隕石の上を進む。いや、これ、隕石か? 隕石って言うともっとゴツゴツとした感じを想像していたのに、舗装でもされたかのように平らじゃないか。
俺たちは目の前に見えている城のような建物へと向かう。
アレが目的地か。
2017年10月23日誤字修正(誤字報告ありがとうございました)
艦長の言葉を優が捕捉する → 艦長の言葉を優が補足する