11-47 厳しい敵地へ入る手段?
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動き出した艦の中、俺たちも無形の後を追い艦橋へと向かう。
艦橋では、艦長の本郷大和と無形、それに例の妖しいおっさんが、すでに作戦会議を始めていた。
艦橋の中央部にはアルファによるものか立体投影された世界地図が表示されている。その世界地図には、次々と赤い点が増えていた。
「これは?」
俺の存在に気付いたのか、艦長と妖しいおっさんがこちらを見る。
「見ての通り、よ。今更、私たちの基地を攻撃するなんておかしいと思ったのよねぇ」
妖しいおっさんが腕を組み、「困ったわぁ」と体を傾けていた。
「世界中の各地でフミチョーフ・コンスタンタンの襲撃を受けているということですか?」
巴が驚き質問する。
「その通りなのよ」
「つまりはよぉ、わざわざ俺らの基地を攻撃したのではなく、他のついでってことかよ!」
巴の質問に続けるよう安藤優が叫んでいた。
「それでもやね、ここだけ予想外に襲撃の進捗が悪かったのか、配下の兵士を送ってきたみたいやけどね。まー、近かったってのもありそうなんやけどねぇ」
二夜子は一つ、小さなため息を吐く。
「これやと――この数やとね、この襲撃の隙を突いては難しそうやね」
前提が崩れてしまったもんな。
「そうなのよぉ。こちらはフミチョーフ・コンスタンタンの元へ突撃するしかないのに、向こうは万全の状態で待ち構えている可能性が高いのよ。さらに協力してくれている各国も自国のことが手一杯で援護が受けられそうにないのよねぇ」
「今、襲撃されている各国は、潜入したことへの報復かもしれないがね。今、赤い点が増えている国々は、どれも工作員を派遣した国なのだよ」
妖しいおっさんの言葉を引き継ぎ、艦長が説明してくれる。
「そりゃあ、自業自得だな」
安藤優は馬鹿にしたように苦笑していた。
「しかし、これ、全部、襲撃されているんだよな? 基地の方でもさ、例の銀色の塊はかなりの数がやってきた。フミタンタンはどれだけの数を用意しているんだ?」
俺の言葉に妖しいおっさん、艦長がため息を吐く。
「それなのよ。おかしいのよ」
ああ、この数、ふざけているよな。
「数が合わないの! これだけの数を作る資源は? 時間は? 何年も前から準備していたとして、その時から、これだけのものを作る技術力を持っていたの? ただの一介の義肢作成技師が? 一人の科学者が? 作ったものを置く場所は? これだけの数を作ろうと思えば、それだけの材料がいるはずなのよ! その流れを、どの国でもつかめなかったなんて、あり得ることなのかしら!」
妖しいおっさんが狂ったようにテカテカの頭を掻き毟っていた。あー、血が出ますよ。
「現に奴は用意できた。それが全てだ。今はどうするかだろう」
無形はそう言い、艦長を、そして俺たちを見る。確かにな。
「そうね、そして話は戻る訳ね」
妖しいおっさんはため息を吐き、艦長が頷く。
「突撃はだね。各国の協力の下、援護砲撃の後、突入予定だったのだよ。そのタイミングを調整中に、今回の襲撃だ」
突撃のタイミングを見失ったと。
「でもね、それでも私は賛成出来ないわ!」
「賛成? 何のことだ?」
「最終兵装の使用だ」
俺の疑問に無形が答えてくれる。
「だって、そうじゃない! 最終兵装を使って失敗したら、もう次の手はなくなるのよ! 失敗しても次がある作戦にすべきだわ!」
「ふむ、政治家らしい意見だね。自分たちに次など、無いのだ!」
艦長と妖しいおっさんがにらみ合う。
「最終兵装とは?」
「オー! 例のシールド、デスネ!」
何故かリッチが反応する。その言葉に無形は苦虫をかみつぶしたような顔になる。
「その通りだ」
「大丈夫デース。国には報告してないデース」
よく分からないやりとりだな。
「で、どういったものなんだ?」
「この艦の前方、シールド張りマース。突っ込むデース」
へ?
「リチャード・ホームズ、その通りだ」
突撃が最終兵装?
「それが最終兵装ヒノカグツチだ」
妖しいおっさんが言っていた最終兵装って突撃用のシールドのことだったのかよ。
「何で、それが不味いんだ?」
「プラズマシールドを張るのよ! 艦の全エネルギーを使うのよ! 失敗したら、このアマテラスは、ただの鉄の棺桶になるわ!」
プラズマシールド? それって凄いの?
「使用の承認にはアルファのマスター権限が三つ必要になる」
無形が俺を見る。
えーっと、三人?
「艦長と無形とゆらとか?」
俺の言葉にゆらとはこちらを馬鹿にしたようなため息を吐いた。
「僕が持っているのは、正確には――サブマスター権限ですよ」
サブマスター? ということは、ゆらとでは駄目ってことか。
つまり、無形、艦長、それに妖しいおっさんの承認が必要ってこと?
「私は最終兵装を使った作戦には反対だから、絶対に承認しないんだからね!」
この妖しいおっさん、空気が読める人だと思ったんだけどなぁ。それとも、だから、こそなのか? 他の作戦を提案しろ、と?
『マスター、マスター』
抱えたゼロが縦長の黒目を点滅させている。はいはい、どうしたの?
『ゼロ経由でマスター権限の承認をします』
ん?
つまり?
「ちょっと、ちょっと、何を言い出すの!?」
つまり、だ。
「俺でも、アルファの使用承認の一人になれるってことか?」
『マスター、ライン繋がりました。承認可能です』
ゼロが縦長の黒目を点滅させる。おー、意外と有能だ。
「これで、三人か」
俺、無形、艦長。
「そのようだな」
無形が俺の方を見る。
「駄目よ、駄目よ! 国際問題になるわ!」
「言っている場合かね。現状を見なさい!」
艦長が立体投影された地図を指さす。まぁ、世界各地で襲撃されているような状況だもんなぁ。
「それでは承認を行う」
艦長が俺と無形を見る。
これで、隕石への突撃準備が終わるってことか。




