11-46 反撃ののろしを上げよう
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敵か。
俺は目の前の機械ジジイを見る。今まで俺が戦ってきた相手と違い、完全に『人』だ。異形化した訳ではなく――いくら機械で作られた部分があると言っても『人』だ。機械の部分なんて義手や義足と一緒だもんな。俺に、やれるのか?
「やりにくそうやね」
来栖二夜子が俺の肩に手を置く。
「あの機械お爺ちゃんはうちがやるから、浮いているやつらを頼むんよ」
「いい、のか?」
俺の言葉に二夜子は微笑み、頷く。
「よいのかね? この機械の義肢は同志フミチョーフが調整したもの――力が有り余っている。こちらは、お前たち二人がかりでも構わないぞ」
「フミチョーフ・コンスタンタンは、元々は障害者向けの義肢作成技師やったね。それを義肢って呼ぶには禍々しい気がするんやけどね」
二夜子は喋りながら、俺に手を振る。銀の四角い塊を壊しにいけってことか?
「しかし、二夜子、お前一人で……」
二夜子は首を横に振り、何処からか一本の小さなナイフを取り出した。
「得物ならあるから大丈夫、大丈夫」
「そんな、小さなナイフ一本で私を相手にしようというのかね」
そこで二夜子は微笑む。
「話に乗ってくれるのは嬉しいんやけどね、これ以上、時間稼ぎには付き合えないんよ」
時間稼ぎ……? あ! そういうことか。この機械のジジイは、俺たちを足止めするのが目的か。と、なれば、俺は……。
俺は真紅妃を構え、銀色の箱の方へと駆け出す。
「行かせると思うかね」
そして、そこへ機械のジジイが突っ込んでくる。そう、まさに突っ込んでくるとしか言いようのない爆発的な速度だ。あの機械の義足が、それを可能にしているのか?
しかし、機械ジジイは、俺へと迫る途中で体勢を崩し、もつれるように転んだ。
「な、何をしたあぁぁぁっ!」
「その機械の力がご自慢みたいやけどね、駆動部分が剥き出しはあかんね」
見れば機械ジジイの義足部分に先ほどのナイフが刺さっていた。いや、刺さっていたのではない、隙間に入り込んでいるというのが正解か。その義足は機械とはいえ、人の体の延長である以上、曲がったり、衝撃を受け止めたりする為の稼働部分があり、どうしても、そこは丸見えになっている。でも、だからと言ってさ、そこにナイフを差し込むって――しかも投げてだぞ? 普通に神業じゃないか。
「動いている物の隙間にナイフを投げて入れただと!? そんな芸当がっ! まぐれに決まってる」
「うちらをなめてもらっては困るんよねー。うちらが相手してきたのは人以上の力を持った化け物たちなんよ?」
機械ジジイが差し込まれたナイフを引き抜き、機械の腕で握り壊す。
「ナイフなら、まだあるんよねー」
来栖二夜子の手には、すでに次のナイフが握られていた。だから、何処から取り出したんだよッ!
まぁ、でもさ、これなら任せても大丈夫か。俺は落ちているゼロを拾い、船渠の方へと駆け出す。
俺は改めて、そちらの――銀色の四角い塊へと向かう。まずは船渠方面を駆逐しないとな!
飛び、壊し、破壊する。
俺がある程度、銀色の四角い塊を壊し続けると、その途中で円緋のおっさん、巴が合流してきた。そこからは早かった。
いくらどんどん転送されてくるって言っても無限じゃないからな。
「何とかなりそうとはいえ、突然、現れるのは厄介ですね」
巴がお札を飛ばしながら呟く。お札が銀色の塊に張り付くと、それは急に浮力が無くなったようにコロンと落ちた。
「そうよのう」
円緋のおっさんが転がっている石を拾い、投げ放ち、新しく現れた銀色の塊を撃ち落としていく。
「二人が来て助かったよ。ホント、凄い力だな」
たく、この二人の方が化け物だな。
「空を飛び回っているような非常識な人には言われたくありません」
「それは、それがしも思うぞ」
二人にツッコまれた。
と、そうだ。
「ここは二人に任せても大丈夫か?」
二夜子の方が心配だからな。
「うむ、センパイは他を頼む」
俺は二人が頷いたのを見て、駆け出す。その際に、ゼロを置いていくのを忘れない。こいつ、邪魔だもんなぁ。
『マスター、危険、マスター、危険』
俺が危険みたいな言い方は止めろぉ。
俺が二夜子のところに戻ると、勝負は終わっていた。機械のジジイが何もないところへと殴り、蹴りを放っている。その都度、空気が震える。おー、凄い威力だ。アレは俺でも喰らったらヤバいなぁ。
「あー、お帰りやね」
二夜子はのほほんとしたものだ。
「アレは?」
「ありもしない幻影と一生懸命戦っているんよー。大変やね」
おいおいおい。二夜子は簡単に言っているけど、これは恐ろしいことだぞ。催眠術か何かで、こういう状態にするにしても、戦っている相手を、か? 戦っている最中に、それを行うって普通じゃないだろ。
「うちらも時間は欲しいからね。指揮官ぽい、この人には、このまま頑張ってもらいましょ」
あえて倒さずに放置、か。
「あ、ああ」
こいつは、こいつで無茶苦茶だなぁ。
俺と二夜子は、円緋のおっさん、巴と合流しアマテラスへと乗り込む。そこでは無形が俺たちを待ち構えていた。
「このまま、突っ込むぞ」
「他の人たちは?」
無形は首を横に振る。
「安藤優、北条ゆらと、雷月英、リチャード・ホームズなら、すでに乗り込んでいる」
「基地の人たちは?」
「基地は放棄する」
放棄?
「基地に残っている人たちを見捨てるのか?」
「それは、こちらの役目ではない」
無形は、それだけ言うと艦橋へと歩き出した。おいおい、おい。
「センパイ、これはお互いの役目を果たす時だ」
円緋のおっさんが俺の肩に手を置く。役目、役目か。
「これだけの襲撃、向こうは手薄になってそうやしねー」
そういうもの、なのか。
『ゼロ、置いた。マスター、酷い』
足元のゼロは何かよく分からないことを喋っていた。




