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むいむいたん  作者: 無為無策の雪ノ葉
11 深淵攻略
921/999

11-44 彼女達の事情とその想い

―1―


 基地に用意された俺たち用の食堂へと歩いて行く。そこでは獣耳の雷月英が優雅にお茶を飲んでいた。多分、紅茶だな。

「あら、先輩さんですネ」

 だから、誰が先輩だよ。にしても、すぐに俺の存在に気付いたな。

「ふふ、それとも、私も師匠と呼んだ方がいい?」

「好きに呼んでくれ」

 もう好きにしろよって感じだよなぁ。

「こちらへはお昼ですネ?」

「ああ」

 雷月英は食事後、か。飲んでいるのは紅茶かと思ったが、ちょっと違うようだな。器の中に花の蕾がまるごと入っている。

「それは?」

「私が用意した花茶ですネ。お一つどうですネ?」

 俺は首を横に振る。花茶、ねぇ。聞いたこともないな。


「雷月英も参加を?」

 雷月英は俺の言葉を無視するかのように花茶? を飲んでいる。そして、一つ、小さな息を吐く。

「私に選択肢はないですネ」

「それは……」

「私のことはユエインでいいですヨ」

 そう言って、雷月英――獣耳のユエインは少し寂しそうに微笑んだ。

「お金に――なりますからネ」

 報酬が良いから、参加するってことか? でもさ、それなら、

「ユエインなら、他にも、こんな命をかけなくても簡単に儲けることが出来るんじゃないか?」

 俺の言葉にユエインは首を横に振り、自身の頭についた獣耳を指さす。

「この姿、この異能ですからネ。それを生かすのが簡単ネ」

 そ、そうか。にしても、お金か。俺からすると、命をかけてまでって本当に、そう思うんだけどなぁ。こういうのも価値観の違いってヤツなんだろうか。

「この国は、本当に良いところですヨ。穏やかで、ゆとりがあって――」

 そこでユエインは首を横に振り、手に持っていた器をテーブルの上に置く。

「話は終わりヨ。先生、作戦の時はよろしくネ」

 あ、ああ、こちらこそ。


 ユエインは俺の言葉をまたず、そのまま席を立ち、お茶のセットを片付ける。

「生きて、帰ろうな」

 俺はユエインの背中に言葉をかける。ユエインの返事はなかったが、少しだけ微笑んでいるような気がした。


 と、俺も食事にするか。何を食べようかなぁ。


 ……。


 これだッ!


 俺はカップ麺を取り、お湯を入れ、そのときを待つ。


 最高の時間だぜッ!


 そして、時計で時間を確認し、おもむろに蓋をはぐる。少し固めが美味しいからなッ!


 もしゃもしゃ。


 もしゃもしゃ。


 もしゃもしゃ。


「少しは量を取ったらどうですか?」

 俺が夢中でカップ麺と格闘していると巴がやって来た。


 もしゃもしゃ。


 水無月巴――巫女服のコスプレをしたお嬢さまだな。

「量より質が大事なんだぜ」

「即席麺に質があるとは思えません」

 巴が呆れたような、冷めた目でこちらを見ている。お前、カップ麺を馬鹿にしたな! こんな、お湯を入れるだけで作れて、保存も出来て、それで美味しいという奇跡の食べ物なんだぞッ!


 ずずずずっ。


 俺はスープをすする。

「即席麺のお汁は塩分が多いと聞きます。あまり飲まれない方がいいですよ」

 お前は俺のおかんか!

「少し、体に悪いくらいがちょうどいいんだよ」

 俺の言葉に、巴はため息を吐く。そして、俺の目の前の席に、こちらと向かい合うように座った。

「その体で器用に食べますね」

 ま、半分、化け物みたいな体だからな。だから、一般の食堂ではなく、こちらの俺たち用の食堂で飯にしているわけだけどさ。で、だ。

「巴、小言を言いに来たのか?」

「いいえ」

 巴は首を横に振り、そして、俺を見る。

「お前も飯を食べに来たのか?」

「いいえ」

 巴は首を横に振る。

「じゃあ、何をしに来たんだよ」

 巴は俺を見る。

 じーっと、こちらを見る。何なの? 何なの?

「俺の顔に何かついているのか?」

 巴が冷たい瞳でこちらを見ながら、呆れたようなため息を吐いていた。

「本当に子どもみたいな人ですね」

 子どもってなぁ。

「俺だって、好きで年を取った訳じゃないからな。気がつけば、この年だ。大人げなくて、成長して無くて悪かったな」

 俺は巴を見る。そう言えば、コイツって俺より一回りは下なのか? うわぁ、その事実にショックを受けるよ。

「で、何の用だったんだ?」

 俺は改めて聞く。巴は少し考えるように上を向き、そして、俺を見る。冷たい瞳だ。

「そうですね、用は……」

 そこで巴は席を立った。

「用は終わりました」

 そう言うと巴は、そのまま食堂を出て行った。


 はぁ?


 本当に何の用だったんだ? よく分からないヤツだぜ。


 俺が食事を終え、食後の散歩をしていると来栖二夜子に出会った。ベンチに座り、何をするでもなく、ぼーっとしている。相変わらずジャージ姿だ。

「そろそろ寒くなってくるのにジャージなんだな」

 俺が話しかけると二夜子はニヤリと笑った。

「ジャージの保温性能を馬鹿にしては駄目なんよねー」

 はいはい。

「で、お前は何をしているんだ?」

「アンニュイに黄昏れているんよ」

「さいですか」

 来栖二夜子はこちらを見て、しししと笑っている。ホント、こいつが何をしたいのかが分からない。

「俺は、お前が何を考えているのか、何をしたいのかが分からない。何で平然と合流しているんだよ」

「言ったよね、うちは敵じゃないって。だから、おかしくないんよ」

 ホント、調子が狂うなぁ。

「世界を壊すってどういう意味だったんだ?」

 俺の言葉に二夜子は首を傾げる。

「今のこの世界、おかしいと思うんよね。ありへんことが起きすぎてると思うんよね。それは……」

 それは?


『マスター、危険、危険。敵の襲撃です』

 俺が抱えていたゼロが喚き始めた。

「どうやら、敵の方が先に動いたようやね。三日間休めんかったね」

「それは仕方ない。向こうはこちらの都合に合わせてくれないだろうからな」

 俺の言葉に二夜子は「せやね」と一言呟いて頷く。

「まずは皆と合流だな。それからアマテラスか?」

「おおー、リーダーぽい!」

 二夜子はおどけた様子で笑う。


 はいはい。


 にしても、ここに来て、襲撃か。

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