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むいむいたん  作者: 無為無策の雪ノ葉
11 深淵攻略
919/999

11-42 すべての杭が砕けた後に

―1―


 木々の間を抜け、峠道まで戻ると、そこには戦いを終えた無形と円緋のおっさん、獣耳の雷月英、そして来栖二夜子が居た。

 来栖二夜子は、先ほどのことなど素知らぬ顔でのほほんと立っている。一瞬、別人かと思ったが、こちらの存在に気付くと唇に指を当てていた。内緒にしてね、ってことかよ。図太いなぁ。


「片付いたようだな」

 無形がこちらに気付き、話しかけてくる。

「ああ、先輩がやってくれたぜ」

「そのようだな」

 無形は軍帽を深くかぶり頷く。


「急ぎ、艦に戻り、情報確認ですネ」

 雷月英が獣耳をピクピクと動かし、

「周囲にフィアの反応はないようですヨ」

 と教えてくれた。


「急ぎ、戻らねばのう。負傷した者もおるからな!」

 円緋のおっさんが大きな声を上げる。負傷した者?

「申し訳ないデース」

 安藤優に肩を借りたリッチが情けない声を上げていた。あー、そう言えば、太ももを自分で撃ち抜いていたもんな。急所を外したからか、出血は止まっているようだが、歩くのは辛そうだ。


 俺たちは、そのまま歩き続け港へと戻る。歩くのが辛そうなリッチの為にも乗り物が欲しいところだったが、この地では道ばたに転がっている車の数は何故か少なく、そして、いつも通りに、あったとしても動きそうにないものばかりだった。

「何故、ガソリンがなくなっているんだろうな?」

 俺が聞いてみても、皆は首を傾げるばかりだった。そりゃまぁ、その理由が分かれば、何とかしているだろうからな。


 ゆっくりと時間をかけ、港に到着する。今回はホテルに寄らず、港に停泊しているアマテラスへと直接向かう。


「んもぅ! さすがね! 待っていたわよ!」

 そこでは、例の妖しいおっさんが待ちきれなかったのか、艦の外に出て、俺たちを待ち構えていた。

「状況を聞きたい」

「そうね、それなら、こっちね。体の汚れや汗を落としたいでしょうけど、まずは艦橋に来て欲しいわ」

 妖しいおっさんの案内で艦内を進み、艦橋へと出る。


 艦橋には艦長、そのほかの人員の姿が見える。


 そして、そこには、すでに準備を終えて待ち構えていた医療班がおり、リッチを椅子に座らせ、すぐに治療を開始していた。この場でやるのか。


「無形、すまないな」

 艦長が無形に話しかける。しかし、無形は、それを無言で頷き返す。


「アルファ、出してくれ」

 艦長の指示で、中央に映像が浮かび上がる。


 それは、例の隕石の姿だった。

「リアルタイムか?」

 無形の言葉に艦長は首を横に振る。

「見ていろ」


 映像が動く。何か、ガラスが砕けたかのように、隕石の周囲を覆っていた『何かが』砕け散らばる。バリアが壊れた? やはり、杭を壊すことでバリアがなくなるのは正しかったのか? にしては、供給が絶たれて消えたというよりも、壊れたという感じなんだな。

「アルファによって視覚化出来るようにしている」

 艦長が教えてくれる。なるほど、目に見えて分かるようにしているのか? と言ってもイメージ映像ではなさそうだが。


 映像は進む。


 バリアが消えたのと同時か、それよりも早いくらいに、次々と攻撃が、隕石へと降り注ぐ。

「これは?」

 俺の言葉に艦長が頷く。

「各国の――我が国に協力してくれているところからの攻撃だな」

 微妙に言葉を濁したな。


 次々と降り注ぐ、攻撃によって画像が揺れ、激しい光が瞬く。確かに、バリアは働いていないな。にしても、バリアが消えた瞬間にコレか。容赦がないな。まぁ、国を脅かすテロリストへの制裁だろうからな、これくらい当然か。


「アルファ、少し映像を早送りしてくれ」

 艦長の言葉にあわせて映像が進む。


 そして、光と粉塵が消えた後には――無傷の隕石が残っていた。

「おいおい! バリアは消えたんじゃねえのかよ!」

 安藤優が叫ぶ。そりゃあ、叫びたくもなるよな。俺も叫びたいぜ。だってさ、これじゃあ、俺らが何の為に苦労して杭を壊したのか、それが無意味なものみたいじゃないか。

「そこで、これだ」

 映像が変わる。


 隕石の断面図?


「アレは、バリアで覆われていた間に、その表層を、例の杭と同じ物質でコーティングしてしまったようだ」

 は? 杭と同じ? つまり俺の真紅妃でないと壊せない?


 ん?


 いや、待てよ。


 なんて言った?


 表層?


「まさか」

 無形が驚いた顔で艦長を見る。

「そうだ。アレの表層に建造物が作られていたのは覚えているな?」

 艦長が、俺たちを見回す。そう言えば、そんな感じになっていたな。

「中からなら、破壊することが出来る」

 そして、そう言葉を続けた。

「この映像はリアルタイムではないと言ったな」

 無形が艦長へ詰め寄る。艦長は静かに頷く。


「無形が予想しているとおりだ。そして、現在、彼らとの連絡は途絶えている」

 途絶えている?


 中から破壊できる? そして、映像は、俺たちが杭を壊したときのもの? それから、どれくらい時間が経っている?

「こ、こいつぁ、背水の陣だぜ」

 安藤優は大きく天を仰いでいた。


「外部からの攻撃が無駄に終わってしまったからな。各国――色々な協力してくれているところが工作員を送り込んだはずだ」

「そして、全滅……か」

 無形は呟く。


 この流れはアレか。

「お前たちには、アレに潜入し、内部から破壊してもらいたい」

「ふざけるな」

 無形は艦長の胸ぐらを掴む。しかし、艦長は、その手を掴み、首を横に振る。


「この艦は一度基地に戻るわ。突撃は三日後。よく考えてちょうだいね」

 妖しいおっさんが無形の肩に手を置く。


 これは、今度こそ、命がけになりそうだ。


 そして、ここまで来て、俺が逃げるわけにはいかないよなぁ。

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