11-41 最後の杭、アッシャーを
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俺の判断で全てが決まる。と言っても、そんなに重要な状況なんだろうか? 正直、それが何処までの状況から分からないから、悩んでいるんだよなぁ。もし、これが取り返しのつかない最悪な状況を生み出すって言うのなら、二夜子があっさり引いたの、おかしいよな? それならさ、もっと必死になるはずだ。どちらを選択したとしても、そこまで取り返しがつかないことにならないんじゃないか? 後で、何とか出来る範囲なんじゃないか?
となれば……。
「ゆらと、準備をしてくれ」
「師匠、いいんだよね?」
俺はゆらとの言葉に頷く。せっかく準備したんだからさ、準備が無駄にならない方がいいよな。
「分かったよ」
ゆらとがタブレットを片手に、真剣な表情で頷く。にしても、世界を壊すってどういう意味だったんだろうな。何かの比喩か? 世界を改革する、みたいな、さー。
『XD』
ゆらとは、タブレットに表示されたアルファが指示する通りに魔石を置いていく。へー、魔石を置くんだ。これも無形が用意していたのかな?
『マスター、規則的なフィア結晶反応があります』
足元に転がっているゼロがそんなことを言っている。そりゃまぁ、今、ゆらとが魔石を置いてるからな、当然だ。
にしても、ここから見ると適当に置いているようしか見えないんだが、規則があるのか?
ゆらとが、上から一個、次に二個、また二個、次に一個、そんな感じで杭を囲むように置いている。魔方陣とか、そういう感じならわかりやすいんだけどな。ちょっと、違うよな。ぱっと見、規則があるようには見えない。
「師匠、出来たよ」
ゆらとがこちらへと振り返る。置かれたのは、全部で10個の魔石、か。でもさ、これ、置いただけだよな? それで大丈夫なのか。
「ゆらと、これでいいのか? 何かスイッチとか反応させるようなことをしなくても大丈夫なのか?」
ゆらとが不安そうに、ゆっくりと頷く。
「これで、大丈夫なはずだよ。杭が壊れたときのエネルギーに反応して、発動するはずだよ」
それで、その解放される貯めた竜脈のエネルギーを封じてくれる、か。
「僕はこの手の専門家じゃないからね、多分としか言えないよ」
多分、か。
『=)』
アルファは自信ありそうだな。解放された力を封じる為の、魔石の配置を、アルファが計算して出したのが、これ、何だよな? うーむ。
「な、何?」
俺は巴の方を見る。専門家でしょ?
「巴はどう見る?」
「わ、私も流れが作られているとしか読み取れません。それでも、私は大丈夫だと思います」
俺は残りの二人を見る。
安藤優とリッチは肩を竦めるだけだった。まぁ、君らは、ね。
まぁ、巴が大丈夫そうって言うなら、大丈夫か。
それじゃあ、壊しますか。
俺は真紅妃を持ち、杭の前に立つ。さあ、行くぜ。
「行くぞ、黄金妃ッ! 砕け、真紅妃ッ!」
黄金妃の力で踏み込み、真紅妃で突きを放つ。
真紅妃が唸りを上げ、無限の螺旋を描く。
解き放たれた真紅妃と巨大な杭がぶつかり合う。
周囲を震わせる衝撃波をまき散らし、杭に――一瞬にして亀裂が走る。
そのまま突き、捻り込む。
そして、杭が、巨大な杭が、真紅妃の一撃によって砕け散る。
杭は砕けた。
最後の杭が砕け散った。
その瞬間、砕けた杭の上空に、何か黒い竜の姿をした光が生まれ、そして、それに反応するかのように置かれた魔石が光り始めた。光と光が繋がる。10個の魔石をつなぐように光の線が生まれ、黒い竜を閉じ込める。
「おいおい、これ大丈夫なのか?」
俺は皆の方を振り返る。
『危険、危険、危険、危険。巨大な反応……』
振り返ると転がっているゼロが警告を繰り返していた。いや、まぁ、危険なのは、雰囲気で分かるけどさ。
「先輩、急いで離れろ!」
へ? ああ、確かに、この場に居るのは不味いか。
俺は黄金妃の力で、急ぎ、駆け、飛び、その場を離れる。そして、そんな俺を追いかけるように巨大な爆発が起きた。危ね、もう少しで巻き込まれるところだったぞ。
俺は、ゆらとの前に――呆然とした表情で爆発を見ていたゆらとの前へと歩く。
「これで良かったのか?」
ゆらとは、ゆっくりと首を横に振った。
「半分……」
半分?
「使った瘴気の結晶が小さすぎたんだ! 力に耐えられなかった……」
ゆらとは呆然としている。いや、ちょい待て、それだと失敗ってことか?
俺は巴の方を見る。
「一部、竜脈の力は暴走せずに、元の流れに戻っているようです」
一部?
「それで、どうなるんだ?」
「分かりません」
巴でも分からないのかよ。
「先輩、とりあえずよー、戻ろうぜ」
安藤優がニヤリと笑う。あ、ああ。ここで考えても仕方ない。無形たちに相談だな。
「これで最後の杭も破壊が終わったんだよな。後はフミタンタンか」
「センパイ、おめでとうデース」
リッチが親指を突き出す。あ、ああ、ありがとう。って、お前まで、俺を先輩って呼ぶのかよ!
とりあえず、皆で帰ることにする。俺たちはやれることはやったはずだ。後は、無形たちの仕事だよな?
俺は転がっているゼロを持ち上げる。
その、帰路の途中、異常が起こった。
「お、おい、アレ!」
「先輩、こいつぁ……」
南の空が、紅く染まっていた。次々と激しい閃光が起こり、その空を紅く染めている。
「おい、あっちの方向って……」
隕石があった方だよな?
「先輩、攻撃が始まったのかもしれないぜ」
攻撃?
そうか、守っているバリアが消えたんだもんな。だから、一斉に、か。
とりあえず、合流を急ごう。