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むいむいたん  作者: 無為無策の雪ノ葉
11 深淵攻略
914/999

11-37 最後の杭、その守るもの

―1―


 道を外れ、木々がまばらに生えた山道をリッチの案内で駆けていく。あいつ、枯れ草が積み上がって歩きにくい山道をすいすい駆けていくな。さすがは諜報員ってところか?

「こっちデース」

 その後を遅れないように安藤優、巴が駆けていく。巴なんて巫女さん姿で動きにくそうなのに、それでもついて行けるんだから、こいつも充分規格外な運動能力だよなぁ。俺はまぁ、アレだ。重たい小手に、真紅妃、それに結構な重量のあるゼロを抱えているからな。少し遅れても仕方ない、うん、仕方ない。


 木々の隙間をぬって駆ける。


 うん? 何か音が聞こえる?


『マスター、異常なフィア反応です』

 抱えていたゼロが縦棒のような黒目をチカチカと点滅させながら声を出す。こいつ、口にあたる部分がないけどさ、何処にスピーカーがついているんだろう。


 そして、ゼロの言葉が正しいと示すように、それが現れた。


 巨大な杭の目の前に、ヒルの胴体とイソギンチャクの頭を持った謎の巨大生物がいる。大きさは人の二倍くらいか? 気味が悪いな。


 巨大な頭イソギンチャクは、まるで歌っているかのように何かの音を発している。さっきの音はコイツか。


 しかしまぁ、見れば見るほど異常な生物だな。

「巴、コイツが……」

 俺が巴の方を見ると、巴が怯えるように震えていた。

「あ、あり得ないです……」

 巴は震えを抑え込むように自身の両手を体にまわしている。震えて上手くしゃべれないのかカチカチと歯と歯がぶつかる音も聞こえる。

 見れば、安藤優とリッチも同じような反応だ。安藤優が跪きそうな形で崩れ落ちる。しかし、その途中で手に持った剣を杖代わりに耐える。

「こ、こいつは背水の陣……」

 安藤優の額に脂汗までにじんでいる。

「何で、ホワイ! 何で!」

 怯えた表情のリッチの瞳から涙がこぼれ落ちる。自分でも、何故、涙を流しているのか理解出来ないようだ。


 何だ? 何が起こっているんだ?


 頭イソギンチャクが、その頭から生えている触手を、まるで何かを渇望するかのように頭上へと掲げる。空?

「おい、巴、しっかりしろ」

 俺は巴の肩に手を置き揺する。

「怖い、な、何故か、心の奥から、怖い」

 巴はカチカチと歯音を立て涙している。


「こいつもフィアなんだよな?」

 俺が巴を何度も揺すると、少しだけ瞳に色が戻った。

「わ、分かりません。瘴気の影響で化け物になることはあっても、年数をかけて色々な動物と混ざり合うことはあっても、こ、こんな……」

 巴が下を向く。まっすぐにヤツを見ることが出来ないようだ。


 頭イソギンチャクは、腕のような触手を掲げたまま、歌うような音を発し続ける。何かの神話で、見る者を発狂させる神話生物が居たような気がするけどさ、コイツも似たような感じか?

 安藤優や巴、それにリッチ――化け物退治の専門家でさ、どんな化け物でも飄々と相手にしそうなこいつらが、何だよ、これはッ!


 頭イソギンチャクの歌は続く。


 そして、暗く――何処から現れたのか黒雲が渦巻き始めた。おいおい、さっきまで快晴だったよな? 少し肌寒かったけどさ、晴れていたよな?


 頭イソギンチャクの歌が大きく、激しくなる。佳境にでも入ったっていうのかよッ!


 それにあわせたかのように黒雲がどんどん広がっていく。不味い、不味い、これは不味い気がするぞ!

 俺は地面にゼロを置き、袋から真紅妃を取り出す。

『マスター、危険、危険』

 ああ、危険なのは分かっているよ。でも、動けるのは俺だけみたいだしな。このままだと不味い気がするから、先手必勝だぜ。


 真紅妃を構え、歌っている頭イソギンチャクへと駆ける。


 そして、そのまま頭イソギンチャクを貫く。あれ? あっさり?


 頭イソギンチャクがぐったりと倒れ込むように伸ばしていた触手を垂らす。見かけ倒し? いや、何だ?


 歌が止まらない。


 何処の言葉か、何か分からない歌が止まらないッ!


 空の暗雲はさらに深くなっていき、周囲を暗く染めていく。光が消えていく。いや、光はあった。空に、空に光が。


 暗闇の中、空から光がこぼれ落ちる。まるで流星のように――って、不味いッ!


 空から光る無数の流星弾が落ちてくる。おいおい、何だよ、コレはッ! 魔法か、魔法か? 隕石でも落とす魔法か?


「わ、私が……!」

 巴が叫ぶ。震える体を無理矢理抑え込み、にじむような汗と涙を流しながら、お札を空中に設置していく。そう、空中にだ。

「け、結界の中へ……」

 巴が、そこで力尽きたように崩れ落ちた。


 巴が居た場所には、お札とお札をつなぐように透明な膜のようなものが出来ていた。これが結界か? あの流星群を防ぐことが出来るのか?


 歌は止まらない。


 安藤優とリッチを見るが、震えて動くことも出来ないようだ。俺は震える二人を抱えて結界の中へと入る。

「はぁ、はぁ、す、すまねぇ、先輩……」

 安藤優が絞り出すように喋る。喋るのも辛そうだ。


 リッチは、何か必死に、抗うように、耐えるように歯を食いしばっている。


 歌が続く。


 空からこぼれ落ちた光が結界をうつ。巴、信じているからな、耐えてくれよ。

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