11-35 近未来の動物型ロボット
―1―
翌日になり、いざ出発とロビーに集まっているとエレベーターが動き始めた。はれ? 上へと昇っているようだけど、誰かが呼び寄せたってことか? ま、まぁ、この階専用のエレベーターって訳じゃないから、こういうこともあるか。ただまぁ、何というか、タイミングが悪いというか、出端を挫かれた気分だなぁ。
少し待ち、エレベーターが降りてきた。
周囲を見回す。全員、揃っているな。来栖二夜子は相変わらずジャージだけどさ。これ、みんなからはジャージに見えてないんだろ? 着替えが楽でうらやましいよ。
そして、エレベーターが開いた。
そこには……、
「忙しい時間にごめんなさいねぇ」
例の妖しいおっさんが乗っていた。へ? 何で、このおっさんが。
「これは、どういうことですか?」
無形が詰問するような、少しきつめの口調で話す。無形も聞いていないってことか。
「あらーん、そんな怒らないでよー。これよ、これ!」
そういった妖しいおっさんの足元には、小さなロボットがいた。そう、ロボットだ。手を持たず、まん丸胴体に長い耳と足がくっついている。二つの黒い縦棒が目の代わりか。まるで、何か、アニメのマスコットキャラクターのようだ。
「それは?」
無形が軍帽の下から鋭い視線を向ける。
「アルファの新型試作機。これ自体が自律行動してくれるわぁ」
おー、近未来! そう言えば、アルファってさ、元々、危険区域での自律行動ロボットとか、そういう用途を目指してのAIだったんだよな? ついに試作機が出てきたのかぁ。ちょっと感動するなぁ。
「でも、あまり実用的な姿をしていないよな?」
俺が聞くと、妖しいおっさんは「そうなのよぅ」と言いながら何かクネクネしていた。
「まだ、試作機だから、これが限界なの」
それを聞いた無形は大きくため息を吐く。多分、予想される展開が分かったのだろう。
「今回の作戦に同行させるんやねー。それで実験データを取りたいって感じなんやろうね」
来栖二夜子も呆れたような顔で妖しいおっさんを見ている。
「んもー、正解!」
「おいおい、作戦本部はよー、作戦のことを、これがどれだけ困難な、これからのこの国に重要なことか分かってるのかよ!」
安藤優は真面目に怒っている。そりゃまぁ、こっちは命がけだからな。
「現場の気持ちは分かるわよ。でもね、上は、その先を考えないと駄目なものなのよ」
妖しいおっさんの言葉に無形は肩を竦めるばかりだ。そして、小さく頷く。
「了解した」
「無形隊長!?」
安藤優は無形の決定に驚く。
「はぁ、無形隊長が言うなら仕方ないね」
ゆらとはあきらめ顔だ。
「近未来デース」
リッチの言葉は馬鹿ぽいなぁ。
「しかし、だ」
そして、無形が、すぐに鋭い眼光で妖しいおっさんを見た。
「何故、この作戦を知っている」
無形が妖しいおっさんを詰問する。あれ? そう言えば、このおっさん、政治家だから、軍部の方には関われないって言っていなかったか? これ、越権行為になるんじゃないか?
「無形ちゃん、昨日の件、分かるでしょ?」
無形は大きくため息を吐く。
「なるほど――お目付役という訳か」
昨日の件? あー、まさか、俺とリッチとゆらとで会話した、アレか。アレ、不味かったのか……。
「ところで、その子の名前はなんて言うん?」
来栖二夜子が無邪気に聞いている。こういう切り替えの早さはさすがだなぁ。
「名前も個体名も、まだね。だって、試作機ですもーん」
妖しいおっさんが、ぷりぷりっとクネクネしていた。気持ち悪いなぁ。にしても、名前がないのは不便だなぁ。あ、そうだ!
「試作機――試作零号機ってことで、ゼロとか?」
『ピ! 個体名認証。マスター、本日よりゼロとお呼びください』
俺の言葉に反応したのか、マスコットキャラクターのようなロボットが機械音でそんなことを言った。おー、こいつ喋るんだ。
「師匠……」
ゆらとが呆れたような顔でこちらを見ている。周囲を見れば、周りのみんなが呆れた顔でこちらを見ていた。へ?
えーっと。
「俺、何かやってしまったか?」
皆が呆れた顔のまま頷く。えーっと、あのー。
「こいつの面倒はお前に任せた」
無形は投げやり気味に俺へと振ってきた。へ?
「先輩、空気読もうぜ」
「ま、師匠が認識させたみたいだからね、責任持ったらいいんじゃないかな」
ゆらとはため息を吐くばかりだ。おいおい、今から、そんなだと老けちゃうぞ?
「センパイ、らしいのう!」
円緋のおっさんは楽しそうに笑っている。
目の前の小さなロボットが、妖しいおっさんの足元を離れ、こちらへと歩いてくる。ホント、テコテコって感じだな。
『マスター、よろしくお願いします』
ああ、よろしく。
って、うん?
「なあ、これって早く歩いたり、段差を乗り越えたり出来るのか?」
「駄目よ、駄目よ! この子は、まだまだ試作の繊細な子なんだから!」
ちょっと待て、ちょっと待て。
「おいおい、それでどうやって同行させるんだよ!」
歩くのはおまけ程度の機能なのかよ!
「あなたがマスターらしいですから、抱えて持ち運べば良いと思います」
巴が冷たい視線を向ける。痛い、痛い。その視線が痛い。
「そうですネー」
雷月英は苦笑していた。
し、仕方ない。
俺はゼロを持ち上げてみる。う、重い。見かけよりもかなり重い。そ、そりゃあ、最先端の技術が中に詰まっているんだもんな、重くなるよな。
『マスター、よろしくお願いします』
縦に二本伸びた黒棒の瞳をチカチカとさせながらゼロがそんなことを言っていた。はぁ、マジかよ。
これ、俺の荷物が増えただけじゃんかよ! しかも、これから歩きだろ? しゃ、洒落にならない。小手があって、真紅妃もあって……。
「俺、この小手がさ、もしかするとゼロを傷つけたり……」
そこで巴に再度にらまれた。
あ、はい。すいません。
2021年5月16日修正
手足を持たず → 手を持たず、