11-34 フラグを立てるなよなぁ
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しかし、何で、俺とゆらとにだけ話したんだ?
「皆には説明しなくてもいいのか?」
無形は首を横に振る。
「必要ない」
「何故だ? 信用していないのか?」
無形は肩を竦める。
「逆だ。信用しているからだ」
えーっと、つまり、信用していないから俺を呼んだのか? 勝手な思い込みで行動しないように?
「気にするな。付き合いの長さの差だ」
多分、俺が不満そうな顔をしていたからだろう、無形が苦笑しながらもフォローを入れてきた。
「話は以上だ」
後はゆっくり休め、か。いや、一つだけ聞いておきたいことがあるんだよなぁ。
「何故、こんなにも遅くなったんだ?」
「遅くなった?」
無形がこちらを値踏みでもするかのように鋭い眼光を向ける。
「いや、あれだ。調査にでも――検査とかに時間がかかったのか? それとも、俺たちの艦の受け入れ工作に時間がかかったとか」
無形は、俺が言いたいことの意味がやっと分かったのか、どうでもいいような感じで頷いていた。
「それは、そこのリチャード・ホームズに聞け」
俺はリッチの方を向く。何でリッチに?
「オー、ダメデース! 内緒デース」
しかし、リッチは口に手を当て、首を横に振るばかりだ。それを見た無形は呆れたようにため息を吐き、
「リチャード・ホームズの買い物に時間がかかった」
そして、すぐにばらしていた。
「買い物?」
「この国、ナウ、まともにバイ出来るショップ、少ないデース」
だから、その怪しい言葉遣いは、うむ、わざとらしくてなぁ。まぁ、今の状況だと買い物は難しいもんな。ここは、まだ少しは稼働しているみたいだけどさ。
「で、何を買ったんだ?」
「それはヒミツ、シークレットデース」
「指輪だな」
これも無形がすぐにばらしていた。
「オーノー! 何で! ホワット!」
リッチは慌てるが、無形はどうでもいいとばかりに肩を竦めている。
「へー、恋人にでも渡すのか? 故郷に恋人を置いてきたとか?」
リッチは俺の言葉に指を振って答える。何だよ、何だよ、その得意気な顔は!
「はいはい、来栖二夜子さんに渡すためにですよね」
ゆらとは呆れたようにわざとらしいため息を吐きながらリッチを見ていた。へ? そうなの?
「ホワイ! 何で知ってマスカー!」
「見れば分かるでしょ。分からないのは師匠くらいだよ」
いやいや、だってさ、リッチの性格が女好きぽいからさ、誰にでも同じような感じで対応しているのかと思うじゃん! 思うじゃん!
「ソウデース……」
リッチは何故か照れた顔を隠すように横を向いていた。こいつでも照れるんだなぁ。
「この戦いが終わったら結婚するんだ」
そして、こちらに向き直ったリッチが何故か真面目な顔で、さらに流暢な言葉遣いでそんなことを言っていた。
「はいはい。二夜子さんがオッケーしてくれるといいですね」
ゆらとは付き合い切れないとばかりに呆れ顔だ。
って、そうじゃなくてだな。ゆらとは知らないのか?
「戦う前からフラグを立ててるんじゃねえよ! 不吉な! 死ぬ気か? 死ぬ気か?」
よくある古典的なフラグじゃねえかよ! ふざけんなよ!
「チッチッチッ、甘いデース」
リッチは得意気に指を振っている。
「フラグらしいフラグだから、逆にクラッシュするのデース」
こ、こいつ……。確か紳士の国の諜報員なんだよな? フラグが分かるとか、詳しすぎないか? もしかして、それ系なのか?
「リッチ、お前……漫画とかアニメとか詳しそうだな」
「当然デース! 学習しました!」
あ、はい。
「二夜子さんとのフラグがクラッシュするといいね」
「オーノー!」
ゆらとの突っ込みにリッチは大げさに神に祈るポーズを取っていた。これ、コントか?
まぁ、漫画やアニメが好きだから、あんな怪しい言葉遣いなのか。所々、流暢なのも漫画とかの台詞だからなのかなぁ。こんな、整った容姿で、中身がコレとか、凄いがっかりだよ!
「今日もニャーコはビューティフルでした。セッシャの女神デース」
ジャージなのに?
「た、確かに二夜子さんは容姿もいいし、今日なんて凄くおしゃれな格好だったからね」
うん? おしゃれな格好? ジャージが? ちょっと待て、ちょっと待て。
「ちょっと聞いていいか?」
俺の言葉にコントを繰り広げていた二人がこちらを見る。
「来栖二夜子の今日の格好はどんな格好だった?」
俺の質問に二人が首を傾げる。不審そうにこちらを見ながらも、それでも二人が答えてくれる。
「カジュアルなコートにジーンズ姿じゃない?」
「フォーマルなドレス姿デース」
二人ともの意見が違う。
「うん、だよね?」
「ソウデース」
意見が違うのに、二人共が同じことを言い合ったかのように頷きあっている。これは、どういうことだ?
「俺にはジャージ姿に見えたんだが……?」
俺の答えに、二人ともが、馬鹿にしたような顔でこちらを見た。
「師匠、目まで悪くなったの?」
「あり得ないデース」
えー? 俺の言葉には同意してくれないのか!?
すると、俺たちのやりとりを見ていた無形が笑い出した。
「そうか、来栖二夜子はジャージだったか」
無形は、その姿に似合わない腹を抱えた姿で笑っている。
リッチとゆらとは、よく分からないという顔で向き合っていた。
えーっと、もしかしてジャージ姿であっているのか? つまり、それが来栖二夜子の能力? 何だろう、認識阻害とか催眠とか、そんな感じなんだろうか。
いや、でも、アレだよな。
そういう能力を使って、実際はジャージ姿って。確かにジャージ姿は気楽だし、便利だけどさ。それってどうなんだ? うーん、正しい能力の使い方なんだろうか。
有効活用しているのは間違いないけどさぁ。




