11-33 この中に裏切り者が!?
―1―
エレベーターはすぐに止まった。
エレベーターの扉が開く。
その先は――先ほどと変わらないロビーだった。うん? 同じ部屋?
「こっちだ」
無形がエレベーターを降り、歩き出す。こちらを振り返ろうともしない。
作りはそっくりだが、そっくりなだけだな。さっき安藤優が動かしたはずの椅子が元の場所に置いてあるんだから、間違いないだろう。でも、もし、そのままだったら――同じ場所って錯覚してしまうよなぁ。まぁ、ホテルだから、各階を同じような作りにしているのかもしれないな。
「師匠、行くよ」
ゆらとが立ち止まっている俺を心配したのか、呆れたような顔で呼びかけている。はいはい、すぐ行くよ。心配してくれたんだよな? 馬鹿にしているんじゃないよな?
「ゆらとは来たことがあるのか?」
「初めてに決まってるでしょ」
ゆらとは、こちらを馬鹿にしたような顔をしている。いや、まぁ、そうだとは思ったけどさ、でも、なんだか、迷いがないじゃんか。もしかしたらなぁ、なんて思うよな? な?
「セッシャも初めてデース」
リッチは何故か得意気だ。無形と一緒に、このホテルに泊まっていたんだよな? なのに初めてなのかよッ! 何をしていたんだか……。
無形の案内で用意された部屋の一つに入る。俺とゆらと、リッチが部屋に入ったところで無形が扉を閉める。部屋の中は、高級ホテルらしく高そうな調度品が並んでいた。ベッドなんてふわふわだぞ、ふわふわッ!
「リチャード・ホームズ、頼む」
「セッシャにオマカセデース」
リッチが頷き動く。部屋の中を動き回り、物を動かし、色々と調べて回る。俺はふわふわのベッドに腰掛け、ゆらとは高そうなテーブルの前に用意された椅子に座った。
しばらくして、リッチが小さな四角い箱を持ってきた。
「コレ、デース」
「そうか」
無形がリッチから四角い箱を受け取り、すぐに握りつぶしていた。おいおい、握りつぶすとか、凄い握力だな。
「北条ゆらと、アルファは?」
「あ、はい。隊長……アレ?」
ゆらとがタブレットを操作し、首を傾げる。
『:p』
タブレットには、いつものようにアルファの顔文字が表示されていた。何がおかしいんだ?
「アルファは、そのままスタンドアローンで使え」
ゆらとは一瞬驚き、そのまま静かに頷く。
「隊長、僕たちを呼んだ理由は?」
ゆらとの言葉に無形が頷く。
「裏切り者がいる」
へ? 裏切り者?
「確実デース」
「現在、杭にフィアは存在しないが、明日には居るだろう」
無形の何かを確信した言葉。
「ちょっと待て、ちょっと待て。裏切り者がいて、そいつが明日、敵を用意するってことか?」
無形は頷く。
「いやいや、それなら、日付をずらすとか、時間をずらすとか」
無形は俺の言葉に肩を竦める。
「無駄だろうな」
「で、その裏切り者って誰だ? 俺たちの誰が……」
無形は大きなため息を吐く。
「お前は仲間を疑うのか?」
いやいや、そうじゃなくて、そうじゃないけどさ。でも、裏切り者がいるって言われたら、そう思うじゃん。
「裏切り者がいるのは作戦本部か、それに関わる者だろう」
あー、無形の――俺たちの上司の中に居るってことか。確かに、作戦が筒抜けというか、上手く動かされている感じがあったもんなぁ。
「それと、お前が言っていた件だが」
俺? 何か言っていたか?
「杭のパワーデース」
あー、杭がエネルギーを送っているのではなく、貯めている感じだって話か。
「間違いない」
ん? 何が間違いないって?
「杭は竜脈の力を貯め、抑えている物だった」
ちょっと待て、ちょっと待て。
「た、隊長、それって壊したら……?」
無形は首を横に振る。
「不味いだろうな」
いやいや、俺、それ3つも壊してしまったよ。
「しかし、他に手段がない。杭を壊すことで、フミチョーフ・コンスタンタンへの道が開けるのは本当だろう。相手の思惑に乗るのは癪だがな」
「それ、大丈夫なのかよ? そのタンタンを追うあまり、もっと酷いことになるんじゃないか? それこそ、巴が言っていたみたいに、この国が沈むって感じでさ」
無形は首を振る。
「杭をそのままにしても同じく沈むだろう。ならば、早いうちに壊した方が――まだいい」
そのままも駄目なのかよ。なら、うーん、まだ壊した方がマシなのか。どっちにしろ、か。うーん、後手だなぁ。
「だから、最後の杭を破壊後、すぐに竜脈の力をこちらでコントロールする」
無形が言葉を続ける。そこでゆらとがハッとしたように顔を上げる。
「だから、アルファなんですね!」
『=)』
「ああ、その計算を頼む」
よく分からないが、アルファが計算すると何とかなるのか? 計算で何とかなるもんなのか?
「北条ゆらと、今からアルファにやらせておけ」
無形が高級そうなテーブルの上に何かのチップを置く。ゆらとがそれを受け取り、タブレットに挿入した。
「任せてください!」
「これで、あちらの思惑に一矢報いることは出来るだろう」
ふむ。これがゆらとを呼んだ理由か。
「俺は普通に杭を壊しても大丈夫なのか?」
無形は頷く。
「そうしてくれ。敵もお前の為に餌を用意してくれるだろうからな」
相手の思惑通り、か。
2021年5月16日修正
それ3っつも壊して → それ3つも壊して