11-26 これで全員が揃ったな!
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「あーら、お疲れさまぁ」
艦の中に入ると、例の妖しいおっさんが待ち構えていた。待ってるのが、このおっさんとか……。せめて艦長か、隊長の無形じゃないのか?
「とりあえず、報告――よりもシャワーを浴びてきてもらった方が良いかしら」
海水を浴びまくっているからなぁ、そうさせてもらえると凄く助かる。でもさぁ。
「ありがたい。でも、いいのか?」
「報告のことぉ? それならアルファ経由で確認しているわよ」
いや、それも重要だったかもしれないけどさ。
「こういう船で、水って貴重じゃないのか?」
俺が聞くとおっさんは、おほほと笑っていた。船だと水が貴重って聞いたことがあったからさ。
「生活用の水は作ってるから! それに、補給したばかりですもの」
そういえば、基地から出航したばかりだったな。いろいろあったから、もう何日も経っているような気分だったけどさ、まだ今日の話だったんだよなぁ。
「わかった。ありがとう」
もう一度、お礼を言っておく。
「師匠、順番だからね」
俺の横ではゆらとが肩を竦めていた。こいつ、師匠って呼んでるけど、その言葉に敬いがないよなぁ。呼べって言われたから、ただ呼んでいるだけって感じだもんな。
「こういう時、レディファースト、デース」
リッチが偉そうに前髪を掻き上げていた。
「ほほう、さすがは紳士の国の御仁よなぁ」
何故か修験者の格好のおっさんが関心している。そして、その当の本人、巴は困ったように黙り込んでいた。
もうね、何でもいいよ。
「終わったら、作戦会議室に集合ね!」
妖しいおっさんは、それだけ言うと片手を上げて、どこかへ行ってしまった。作戦会議室に向かったのかな?
その後、艦内のシャワーを浴び、用意してもらった服に着替える。さあて、作戦会議室とやらに向かいますか。
リッチと修験者の格好の大男――円緋のおっさん、巴は、すでに向かった後のようだ。
「遅い」
ゆらとだけが待ってくれていたようだ。
待たせたな。では、行くぜ。
「師匠、そっちじゃないよ」
俺が歩き出すと、すぐに、ゆらとがこちらを馬鹿にしたような呆れた声で制止してきた。いや、あのね、俺、この艦の元からの乗組員とかじゃないからね。
「う、うむ。そうか。でも、俺は、この艦の乗組員ではないからな。迷っても仕方ないと思うぞ」
「はいはい。それは僕も一緒だからね。この艦に乗ることなんて、そうそうあることじゃないんだからさ」
ゆらとはますます馬鹿にしたような顔でこちらを見ている。いやぁ、この年になると物覚えが悪くなってねぇ。若い子は物覚えがいいなぁ。
作戦会議室に到着する。
「先輩、やったじゃねえかよ!」
そこではサングラスを上げた安藤優たちが待っていた。妖しいおっさん、無形、安藤優、円緋のおっさん、獣耳の雷月英、えんじ色のジャージに着替えた巴。って、巴、ジャージかよ。お前、私服がそれしかないとか言わないよな? 後は、そう、それに――アレ? 見たことのない女性がいるぞ。
きれいな人だった。巴も容姿が整っている方だと思うが、この女は次元が違う。綺麗――いや、違うな。妖艶だ。見ていると魅了される、飲み込まれる、そういった類いの危険な容姿だ。その女が口を開く。
「どったのん? あー、そう言えば初めましてだったんよね」
なんだか、変わったしゃべりだな。
「うちは来栖二夜子、よろしゅうなー」
その女が名前を名乗る。見る者を吸い込むような笑顔でこちらを――と、そこで手に持っていた真紅妃が震えた。
ん?
「何で、常に槍を持ち歩いているかと思ったら、そういうことやったんやねー」
来栖二夜子が笑っている。しかし、その笑顔には先ほどまでの吸い込まれるような感じがない。
「来栖二夜子、遊ぶな」
無形が来栖二夜子を注意する。
「はいな、かんにんなー。でも、さすがは無形隊長がスカウトするだけはあるんやねー」
来栖二夜子は猫を思わせるような、そんな表情で楽しそうに笑っている。ん? 何かしたのか?
まあいいや。
皆にあわせて、俺も用意された席に座る。席は、後、一つだけ空いていた。後は艦長くらいだな。まぁ、艦長は艦を動かすのに忙しいだろうから仕方ないな。
これで全員揃ったな。
「リチャード・ホームズの姿が見えないな」
無形が呟く。
「誰も案内しなかったのかよ」
安藤優が絶望したって感じで顔をうえに上げていた。演技派だなぁ。って、あいつこそ、この艦が初めてじゃないか!
巴も円緋のおっさんもここにいるし、ゆらとは俺を案内してたから――おいおい、みんな薄情だな。特に巴なんてプリティガールとか言われて舞い上がっていたんだからさ、案内してやれよ。酷いなぁ。
「隊長、アルファが案内しているみたいです。もうすぐ到着します」
「やれやれ」
ゆらとの言葉に無形が呆れていた。
そして、すぐに金髪碧眼の優男――リッチがやって来た。
「やっと到着デース。オマタセデ……」
そこでリッチに言葉が止まる。何故か小さく震えながら、動かない。ん? どうした?
そして、無言で歩き、来栖二夜子の前で跪く。
「……marry.me」
ん? こいつなんて言った? よく聞き取れなかったぞ。
「困ったわー、ホント、困ったんねー」
来栖二夜子は苦笑している。
「セッシャ、本気デース」
だから、何が始まったんだ?
「リチャード・ホームズ、後にしろ。ここは作戦会議室だ」
無形は、このまま何かが始まりそうな雰囲気を打ち壊す。
「2つ目の杭の破壊、よくやってくれたわーん」
慌てて妖しいおっさんも話を続ける。
「ハウ……、ソーリーデース」
リッチは名残惜しそうにしながらも、来栖二夜子のそばを離れ、空いている席に座る。
ホント、やれやれだよ。
でもまぁ、これで全員揃ったか。