2-3 買物
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「それで、この後はすぐに宿屋かい?」
『いや、申し訳ないが武器と防具、日用雑貨を見に行きたい。場所を教えて貰えないだろうか?』
換金所で上手くお金をゲットすることが出来たので、そのまま買い物をすることにする。この急な申し出にも、ウーラさんはイヤな顔をせずしっかりと案内してくれる。
で、ついたのが鍛冶屋だった。
「ここには武器、防具屋って無いんだ。仕方ないので、ここの冒険者はこの鍛冶屋から武具を買っている」
無いのか……。いや、でもこの世界にってコトでは無く、この里にってことだろうね。
鍛冶屋の中は至る所に剣や鎧などが散らばっており、足の踏み場が無いほどだ。もちろん値札などは付いていない。と、奥から鍛冶士のおっさんが……って、おっさんなのか!?
奥から現れたのは犬の頭を持った姿をした人物だった。手には鍛冶用の道具なのかハンマーを持っている。
「うお、ま、魔獣!?」
犬のおっさん? が震えている。いやいやいや、俺からしたらあんたの方が魔獣だよッ!
っと、俺は忘れずに驚いている犬頭の獣人? を鑑定しておく。
【名前:ホワイト・フウア】
【種族:犬人族】
あ、コボルトとかじゃないのね。獣人とかでも無いのか? うーん、聞くのも失礼になりそうだし、ここはおとなしくしておこうか。
「ああ、おやっさん驚かないでくれ。星獣様だ。今日、冒険者になったんだが武具を探していてね」
相変わらずのウーラさんのフォロー。なんというか、この人が居なかったらもの凄く大変だったんじゃね? と思うことしかりです。何処に行っても受け入れられなくて世をはかなんで魔王にでもなっていたのかもしれん。
『驚かせてすまない。自分は氷嵐の主という星獣だ』
「あ、ああ、星獣様か。驚かすんじゃねえよ。で、何が要るんだ?」
ふふふ、欲しい武器は決めていたんだ。このリーチの無い腕だと剣などは持てないからなッ!
『短めの槍が欲しい』
「あ、斧じゃないんだ……」
何故かウーラさんががっかりしている。斧、好きなのか?
「ああ、短槍か。今、売れる物だと鉄の槍くらいだな。15360円で良いぞ」
15360円だから、銀貨3枚か。相場が分からないけど、こんなもんなのかな。にしても鉄の槍かぁ、第二王子の最強装備ですな。
『ああ、それを貰おう』
俺は銀貨3枚を渡し、槍を受け取る。さっそく鑑定っと。
【鉄の槍】
【鉄で作られた標準的な短槍。特別な力は無い】
木で出来た柄の長さは1メートルちょっとくらい。ここは鉄じゃないのね。その先端、穂には三角錐のシンプルな鉄の塊が付いている。
俺は糸を吐き、槍に結びつける。これで肩にかけて持ち運べます。
「うお、突然、糸を吐くんじゃねぇ。とは言ってもお前の糸、便利そうだな」
そうだろう、そうだろう。この糸、すっごい便利なんだぜ。
-2-
鍛冶屋を後にしたところでウーラさんが声をかけてきた。
「ランさん、良かったら服を買わないか? 服を着ているだけでも魔獣と間違われなくなると思うんだ」
あ、目から鱗です。服を着るって文明人の第一歩じゃん。というか、よく考えたら、自分って今……裸なのか、裸族なのか、そうなのか……いやーん。
『ああ、そうだな。服を買えるところに案内してもらっても良いだろうか』
「もちろん、服飾店はここからすぐ近くなんだ」
服飾店は鍛冶屋のすぐ隣だった。すぐ近くじゃ無くて隣だろうがッ!
表に何も出ていなかったから気付かなかったよ。
服飾店の中にも既製品の服などは飾って無く、反物が置いてあるだけだった。え、もしかして作るところから?
「あ、こちらは星獣様のランさんです。ランさんに合う服を見繕って欲しいです」
服飾店に入ってすぐにウーラさんが店員さんに説明をする。いやまぁ、何度も同じ展開を繰り返すのも、なんだしね。
「え、あ、はい。で、ではサイズを測らせて貰います」
店員さんは普人族の女性だった。店員さんが近づいてくる。
「か、噛みませんよね?」
噛まないです。
「うーん、こちらの方の体型だとベストかガウンでしょうか。今ある物だと銀糸製と麻糸製がありますね。どちらも少しの手直しでお渡しできますよ」
『それぞれの値段と材料の違いで何が変わるかを教えてもらっても良いだろうか?』
「はい、銀糸製だと魔法の付与が可能になりますね。肌触りも良いです。麻糸は普段着用ですね。銀糸製のベストが40960円、ガウンが122880円、麻糸製のベストは2560円、ガウンが5120円です」
えーっと、銀糸のベストが小金貨1枚、ガウンが小金貨3枚、麻糸だとベストが銅貨4枚、ガウンが銀貨1枚か……。うーん、銀糸製も買えるけど今の総資産的に買ってしまうのは後が怖いなぁ。
『麻糸製のベストとガウンを1着ずつ貰えるだろうか?』
「はい、1着ずつですね。全部で7680円になります」
素直に銀貨1枚と銅貨4枚を渡す。
「はい、確かに。では手直しがありますので明日また来ていただけますでしょうか?」
あ、今貰えるわけじゃないのね。
というか、この世界にも麻があるのかッ?
「じゃあ、次は日用雑貨を見に行くかい?」
ああ、そういえばそんなことも言っていたなぁ。と言っても見るだけで買う予定は今のところ無いんですけどね。
そう言って大通りに並んでいる露店などを案内してくれた。
売っているのはランタンやロープ、背負い袋や水袋、火付け石などもある。あ、買わないって言ったけど水袋だけは買っておこう。
-3-
やって来たのは宿屋。冒険者ギルドからは結構距離があり、歩くのがキツかったです。俺の足の遅さに文句をまったく言わないウーラさん、ホント、人が出来ていると思います。
宿屋は木造二階建ての建物で一階が酒場になっているようだ。
自分が酒場に入ると酒場に居た人たちが驚いた顔でこちらを見る。はいはい、またこのパターンね。
「ああ、驚かないでくれ。彼は星獣様のランさんだ。今日、冒険者になったばかりなんだが、泊まるところを探していると言うことで、こちらの宿屋を案内した」
ウーラさんの説明も手慣れた物である。
それを聞いた酒場の住人達もそっか、って感じで普通に手に持った飲み物を飲み始めた。……順応早いなぁ。
俺は、そのままカウンターにいる女将さんの所までのしのしと歩く。
『すまない、星獣の氷嵐の主という。宿泊したいのだが』
とても恰幅の良い女将さんは念話に驚いたのか、一瞬変な顔をしたが、すぐにこちらに笑いかけてきた。
「ふーん、なかなか面白いねぇ。で、宿泊だったね。一泊5120円、身体を拭くお湯と食事ありなら10240円だね……それと馬小屋ならタダで良いよ」
最後の台詞はとても面白いことを言ったって感じに得意気だった。
「お、女将さん、彼はっ!」
うん? ウーラさんが慌てている。馬小屋がタダって普通じゃないのか?
「あはは、冗談だよ。それにそこの人は意味が分からなかったみたいだしね」
うーん? どういうことだ? というか、人……か。初めて自分を人扱いしてくれる人に出会えた気がする。星獣様って扱いはしてくれるけど、人扱いしてくれる人は居なかったもんなぁ。
俺は小金貨2枚を女将さんに渡す。
『これで8日分頼む』
「ふーん。食事有りを一週間分だね。わかったよ」
あれ? 8日分頼んだつもりなのに一週間になるの? 何か余分な手数料が取られるんだろうか? うーん、わかんないや。
「それじゃあ、部屋の鍵を渡すね。宿を出るときは鍵は返しておくれよ。帰ってきたときにはまた渡すからね。私は大抵ここに居るけど、私が居ないときはそこに居る娘の方に言ってくれれば良いからね」
そう言って女将さんは鍵を渡してくれた。女将さんはかなり恰幅の良い方なのだが、娘さんの方もかなりの横幅だった。うん、そっくりだね、間違えようが無いね。
「あー、それと食事はどうする? もう出した方が良いかい?」
『いや、今日は必要ない。明日からよろしく頼む』
食事に関しては時間が決まっているわけでは無く、頼めば作ってくれるのか。親切じゃないか。ま、今の状態で人の食べ物が食べられるかまだ試してなかったし、実験は明日ってことで。
「それじゃあ、ランさん、また明日」
ウーラさんが別れの挨拶を、と。
『明日はどうすれば良い?』
「あー。そうだね、昼過ぎに冒険者ギルド前に合流で」
『ウーラ殿、本当に助かった。明日もよろしく頼む』
ウーラさんは片手をあげて、そのまま宿屋から出ていった。多分、他に住むところを持っているんだろうね。
娘さんに案内されて二階の部屋に。そこはベッドがあるだけのシンプルな部屋だった。小物入れとか洋服掛けとかがあるわけじゃないのね。
はぁ……、しかし何というか、ホント、異世界に来たって感じだなぁ。明日からクエストをやって自分を鍛えて……冒険者の始まりだなぁ。っと、とりあえず食事をしよう。
手製の鞄から世界樹の葉の欠片を取り出す。
うー、食事食事。もしゃもしゃもしゃもしゃ。