11-20 コスプレしたい年頃かな
―1―
古都に入る。古い町並みは、古い人々の生活を――時代を偲ばせ心を癒やす。うーん、観光旅行で来たかったなぁ。でもさ、わざわざ、こんな車で走りにくい場所を通るってどういうことだ?
「何で、わざわざ、こんな場所を通るんだ?」
俺が迷彩服の男に話しかけると、巫女服の少女が少しだけむっとしていた。何だ、何だ? 余計なことは話すなってことか?
「それはですね、このルートが安全だからです」
迷彩服の男が説明してくれる。安全だから、か。そういえば、確かに外を歩いている人の姿は見えないが、どことなく人の気配を、生活感を感じるな。まだ無事な人たちがいるってことは、それだけ安全ってことだもんな。
「でも、失敗したかもしれません」
走っていた車が速度を落とす。前方には、こちらの進行を塞ぐように人々が集まり始めていた。まさか、狂った人たちか?
その集まった人々の中から一人のスーツ姿の偉そうな男が前に出る。
「止まりたまえ」
たまえ、だって。偉そうだな。
進路を塞がれた為、仕方なく車が止まる。ひき殺していけー、なんて言えないもんな。
「君たち、私を安全な場所まで運びなさい」
目の前の偉そうな男はネクタイを締め直しふんぞり返っている。何を言っているんだ、このおっさん。
「申し訳ありません。自分たちは任務中ですので」
迷彩服の男が偉そうなおっさんに真面目くさった顔で説明する。しかし、偉そうなおっさんはそれを無視する。
そして、すぐに集まった人々の方へと振り返る。
「皆さーん! 私が、この私が! 必ず、皆様の現状を伝えて、助けを呼んできます!」
偉そうなおっさんは大きな声で何やら勝手なことを言っている。そして、すぐに振り返り、こちらへささやく。
「ほら、何をしているんだ。早く、私を安全な場所に運びなさい」
だから、何で、そんなに偉そうなんだよ。
「何度も言いますが、自分たちは任務が」
「何を言っている! そんな変わった格好の民間人を乗せて、何が任務だ!」
偉そうなおっさんが、無理矢理、こちらの車へ乗り込もうとしている。こういう時にオープンカーって失敗だよなぁ。
「あのね。僕たちは……」
ゆらとがおっさんを押しとどめようとするが、おっさんの勢いは止まらない。
「私を誰だと思っている。そんな、コスプレを、コスプレを……」
偉そうなおっさんが巫女服の少女を指さし、コスプレ、コスプレとわめき散らしていたが、その言葉がどんどん小さくなっていく。どうした?
巫女服の少女が偉そうなおっさんに笑いかける。
「申し訳ありません。私たちは本当に急いでいるのです。皆様に説明していただけると嬉しいのですが」
巫女服の少女の言葉に偉そうなおっさんは何度も頷き、車から手を離す。
偉そうなおっさんの言葉で集まっていた人々が解散し、俺たちは、その場から離れることが出来た。
「いやぁ、顔の利く水無月さんがいて助かりました。さすがは旧家のお嬢さまですね」
古都を出たところで迷彩服の男が、そんなことを言っていた。おー、それで、あの偉そうなおっさんが引いたのか。となると、余程、力を持った大きな家柄なんだろうな。顔パスだもんな、顔パス。
……。
って、ん?
「旧家のお嬢さま、そんな呼び方はやめてください」
巫女服の少女は、少しだけ嫌そうにしている。
「いやぁ、そのおかげで助かりました。先行した隊が工作してたはずなんですが」
「さっきの人に裏で話を回した馬鹿がいるんだろうね。状況を考えて欲しいよ」
ゆらとは激おこだな。お金持ちとかさ、顔が利くと、こう、気を回して裏から手を回す馬鹿もいるだろうし、ホント、腐ってるなぁ。
って、そうじゃない、そうじゃない。
「なぁ、あんた良家のお嬢さまってことは、その格好……」
俺は巫女服の少女に聞いてみる。
「な、な、な?」
「いや、お嬢さまが巫女をしているとは思えないし、コスプレだったのかな、と」
俺の言葉に、巫女服の少女は言葉にならない言葉で怒りわめいている。おー、おー、何を言っているか分からないぞ。
「いや、まぁ、あんたの実力は実際に見ているから、俺は別にコスプレでも構わないんだけどさ」
「コスプレではありません!」
巫女服の少女は目を三角にして怒っている。いや、だから、俺は、別にどっちでもいいって言ってるんだけどなぁ。
「まぁまぁ、水無月さんの格好はいいじゃないですか」
迷彩服の男は車を運転しながら苦笑している。
「うむ。水無月家が古くからの巫女の家系なのは間違いない。ただまぁ、だからと言って無理に巫女の格好をする必要はないのだがな!」
修験者の格好をした大男はガハハハと大きな声で笑っている。
「円緋様まで何を言われるのです!」
巫女服の少女の怒りは収まらないようだ。
なんだかなぁ。
そんな、やりとりの後も車は走っていく。
「皆さん、そろそろ目的地です」
やっとか。基地から三時間以上……いくら、渋滞もなく、スムーズに進めたとはいえ、あー、一応、途中で面倒なことが起こったけど――それでも三時間だからなぁ。運転している人が一番疲れただろうけど、乗っているだけの俺も疲れたよ。
「む!」
修験者の格好をした大男が声を上げる。
「アルファも確認。フィア反応だよ。早速のお出ましだよ」
タブレットを操作していたゆらとが身構える。
やはり、杭の周りには敵が待っているのか。
「これが、人相手ならば説法を説くのだが」
修験者の格好をした大男が座席を上げ、その下に隠されていた錫杖のようなものを取り出す。
それにあわせたかのように、空に浮かぶ異形たちが見えてきた。それらは、背中の羽を羽ばたかせ、こちらへと迫っている。何体だ? 10くらいか? まるでカラスが迫ってきているみたいだな。
「ふんぬ」
修験者の格好をした大男が錫杖を投げ放つ。結構な距離があるはずなのに、その錫杖は、飛んでいる異形の一つに当たり、それを撃ち落としていた。
大男が座席下から次の錫杖を取り出し、投げ放つ。いやいや、それ、錫杖よりも槍とかの方がいいんじゃないか?
相手は空中だからなぁ。俺は攻撃の手段がないぜ。このおっさんに任せるしかないか。と、そういえば。
「合流予定の人は大丈夫なのか?」
「合流予定地はもう少しだけ先なんですが、この場所で襲撃されるということは、まずいかもしれません」
またか。瓜生みたいに敵に捕まってないといいけどな。
にしても、こちらの行動が読まれている感じだなぁ。