11-18 なんとか一段落、次への
―1―
装甲車が止まる。
「着きましたよ」
装甲車から降りた先――基地は無傷とは行かなかったようだ。所々に激しく戦った跡が、防衛していた跡が見える。基地を覆っていた鉄条網は崩され、破壊されている。さらに一部の建物も倒壊しているようだ。
「酷い有様だ」
俺は思わず呟いてしまう。だってさ、俺たちは何日も戦っていたって訳じゃないんだぜ。それこそ、数時間だ。数時間前は普通に――そう、普通だったのにさ。
「負傷者がいないか、それが心配だぜ」
安藤優はサングラスをあげ、心配そうな顔で周囲を見回していた。
「無形隊長」
北条ゆらと少年が呼びかける。
「本部へ行ってくる」
旧式の軍服の男――無形は小さく頷き、状況を確認する為、歩き出した。
「こりゃあ、無形隊長が戻ってくるまで待機かねー」
安藤優はサングラスを下ろし、肩を竦める。
「負傷者もいます。まずは施設に向かいましょう。隊長も状況を確認した後は、そちらに向かうはずです――まぁ、無事に残っていればですが」
迷彩服の女性が提案する。皆が頷き、そのまま動く。
俺も疲れちゃったしなぁ。今回、俺、大活躍だったよな。
たどり着いた建物の前には巫女服の少女が立っていた。
「おかえりなさいませ」
巫女服の少女の顔には隠しきれない疲れが浮かんでおり、ここでの戦いが激しいものだったと想像できた。出来るよなぁ。
「任務完了だぜ。そっちも背水の陣だったようだな」
安藤優が巫女服の少女の元へと歩き、ハイタッチでもするかのように手を上げる。しかし、巫女服の少女は大きくため息を吐き、それを無視する。
「無形隊長の姿が見えませんが?」
「隊長は状況確認と報告に本部かな」
北条ゆらと少年が手を上げたままの安藤優をどかすように前に出る。そして、その後ろには――
「ただいま、巴ちゃん」
迷彩服の女性の肩を借りた瓜生が手を上げる。
「瓜生様! ご無事だったのですね」
「ああ。今回は紙一重だったねー。彼がいなかったら危なかったよー」
瓜生は上げた手をひらひらと振っている。
「本当に、本当に」
巫女服の少女の瞳にはうっすらと涙が浮かんでいた。
「巴嬢ちゃん、まずは中へ入ろうぜ。話は、ゆっくりしてからだ」
皆で建物の中に入る。そして、そのまま病室へ。瓜生は、すぐに精密検査を受けることになる。
俺たちは、そのまま、その施設で休むことになった。
そして、次の日――無形がやってきた。
絶対安静の瓜生を除く、俺、無形、安藤優、北条ゆらと、巫女服の少女、作務衣の大男で集まる。
「次の命令だ」
無形が皆を見回す。それに答えるよう皆が静かに頷く。
「一週間待機だ」
その言葉を聞いた瞬間、安藤優が椅子から転げ落ちそうになっていた。
「いやいや、隊長、すぐに次の杭に向かうんじゃないのかよ」
無形はただ首を横に振る。
「負傷者も多いからのう。それがしたちは、ある程度、こちらの基地が動けるようになるまでは守らないと、な」
作務衣の大男は大きく笑っている。
「休暇、休暇と思うがよかろう」
そして、安藤優の肩に手を回し、叩く。力強く何度も叩く。
「いてぇ、折れる、折れるぜ!」
「それと、だ」
無形は二人のやりとりを無視して会話を続ける。
「正式隊員になってもらう」
無形が俺の前にやってくる。
「俺が、か?」
俺、民間人だぞ。いいのか?
「無形隊長、それは!」
巫女服の少女が立ち上がろうとするのを無形が片手で止める。
「元々、ある程度は自由に行動している裏方の隊だ」
無形は軍帽をあげ、俺を見る。
「この作戦の間だけでの臨時でも構わない。しかし、守秘義務は守ってもらう」
俺が正式に……か。まぁ、乗りかかった船だしな。どちらにせよ、この杭の全破壊までは付き合う必要があるんだしさ。
「分かった」
俺は静かに頷く。
「よろしく頼む。では、これで解散だ。次の指令は追って通達する」
それだけ言うと無形は部屋を出て行った。
「それだけ?」
あっさりしているなぁ。
「無形隊長は忙しいですからね。必要最小限を好むんですよ」
北条ゆらと少年は、俺の方を見ずに教えてくれた。
「よぉ、これからも頼むぜ、先輩」
安藤優が俺の肩に手を回してくる。なれなれしいなぁ。って、おい。
「誰が先輩だ、あんたの方が先輩だろ?」
そこで安藤優は指を振る。
「人生の先輩じゃねえか」
うわ、うっとうしい。
「改めてよろしく頼む」
作務衣の大男が拳をあわせ頭を下げる。
巫女服の少女は――俺と視線が合うと顔を逸らしていた。うわぁ、感じ悪いなぁ。
皆が部屋を出た後、俺のところへ北条ゆらと少年が近寄ってきた。どうした、どうした。何か嫌みを言いに来たのか?
「ちょっといいかな」
北条ゆらと少年は下を向き、何やら考え込んでいる感じだ。
「いいけど、どうした?」
北条ゆらと少年はすぐには答えない。少しだけ間を置き、意を決したように顔を上げた。
「槍の使い方を教えてくれないか」
槍の使い方?
「昨日の戦い……」
そこで北条ゆらと少年は口を閉じる。うーむ、何やら思うところがあったんだろうか。
「いいよ。教えるよ」
「本当か!」
北条ゆらと少年が嬉しそうに顔を上げる。
「ただし、俺のことは師匠って呼べよ」
俺がそう言った瞬間、嫌そうに顔を歪めていた。