11-13 なりそこないのいぎょう
―1―
用意されていた装甲車に乗り込む。装甲車の中は運転席と、俺たちが左右に分かれて座っている後部座席側を分ける敷居のような物はなく、開かれ繋がった状態だ。天井は低く立ち上がるのは難しそうだ。意外と狭いなぁ。
「現場近くまでの運転は任せてください。大船に乗ったつもりでいてくださいよ」
運転席に座っている迷彩服の男性が、笑顔でこちらへと振り返る。
「いいから、前を向いて運転してください」
「自分がきゅーちゃんの操作を失敗することはあり得ないです!」
その運転している男の言葉を聞いた、俺の隣に座った迷彩服の女性は大きくため息を吐いていた。
席順は、
左側に、旧式の軍服の男――無形、
その隣に、タブレットを操作している少年――北条ゆらと、
こちら側に迷彩服の女性、
そして、俺、
その隣、後部ハッチ側に、サングラスの男――安藤優が座っている。
「きゅーちゃん?」
「この装甲車に勝手に名前をつけて呼んでいるんです。馬鹿ですいません」
俺の隣の迷彩服の女性が謝っていた。何で、この人は俺の隣に座ったんだろうな。解説役でもしてくれるつもりなんだろうか?
装甲車には、俺から見える範囲には窓が取り付けられておらず、外の様子が見えない。うーん、何処をどう進んでいるか分からないなぁ。
俺の向かい側に座っている旧式の軍服の男は軍帽を深くかぶり腕を組んだまま動かない。もしかして、寝てる? 逆に、その隣に座っている北条ゆらと少年はタブレットとにらめっこして、何やら忙しそうだ。
そんな中、俺は、装甲車って思ったよりも揺れないなぁ、なんて考えながらぼうっとしていた。
暇だ。
と言って、俺、人見知りだからなー、会話もなー。
「到着です!」
装甲車が止まる。意外と早い。
旧式の軍服の男がゆらりと動く。
「3時間戻ってこないようであれば、撤退を」
旧式の軍服の男の言葉に、迷彩服の男女は無言で敬礼を返していた。
「無形隊長、周辺100メートルにフィアの反応はありません」
北条ゆらと少年がタブレットを操作しながら教えてくれる。それ、探知機か何かなのか? 100メートル内に敵の姿がないってことだよな? でもさ、100メートルって狭いよな? もうちょっと広い範囲で分かればいいのになぁ。
「分かった。しかし、ここは杭の近くだ。油断するな」
うむす。俺は真紅妃を握り直す。ちょっと緊張するなぁ。
後部ハッチが開く。まずはサングラスの安藤優が飛び降り、周辺を確認。そして、皆が降りる。
ここは――山か。
舗装された道は見えない。えーっと、山だな。木がたくさん生えていて先が見えないような、そんな山だな。あー、虫も多そうで、嫌な予感しかしない山だな。
「おいおい、大丈夫かよ。考え事か?」
サングラスの安藤優が心配そうにこちらを見る。
「怖じ気づいたのかよ?」
北条ゆらと少年は不機嫌そうな顔でこちらを見ている。いやいや、そうじゃないってばさ。
「山を登るんだな、って思ってな。道なき道を進んで迷子にならないか?」
俺の言葉を聞いた北条ゆらと少年は、こちらを馬鹿にしたような表情に変わった。
「心配しなくてもアルファがあれば、迷うことはないよ。ほら」
北条ゆらと少年がこちらにタブレットの画面を向ける。
『=P』
そこには顔文字が表示されていた。
『このさき右折です』
顔文字が表示されたのは一瞬で、すぐに周辺の地図と思わしき画像と言葉が表示される。もしかして、ナビ代わりか?
北条ゆらと少年は得意気だ。
にしても、山かぁ。
皆の格好を見る。山登りを想定したのか厚着だな。安藤優が持っている武器は、俺が知っている二本の西洋剣ではなく、鉄の棒が二本だ。山を登るのに西洋剣は邪魔だろうしなぁ。
北条ゆらと少年も普段の短槍よりもさらに短い槍を持っている。槍だと長いからな、木とかに引っかかると大変だもんな。旧式の軍服の男も登山の邪魔になりそうな武器を持っているようには見えない。まぁ、普段から何も持っていない感じだけどさ。
俺は真紅妃だもんなぁ。
槍だもんなぁ。
これ、木々を切り倒して、無理矢理進んだら駄目ですかねぇ。
「ほら、行くぞ」
サングラスの安藤優を先頭に山を登っていく。その後ろに北条ゆらと少年がつき、進行ルートの指示を出している。俺は、その後をついて行くだけだ。殿は旧式の軍服の男が務め、俺を護るように背後を警戒していた。
山を登り進め、その途中で北条ゆらと少年が皆に制止をかけた。
「ストップ。フィア反応だよ」
先頭を歩いていたサングラスの安藤優がすぐに振り返る。
「ルート上か……数は?」
「一つだよ。この反応、多分、なりそこない」
北条ゆらと少年の言葉に反応するように、前方から、それは――現れた。
ふらふらと歩き、こちらには気付いていないようだ。
それは、元が人だとわかる姿をしていた。
ただ、異様なのは、その顔半分から黒いウネウネと蠢く触手が生えていたことだった。
「ゆらと、何処だ?」
サングラスの安藤優は二本の鉄の棒を構える。
「わかりやすいように、あの黒いのが」
「わーった」
そのままサングラスの安藤優が駆ける。
駆けながら、二本の鉄の棒を左右に伸ばすように振るう。すると、その鉄の棒からスライドするように刃が生える。そのまま異形まで駆け、交差するように刃の生えた鉄の棒を振り払った。黒い触手が切断され、それにあわせて本体が、体部分が崩れ落ちた。そして、その崩れた体は、みるみるうちに白い粉の塊となり、着ていた服だけを残し、さらさらと風に飛ばされていった。
「何をしたんだ? 殺したのか?」
「瘴気の濃い部分、結晶化し始めていた部分を壊したんだよ」
「ああ、そうだな」
サングラスの安藤優も戻ってくる。
「殺した」
「人だったよな? 人だったんだよな? 助けることは出来なかったのか?」
「次の段階に移るでもなく、自我を失った人を救うにはこれしかない。だから、殺した」
そ、うか。
そうか。