11-11 少しは仲良くなろうかな
―1―
目が覚めると見知らぬ部屋に居た。えーっと、ここは……。
ああ、そうか。
思い出した。
昨日、案内された基地の部屋だな。疲れていたからか、案内されて、そのまま横になって眠ったんだった。俺にも個室を与えてくれるってのは、それだけ俺の力を期待しているってことだろうか。
俺は真紅妃を手に取り、部屋を出る。廊下は――まだ薄暗かった。
そのまま外に出る。早朝って感じだな。
ん?
おや? 少し遠くに、槍を持っていた少年、北条ゆらとの姿が見える。何やら一心不乱に短槍を振るっている。
俺は、その姿が気になり、なんとなく近寄ってみた。
「なんだよ、お前かよ」
こちらに気付いたのか、北条ゆらと少年は短槍を止める。なんだか、素っ気ないなぁ。
「朝から精が出るな」
北条ゆらと少年は、ふんって感じでそっぽを向く。うーん、なんだか嫌われているなぁ。
俺は北条ゆらと少年を真似て真紅妃を振るってみる。うーん、こうかな?
突き、
払い、
叩きつけ、
――連続突き。
ひゅんひゅんひゅん。
俺が振るった真紅妃は北条ゆらと少年と音が違うようだ。何だろう、俺の真紅妃は風を斬ってる感じだが、北条ゆらと少年の時は風を押しのけているって感じだな。
俺は何回か真紅妃を振り回し、そのまま地面に突き刺した。うーん、疲れた。俺も歳かなぁ、すぐ疲れちゃうぜ。
ん?
見れば北条ゆらと少年が驚いた顔でこちらを見ていた。しかし、俺が見ていることに気付いたからか、すぐに視線をそらす。ふーん。
「なぁ、ちょっといいか? 槍をこう握ってだな……」
「ぼ、僕は流派の……」
「いいから、いいから」
この北条ゆらと少年って、多分、名のある槍の流派で習っている感じなんだろな。だって、流れが、型がきれいだもん。でもなぁ、俺が見るに、あまり実戦向きの流派って感じじゃないんだよなぁ。
「それで、こう」
俺は真紅妃を握り直し、突きを放つ。
それを見た北条ゆらと少年がうさんくさそうにこちらを見ながら真似をする。
「あれ……?」
北条ゆらと少年の槍がうなりを上げる。先ほどまでのかわいらしい音とは違う、実戦の音だ。
「な?」
北条ゆらと少年は感覚を確かめるように何度も突きを放つ。
「まぁ、慣れてない型をいきなり実戦で使うと失敗するって聞いたことがあるから、無理しなくていいぜー」
「それくらい知っている! 僕を誰だと思っているんだ!」
北条ゆらと少年は顔を真っ赤にして怒っていた。あー、はい。
「ふん、そろそろ朝ご飯の時間のはずだよ。お前は、ご飯を食べてきたらいい!」
はいはい。
俺は後ろ手に手を振って、怒っている北条ゆらと少年の場所から去ろうとして、立ち止まった。
「えーっと、すまん。何処に行けばいいんだ?」
「っ!! 昨日、雷月英さんと会った建物は分かる? その三階だよ」
北条ゆらと少年は怒っていた顔を引っ込め、呆れた顔をしていた。
「はいはい、ありがとさん」
ここに来るのは初めてなんだから、知らなくても当然じゃん。まぁ、素直に教えてくれたのはありがたいけどさ。にしても、今回はちゃんと建物の中なんだな。何で、昨日は外だったんだろうなぁ。
少し迷いながらも昨日の建物にたどり着き、中へ入ろうとすると呼び止められた。
「あなたの階級と身分証の提示をお願いします」
えーっと、階級なんて持ってないし、身分証もないぞ。運転免許証じゃ、駄目かな?
「その方はいいのよ」
しかし、もう一人、見知らぬ女性が現れて、すぐにオッケーが出た。何だ、何だ? 俺って顔パスなのか?
「どうぞお通りください」
そう言って敬礼を返してくる。いや、何だ、これ。
俺は少し照れくさくなりながらも三階へ上がる。そのまま適当に色々な部屋をあさり、食堂らしき場所へと入る。
「お! 良かったぜ!」
そこには朝っぱらからサングラスをかけた安藤優と巫女服の少女、作務衣の大男がいた。
「お部屋におられなかったので、少し心配しました」
巫女服の少女が、全然、こちらを心配していない顔で、そんなことを言っていた。毎日、巫女服に着替えるの大変じゃないかなぁ。私服とか持ってないのかな?
「後はゆらとだけだな」
あー、北条ゆらと少年か。
「北条ゆらと少年なら、外で槍の練習をしていたよ」
俺が言うと、サングラスの安藤優は、楽しそうに口元を歪めていた。
「ま、作戦会議までには来るか。とりあえず、あんたも飯にしようぜ」
ま、飯だよなぁ。
朝ご飯は、白米と缶詰に入った魚の煮付け、それに海苔だった。うーむ、シンプル。それでも食べられるだけ、マシかぁ。
「そう嫌そうな顔しなさんなって。今は時期が時期だから、さ」
そう言ったサングラスの安藤優自身が嫌そうな顔で食事をしていた。サングラスをしていて食べにくくないのか?
もしゃもしゃ。
「この事件が終わったら、あんたが、俺たちを、美味しい料理を出す店に案内してくれよ」
「何で、俺が」
案内するのはそっちの方じゃないのか?
「あんたの方が年長だろ? 美味しい店を知ってるんじゃないか?」
年の功って言いたいのか?
「そうです」
巫女服の少女もクールな顔のまま、同意している。
「それなら、年長者として、それがしが案内しよう!」
作務衣の大男が楽しそうに笑っている。
「いやいや、円緋のおっさん、どうせ精進料理とかだろ? 食べた気にならないぜ」
サングラスの安藤優が肩を竦めていた。
やれやれ、まぁ、この事件が無事に終われば――平和になれば、こいつらを行きつけの定食屋に案内するのも悪くないか。