11-7 第七魔導分隊って、何だ
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「存外、手応えのない輩だったのう」
作務衣の大男がガハハッハと大きく笑いながら戻ってくる。いやいや、おかしいだろ、おかしいよな?
「その力は何なんだ?」
俺は作務衣の大男に食ってかかるように聞いていた。とてもではないが、納得できる力ではない。
「それがしの力? これが御仏の加護よ」
作務衣の大男は、それで全て説明出来ると言わんばかりに笑っている。いや、ホント、何なんだ?
この作務衣の大男の人間離れした馬鹿みたいな膂力、それに、あそこにいる巫女さんは奇妙な術を使うし……。
「第七魔導隊とは何なんだ?」
俺の言葉を聞いた頭の薄くなっている妖しいおっさんは、こちらを見て、ねっとりとした視線を送り、あらーんと呟いていた。いや、その説明が……。
「むかしむかし――」
困っている俺に気づいたのか、旧式の軍服の男が大きなため息を吐きながら口を開く。
「私が説明します」
しかし、それに巫女服の少女が待ったをかけていた。もうね、説明してくれるなら誰でもいいよ。
「今回の騒動の元となっている隕石から生じている瘴気――それは量、規模の違いはあれ、昔から存在しているものでした」
瘴気が昔から?
「瘴気は人の世を歪め、変質させ、鬼や妖怪といった存在を生み出します」
ん? ちょっと待て、ちょっと待て。妖怪と言ったか?
「神話や昔話など、物語の中でしか存在しないと思われていた、それらは、一部、本当に存在していたのです」
全てではないが、妖怪などが実在している――いた?
「それら世界の歪みを、鬼や妖怪を陰ながら屠ってきたのが私たちです」
妖怪や鬼を退治してきた部隊ってことか?
「そうね。かつては朝廷の花形官職として表舞台で、瘴気の減った今は、裏の世界で秘密裏に」
妖しいおっさんが、こちらへとウィンクを飛ばす。
「化け物を相手するには、それ相応の力が必要になる」
旧式の軍服の男は室内でもかぶったままの軍帽を深くかぶり、ニタリと笑った。
人外を相手する為の秘密部隊が、第七魔導隊ってことか?
『:)』
「あらん、基地が見えてきたわ。無事なようね!」
妖しいおっさんが嬉しそうな声を上げる。
ん?
左手に島、右手に本土……って、もしかして、ここって。おいおい、かなり南下しているんじゃないか? 勝手にこんなところまで――俺、どれくらい気絶していたんだ?
「入港する。準備を」
白い制服の男が指示を出していく。
そして、この船は港へと入港し、俺はそこで下ろされた。一緒に降りたのは、この妖しいおっさんと第七魔導隊の連中だけだ。白い制服の男や艦を操作していた面々は残るようだ。
「こっちだ」
旧式の軍服の男の案内で、用意されていた装甲車へと乗り込み、基地を走り、一つの建物へと案内される。面倒そうな手続きなどは全て、彼らがやっている。俺は、ただ、流されるままについて行くだけだ。
施設に入ると、一人の女性が現れた。
「彼女たちはこちらです」
「話は出来そうか?」
旧式の軍服の男の問いに、女性は頷いて答える。にしても、こちらの面子はかなり妖しい姿の連中ばかりのはずなのに、顔パスなんだな。いくら、同じ組織に居るって言っても裏で活躍している、うさんくさい連中なんだろ? 少しは――ああ、そうか。この基地内にある、この施設が、この連中の為の施設なのか。それなら顔パスも納得できるな。
「彼女たちは個室ですが、どちらから会われますか?」
個室なんだ。結構、偉い立場だからって、ことなのかな? にしても、彼女、か。会うのは女性ってことだよな?
「まずは、そうだな。雷から頼む」
女性は頷き、施設を案内する。その途中、開かれた部屋を見るとパイプベッドが並べらんでいた。そして、その並んでいるパイプベッドの上では包帯を巻いた人たちが――って、ここ、医療施設か何かか?
案内されたのは、施設の奥まった場所にある、小さな部屋だった。
俺たちが部屋の中に入ると、ベッドの上から上体を起こした女性がこちらを待ち構えていた。
「やはり、隊長たちでしたか」
細身で長身の女性。
「気づいていたか、さすがだな」
旧式の軍服の男の言葉に細身の女性は大きなため息を吐いていた。
「お世辞はやめてください。それよりも隊長、見知らぬ足音が混じっていましたが……」
その女性の長く伸ばした黒髪の上には異質な物がのっていた。
「新しく隊に加わるかもしれない者だ」
「瓜生の代わりに?」
細身の女性は首を傾げる。
「その辺りの事情を知りたい。まだ、こちらには全ての情報が来ていない」
「そうだったのですね」
細身の女性の頭の上のそれが、ピクピクと動く。俺が女性のそれを見ていることに気づいたのか、彼女が俺の方を見る。
「いや、そうだな。その前に、自己紹介を」
旧式の軍服の男も俺を見て、そして細身の女性に自己紹介を促す。それを聞いた細身の女性は頭を下げ、こちらに笑いかけてくる。
「私は雷、雷月英。見ての通り鬼憑きよ」
女性の頭の上には、うっすらと毛の生えた動物の耳がのっていた。カチューシャなどのファッションではなく、本当に獣耳が生えているってことか!?