11-5 始まりのアルファと邂逅
―1―
「では、こちらね」
頭の薄くなっているおっさんが案内を始めようとする。しかし、それを白い制服の男が慌てて止める。
「ま、待ってください。あそこには……」
「何言っているの! これから仲間になってもらおう、協力してもらおうって相手に隠し事して! それで信じてもらえると思ってるの!」
頭の薄くなっているおっさんの言葉に白い制服の男は、しぶしぶという感じで手を止める。この頭の薄くなっているおっさんが、ここでは一番偉いみたいだな。この艦の艦長よりも偉いのか。
「改めて案内するわ。こっちよ」
頭の薄くなっているおっさんが狭い艦内を案内する。しかし、窓がない船だな。軍隊が使う船って、こんな感じなのかなぁ。窓がないって気が滅入りそうなんだけどさ。
「これから案内するところは艦橋ね。もう一個上の階にあるの」
向かっているのは艦橋か。にしても、このおっさん、何というか。
「TVの国会中継でお姿を見たことがあるような気がするんですが」
俺の言葉に頭の薄くなっているおっさんは頷く。
「本人よ」
いや、しかし……。
「テレビと印象が違うって言いたいのでしょうね」
そうなんだよな。テレビではもっと常に不機嫌そうで、怒ってそうな顔をしているイメージしかないんだよな。だから、最初、すぐには分からなかったし、それに、こんな妖しい言葉遣いもしていないしさ。
「政治家はね、なめられたら終わりなの。だから、隙を見せないように気を張っていないと駄目だし、簡単に謝りはしないわ。演技をしないと駄目なのよ。本当の私は、こんなにもチャーミングなのにね」
チャーミングって。頭の薄いおっさんが使っていい言葉じゃない気がするなぁ。ただ、この人は悪くない人に思えるな。
しばらく狭い艦内を歩く。
「さあ、ここが艦橋よ」
頭の薄くなったおっさんが案内したそこは、船の操縦席というか、座席だけが並んだ場所だった。やはり窓はない。
「何もないように見えるが?」
と、その瞬間だった。
空間に四角い枠が現れる。その枠の中には顔文字が浮かんでいた。
『=)』
えーっと。何だ?
『=P』
顔文字はころころと文字を変える。
「アルファ、TT通信の状況は?」
『透過率70%・良好です』
白い制服の男の言葉にあわせて顔文字が文字に変わる。な、何だ? ま、まさか。
「すまない、一つ確認してもいいだろうか?」
「いいわよ」
「アルファは人か?」
俺の言葉を聞いた頭の薄くなっているおっさんはニコリと笑う。
「ご明察、人工知能よ」
う、嘘だろ? 人工知能って、実用化しているのか? いや、俺が知らないだけで陰では結構当たり前にって感じなのか?
『=D』
俺が見ている間も顔文字はどんどん変わっていく。
「アルファ、彼は新しいマスターの一人よ。と言っても、まだ候補――うーん、そうは言っても非常に有力な候補よ」
『よろしくお願いします、マスター』
ちゃんと会話している、だと。真面目に人工知能なのか? 裏でおっさんが演技しているとかじゃないのか?
「会話出来るのか?」
頭の薄くなっているおっさんは意地が悪そうに笑う。
「もちろんよ。まだ学習途中とはいえ、ちゃんと、言葉の意味を理解し、反応を返してくれるわ」
『;)』
え、エスエフだ。エスエフの世界が目の前にある。
「アルファはね、今後は、そのコピーたちを作業ロボットに入れて、現場での判断が出来る作業機械を作る予定もあるのよ!」
『子供たちが活躍するのが待ち遠しいです』
すげぇ、すげぇよ。俺、凄い感動したよ。そのうち、相棒感あふれる人型決戦兵器とか作られる可能性が出てきたってことだよな! 浪漫があるなぁ。
って、もしかして。
「アルファは、この艦の制御も行っているのか?」
この何もない場所が艦橋で、さっきの部屋での、船の装置を動かしていたようなやりとり、間違いないよな?
「そうよ」
やはり、か! だから、白い制服の男は見せたくなかったんだろうなぁ。いや、でも、だったらさ。
『(:-』
「この艦の名前、アマテラスだったよな?」
「そうね?」
頭の薄くなっているおっさんは首を傾げる。
「なら、なんで、名前がオモイカネとかじゃないんだよ!」
「あら! 神話を知っているの? そうよねー、でもアルファは私たちとは畑違いだったから……でもでも、最終兵装ヒノカグチなんてものを搭載しているわよ!」
最終兵装?
『:p』
「ばらさんでください」
白い制服の男が頭を抱えていた。
「あー、あの自爆兵器な」
うさんくさいサングラスの男がそんなことを呟いている。あー、これは、使ったら終わり的な酷い兵器な予感しかしない。
「と、遊んでいる場合じゃなかったわ! 本郷君!」
頭の薄くなったおっさんの言葉に白い制服の男が敬礼を返す。
「アルファ、基地に通信を、浮上する!」
『;)』
浮上?
「まさか、この艦って潜水艦なのか!?」
しかし、俺の言葉に頭の薄くなったおっさんは指を振る。
「少し、違うわね!」