11-3 そんなことあり得るか?
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「この建造物が現れた後だよ、フミチョーフ・コンスタンタンからの犯行声明があったのは!」
白い制服の男は怒りが抑えられないのか、強く拳を握りしめているのが、薄暗い部屋でもはっきりと分かった。そっかー。しかしまぁ、犯行声明を行うなんて、そのタンタンは自意識が過剰なのか?
「そいつは何て言っていたんだ?」
どんな犯行声明を行ったか、だよな。
「人類の再生と解放のための儀式を始める、だ」
サングラスのうさんくさい男が吐き捨てるように呟く。再生と解放? 何というか宗教的というか、または狂人って感じだな。
「しかし、この状況で、どうやって犯行声明を行ったんだ? 手紙でも届いたのか?」
手紙なら愉快犯の可能性もあるよなぁ。
「私と二夜子様が調査の為、現場に居ました。そこを襲撃され、私たちはなんとか逃げ延びることが出来たのですが……」
なるほど。まぁ、話は分かる。実際に会って、会話したって言うのなら確実だろうな。でもさ、襲撃され、って、そんなよく分からないおっさん? 多分、おっさんだよな? に襲われたくらいで、逃げ延びるとか、大げさじゃないか?
「そのフミタンタンって、何者なんだ? そこの巫女服の子が怖くて逃げるような大男だとでも言うのか?」
大男だって言うのなら、そこに居る、作務衣の男も、恐ろしいほどの巨漢だけどさ。
「な、失礼な!」
巫女服の少女がクール系ぽい外見からは想像できないくらいに怒っている。そんな怒ることなのか?
「フミチョーフ・コンスタンタンは、ただの科学者だ。いや、だった者だな」
は? 科学者? 悪の科学者とか、そんな感じなのか?
「元々は身体に障害を持った人たちの生活をサポートする為に、その技術を研究していた科学者であり、技術者だ」
「その技術者? 科学者が何でこんなことをしたんだ?」
その隕石を落として、瘴気をばらまいたとか、突然、思いついて出来る行動じゃないよな? 一科学者にそんなことが出来るのか? 背後に宇宙人でもいて、謎のぎじゅつりょくで、なんとかしているのか?
「その理由までは分かっていない」
まぁ、そうだよな。
「まぁ、理由はいいよ。どうせ、分かったところで碌でもない理由だろうからな。それよりも、だ。何故、そいつを放置しているんだ?」
要は国に喧嘩を売ったんだろ? そんなのさ、国の威信にかけてミサイルなり、何なりをぶち込んだら終わる話じゃん。今の、この国の現状を立て直す為にも早く元凶をなんとかするべきじゃないのか?
「あさはかだなぁ」
槍の少年が、こちらを馬鹿にするように呟いていた。わざと聞こえるように呟いたよな? このくそガキ。
「ゆらと、口を慎め」
うさんくさいサングラスの男が槍の少年を窘めていた。おや、意外としっかりしているんだな、うさんくさい感じなのに。
「自分たちが、いや、我々が何もしなかったと思うかね?」
なるほど。なんとなく話が読めてきた。
「ミサイルなどは誘導性を失い、不発に終わる。そして、それ以前に、だ。隕石の周囲にはバリアが張られており、人や物を通さない」
バリア? 何だよ、バリアって。
「バリアとは?」
「防御膜と言った方がわかりやすいかな? 例の隕石の周囲を覆うように膜が作られているのだよ」
「それを人が乗り越えようとするとどうなるんだ?」
「蒸発するだろう」
は? 蒸発? おかしいだろ。
「熱とか振動とか、そういう、何かで対応出来ないのか?」
「試さないと思うかね? あれは、あらゆる物を遮断する」
はぁ? そんなの現代の科学力で作れるのか? そんなん作った国があれば世界が征服出来るんじゃないか? あり得ないだろ!
「アルファ、二枚目から五枚目を拡大してくれ」
白い制服の男の言葉にあわせて、残りの映像が拡大される。
……。
これ、杭だよな?
「杭に見えるが、これは?」
「そのものズバリ杭だぜ」
そうか、杭なのか。で?
「あの隕石とあわせて降ってきた物だ。この杭から何かのエネルギーを吸い上げているらしく、それを隕石に送って、防御膜を作る為の燃料にしているようなのだ」
え? つまり?
「その杭を壊せば、隕石へ、そのフミタンタンとやらをとっちめに行けるってことか?」
「その通りだ」
いやいや、その通りだ、じゃないだろ。そこまで分かっているなら、何で何もしないんだよ。
「何で、杭を壊さない」
「我々の技術力では壊せないのだよ」
壊せないって、そんな無茶な。あり得ないだろ。
……。
にしても、この白い制服の人もそうだけど、俺に対して凄い気を遣っているというか、聞けば、答えられる範囲は答えてくれるし、何なんだ? まぁ、巫女服と槍の少年だけは、こちらを敵対視しているようだけどさ。
「そこで君にお願いがある」
あー、うむ。
「君の持っている槍ならば、あの杭と同じ物質である、その槍ならば、杭を壊せるだろう」
あー、うむ。
「杭までの護衛は自分たち第七魔導隊が行う」
さっきまで黙っていた旧式の軍服の男が口を開いた。あー、うむ。
「協力してもらえないだろうか?」
あー、うむ。
「見返りは?」
俺が、その言葉を吐いた瞬間、巫女服の少女がこちらをにらんできた。しかし、それを白い制服の男と旧式の軍服の男が止める。
「世界を救ったという名誉――そして、今後、遊んで暮らせるだけの生活を保障しよう」
お約束だなぁ。これ、全てが終わった後に真実を知った人間だって暗殺とかされるんじゃないか?
「聞いてもいいか?」
「答えられる範囲ならば」
「どうして、真紅妃なら、その杭を壊せると判断したんだ?」
俺の言葉に白い制服の男は一瞬考え込んだ。
「ああ、その槍のことか」
真紅妃ってのが伝わらなかったのか。
「理由を教えることは出来ないが、アルファの計算でも百に近い可能性を示している」
うーむ。
「なら、何故、俺が気絶しているときに奪わなかったんだ?」
そうだよ、いくらでも奪えただろうに、さ。
「君が気絶すると同時に、その槍も活動を停止してしまった。その状態では杭を壊すことは出来ないだろう」
活動を停止した? そうか、真紅妃は生きているもんな。俺以外だとやる気が出ないんだろうな、うんうん。
「ちなみに拒否権は?」
「できる限り、君自身の意思で協力してほしい。これは、この国に住む、国籍を持つ者としての義務と思ってほしい」
うーん。
これは、どうするべきなんだろうなぁ。